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理解したつもりという傲慢

よろしくお願いします。

 乗り込んできたツェーザル様はその勢いのまま、クララ様の元へ行き、抱き締める。


「ああ、よかった……! 急いで後を追おうにも足がなかったから遅れてしまったが。まさかミュラーに来るとは思わなかった。大丈夫か? 奴らにいじめられなかったか?」


 その言い草。そこまで追い詰めたのはあなたでしょう。責任転嫁も甚だしい。それにいじめられた? クララ様は立派な大人の女性だ。子どもに尋ねるような口調だから、聞いてて沸々と怒りがこみ上げてくる。


 それはクララ様も同じだったようで……。


「いい加減にして!」

「クララ?」


 クララ様はツェーザル様の腕を力一杯振りほどくと、ツェーザル様を睨みつけた。


「私は子どもじゃない! どうしてわかってくれないの!?」

「……っ、わかってる! 俺はただ、お前を守りたいだけだ!」

「守りたい? だけどあなたがやってることは私を傷つけるだけ。私は一方的に守られたいわけじゃない。これじゃあ私はあなたを一生理解なんてできない……!」


 クララ様の目から再びポロポロと涙が零れ落ちる。ツェーザル様はわかりやすいくらいに狼狽えて、クララ様の涙を拭おうとした。だけど、クララ様はそれさえも嫌がってツェーザル様の手を叩いた。


「やめて! 私は会話をしたいの! お願いだから私の言葉を無視、しないで……」


 クララ様の言葉尻が小さくなり、ぐらりと上半身が傾ぐ。ツェーザル様が受け止めるかと思いきや、叩かれた手を見て呆然としている。


 ……もう!

 何が守りたい? 妻が倒れそうだというのに、拒否されたことに衝撃を受けて動こうともしない。心底見損なった。


 いち早く動いたのはバルドウィン様だった。椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がると、クララ様の上半身を支えてほっと安堵の息を漏らす。


「……おい、ツェーザル。クララ様をベッドに寝かせた方がいい。私が運んでもいいのか?」


 バルドウィン様の言葉に、ツェーザル様は力なく首を振る。


「……いや。嫌がられても俺がする。したいんだ……」

「それなら任せた。メラニー、客室の用意を頼めるか?」

「ええ。任せてください。あと、着替えも必要ですね。私と体格は似ているようなので、私の部屋着を用意します」

「ああ、頼む」

「メラニー、わたくしもお手伝いいたしますわ。ツェーザル。クララ様は今日、お食事を取られたの?」


 そういえば私たちも朝食時にクララ様が来てそれどころでなくなったのだった。ツェーザル様は戸惑いながらも答える。


「いや、食べていない。最近はめっきり食欲も減ってしまったみたいで昨日もあまり食べていなかった……。俺の、せい、なのか?」


 ユーディット様は眦を釣り上げた。


「わかっていたのならどうしてもっと話を聞いてあげないのです! 実家にも頼れないからと、クララ様はこちらに駆け込んできたのです! なのにあなたは……!」

「ユーディット様、今はそんなことを話している場合では……。食欲も減っていたということなら、お医者様をお呼びした方がいいかもしれません。バルドウィン様、そちらはお願いします」

「ああ。すぐ手配する」


 そうしてそれぞれが急いで手配をしたのだった。


 ◇


 意識がなくベッドに横たわるクララ様の手を握って、ツェーザル様がポツリと呟く。


「……心配させたくなかったから黙っていた。それは間違いだったのか?」


 それにバルドウィン様が答える。


「いや。お前の気持ちは何となくわかるが、その気持ちは間違いではない、と思う。間違っていたのはやり方だろう。クララ様と話したが、彼女は自分の知らないところで全てが完結していたのが許せなかったようだぞ。知っていても知らなくても心配することに変わりないのなら、教えるのも愛情なのではないか?」

「お前に言われなくても……」


 バルドウィン様をライバル視しているツェーザル様だから素直に聞き入れるとは思わなかったけど、反論する言葉は力ない。きっとバルドウィン様の言っていることも理解できるからだろう。


 私も以前はツェーザル様と同じことを考えていたから気持ちは痛いほどわかる。


「……私も以前はツェーザル様と同じように思っていました。何も言わずに心配事から遠ざけて、何の憂いもなく過ごさせることが守ることだと。ですが、相手がそれを望んでいない場合、自己満足にしかすぎないのかもしれません。少なくともクララ様はそれを望んでいません。クララ様を愛しているのなら、クララ様を信じてちゃんと話した方がいいと思います」

「俺はクララを信じている」

「本当に?」

「もちろんだ」

「じゃあ何でも話せますよね?」

「いや、それは……」


 ツェーザル様は言葉を濁す。それが駄目だからクララ様は飛び出してきたというのに、ツェーザル様はまだわからないようだ。バルドウィン様がため息をつく。


「それを聞いて傷つくかどうかなんて、本人にしかわからないだろう。クララ様本人が知りたいと言っているんだから話せばいい。それでクララ様が傷ついたら寄り添えばいいんじゃないか? 夫婦なんだから。先回りして相手の気持ちをわかったつもりで会話をしなくなると、今に取り返しがつかなくなるぞ。そうなってからでは遅い……と、以前人から聞いた。私も結婚したばかりだからわからなかったが、お前たち夫婦を見ていて納得したよ」

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何事も、はっきりと言葉にしないと伝わらないものですからね…
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