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認めざるを得ない気持ち

よろしくお願いします。

「バルドウィン様、クララ様と約束していたんですか?」

「いや、私は約束していない。そもそも既婚女性と二人で会うわけがないだろう。しかもツェーザルの愛妻だ。ユーディット、約束していたのか?」

「いえ、わたくしとクララ様は没交渉ですし。あの脳筋男の嫁っていうだけで関わりたくありませんもの」


 脳筋男。言い得て妙だ。問答無用で攻撃してくるツェーザル様にはぴったりだけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「それでクララ様は何と?」


 私が尋ねると、執事は言葉に詰まりながらも答える。


「それが、よくわからないのです……。泣きながら話はされるのですが、要領を得なくて」

「泣きながら……? バルドウィン様……」


 よくはわからないけど何かあったようだ。バルドウィン様を見ると頷いてくれた。


「ああ、会おう。ツェーザルなら問答無用で締め出すところだが、もしかしたらクララ様はツェーザルに何かされたのかもしれない。あいつならやりかねない」

「ええ、そうですわね。女性に無体なことをするなんて……。どこまで最低なのかしら、あの男!」


 いやいや、まだ何もわかってないでしょうに。ツェーザル様は日頃の行いが悪いらしい。始まる前から悪者決定……。


 こういう時、ユーディット様とバルドウィン様は似ているなと思う。二人とも思い込みが激しい。


 憤慨する二人を宥めながら、執事にクララ様をお連れするように指示をした。


 ◇


「も、もうしわけ、ありません……っく。ほか、に、たよれるひとが、おもいつか、なくって……うっ」

「いいんです。落ち着いたらお話を聞きますから。とりあえずお茶でもどうぞ」

「……っ、ありがとう、ございます」


 食堂に案内されたクララ様は、わかりやすく取り乱していた。憔悴しきった顔に、真っ赤に腫らした目。嗚咽混じりに話すからか、言葉が聞き取れなくて困った。


 とりあえず落ち着かせることが先決だ。クララさまは私が促すままにお茶を飲んで、しばらく黙り込んでいた。


「それでどうしたんだ? 先触れも無しにこちらに来るからには何か大変なことがあったんだろう?」


 バルドウィン様の言葉にクララ様ははっと目を見張り、俯く。


「あ……そうですよね。先触れも無しにお邪魔するなんてやっぱり私は抜けています。だからツェーザルも私に相談してくれないんでしょうか……」

「相談って、何をですの? というか、あの男にひどいことをされたわけではありませんの?」


 ユーディット様はまだツェーザル様が何かをしたと思い込んでいるようだ。眉間に物凄い皺が寄っている。

 クララ様は顔を上げることなく、力なく首を左右に振った。


「……違います。むしろツェーザルは私を守ろうとして、私には何も言わずに事を進めるんです。クララのためだと言って……。今度のこともそう。ツェーザルが、とある方に暴力を振るったそうなんです。その方が我が家に乗り込んできまして……。私は暴力なんて、と注意をしたのですが、聞く耳を持ってくれなくて。後で知人に聞いたら、その方は私や実家のことを悪く言ったそうで、怒ったツェーザルが暴力を振るったと……」

「まあ。あの男、いいところもあるではありませんの。見直しましたわ」


 感心するユーディット様に、クララ様は食ってかかる。大人しそうな彼女にしては予想外の反応だ。


「それのどこがいいところなのですか。私はそんなこと望んでいません! 私の実家は事実、成金貴族ですから悪く言われるのは慣れています。そんなことよりも、私のせいでツェーザルの評価が下がることの方が辛いんです……。それに、理由を話してくれなかったことも。私はわからないように守られなければならないほど、弱い存在なのでしょうか? 

 ……足を引っ張るだけの私なら、もう一緒にはいられないって喧嘩になってしまって……」


 クララ様の言葉に、私は弾かれたようにバルドウィン様を見てしまった。これに似た話をバルドウィン様としたばかりだった。体調が悪い時だったけど、しっかりと覚えている。思わず言葉が口から漏れた。


「……愛してはいるけれど、信じてはいない、ということですか……」


 バルドウィン様も私を見返し、真剣な表情で頷く。バルドウィン様が言いたかったのはこういうことだったのだ。


 ツェーザル様はよかれと思ってクララ様を守るために隠れて動き、後からそれを知ったクララ様は傷ついた。お互いの愛情のかけ方が違う故にすれ違う。


 私もツェーザル様と同じだった。傷ついているクララ様を実際に目の当たりにして、自分がいかに傲慢だったか気がついた。


 ──バルドウィン様、教えてくださってありがとうございます。


 じっとバルドウィン様を見ていたら、たまらない気持ちになった。感謝や嬉しい気持ちだけでなく、愛おしいような、なんとも言いがたい気持ち。人として尊敬しているから? もちろんそれもあるだろうけど、それとはまた違うような──。


「ちょっとお二人とも。わたくしとクララ様もここにいることをお忘れではありませんか?」


 ユーディット様の言葉に引き戻された。ユーディット様の言う通り、バルドウィン様しか見えてなかった。これって……。


 ブワッと顔に熱が集まる。認めたくなかったけど、これはもう認めるしかないのかもしれない。


 ──私は、バルドウィン様が、好き、なんだ──。

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく……ようやくですね……!!
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