姑ユーディット
よろしくお願いします。
こうしてユーディット様がミュラー邸に滞在することになって四日経ち、一気に賑やかになった。ユーディット様自身が賑やかだからということもあるのだけど、そのユーディット様に喧嘩を売りにわざわざエルンスト様が来るようになったのだ。
もちろん約束をしているわけではないから、ユーディット様が出かけていることも。すると、エルンスト様はソワソワしながら私に尋ねるのだ。「あの女は?」と。
気になるなら初めから約束をすればいいのに。そう言うと、「別にあいつに会いに来たわけじゃない」と、ただ私やバルドウィン様に愚痴って帰るのだ。
本当に何をしに来ているのやら。
面倒臭いので、ユーディット様にアーレンス邸に行くように頼むのだけど、「わたくしにはそんな義理がありません」と断られる。
素直じゃない人たちの恋愛はこうなるのか、と勉強にはなった。だけど、それだけだ。見ていて焦れるのでとっととくっついて欲しい。
だけど、そう思っていたのはこちら側だけではなかったようで──。
◇
「後継はまだできませんの?」
ユーディット様の爆弾発言に、バルドウィン様の口からお茶が飛んだ。三人揃って優雅にお茶会をしていたというのに、バルドウィン様、汚い。魔法を使うのも面倒なので、とりあえずかからないように自分のカップを持って避ける。控えていたメイドが前に出てさっと机を拭いてくれた。さすがだ。
「バルドウィン様、やめてくださいよ。お茶がまずくなるじゃないですか。それに、ユーディット様。あなたはいつから私のお姑さんになったんです?」
以前母から聞いたことがある。嫁いだら相手方の母親からそういった洗礼を受けるのだと。まさかユーディット様からくるとは思わなかった。
ユーディット様はやれやれと肩をすくめる。
「これは嫌味ではありませんわ。何というか、あなた方を見ていると、お年寄りの夫婦にしか見えないのです。健全というか、枯れているというか……。若さを全く感じないので、一体どうなっているのかと」
「ああ、そういう意味ですか。だって政略結婚ってそういうものでしょう? 恋愛とかときめきを求めるだけ無駄だとよく聞きますが」
まあ、うちの両親の場合は当てはまらないけど。貧乏人の子沢山と言われるほど子どもが多いし、子どもの前であってもイチャイチャ鬱陶しい。
ただ、私とバルドウィン様の場合は、政略に見せかけた雇用契約だから、恋愛が発生すると困る。
それにバルドウィン様にときめきって……。ちらりとバルドウィン様を見ると、相変わらずお茶にむせて真っ赤になっている。可愛いとは思うんだけど、頼り甲斐がないというか……。
「あら、政略からでも恋愛に発展することはあるでしょう? ツェーザルとクララ様がいい例ではありませんか」
「え、お二人も政略なんですか?」
「当たり前でしょう。ツェーザルは伯爵家の継承位は低いとはいえ、個人で騎士爵を賜っていますわ。ただ、クララ様が問題ですわね……。あの方はお父様がお金で爵位を買ったのです。そのせいで成金貴族と馬鹿にされていらっしゃいますわ。だからこそ、ツェーザルは余計にミュラー当主の座に固執するのかもしれませんわね。クララ様を貴族社会で認めさせるために」
なるほど。元々の対抗心だけでなく、守りたい方が増えたから、ツェーザル様は躍起になっている、ということか。それほどまでにクララ様を愛しているのだろう。そこまで思える人に出会えることは幸せだと思うけど、クララ様はそのことをどう思っているのだろうか。パーティーで会ったクララ様は、争いを好むようには見えなかったけど……。
考え込む私に、ユーディット様は眦を吊り上げる。
「よその夫婦よりも、自分たちのことを考えてくださいな! 確かにメラニーは色気はないし、平凡だし、性格はアレだし、バルドウィン様がその気にならない気持ちもすごくよくわかります!」
言い切った! 私、そこまで酷いんだろうか……。しかも、性格がアレって、どれよ……。
ずーんと暗雲を背負った私に、バルドウィン様が助け舟を出す。
「い、いや。メラニーは可愛いと思う! たまに性格はアレだが、そこもまあ、いいと思う!」
「……バルドウィン様、それって庇ってるようで庇ってないです。ふふふ。いいんです。私はいずれこの家を追い出される身。なるほど。これが嫁姑の戦いなんですね……。しかも夫は姑側に付くという……」
まるでユーディット様の考えたお芝居みたいだ。なんだかちょっと楽しくなってきた。それなら傷ついたフリをしてみようか。
「……私みたいな平凡な女よりも、バルドウィン様には相応しい女性がいるのかもしれません。もし離婚したくなったら言ってくださいね。私は身を引きますから」
その時はちゃんと貰うものはもらうけど。ただ、一括で慰謝料として貰うのと、継続してお給金を貰うのと、どちらがわりがいいのだろうか。思わず頭の中で計算をしてしまった。
私の演技にまんまとバルドウィン様が騙された。
「いやいや! そんな女性はいないから! 私はメラニーがいいんだ!」
「え……」
この言葉に胸の鼓動が跳ねた。思わず胸に手を当てて首を傾げてしまう。
「どうしたんだ、メラニー?」
「いえ、急に胸が苦しくなって……」
「もしかして調子が悪いんじゃないのか? 休んだ方がいい」
心配したバルドウィン様が私に近づき、私のおでこに自分のおでこを当てる。するとまた先程のように鼓動が跳ねた。
「え?」
「どうした?」
「いえ、何でも……」
二人でそんな会話をしている横で、ユーディット様は小声で独り言を言っていた。
「……わかりましたわ。二人ともが鈍いから進展しませんのね。ポンコツなのはメラニーだけでなく、バルドウィン様もだとは……。わたくしが何とかしないといけないのかしら……」
その後、自分でも不可解な状態の私は、そのままバルドウィン様に寝室へ連れていかれ、寝かされたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。




