ユーディットとエルンスト
よろしくお願いします。
本当は私一人でエルンスト様と会う予定だったけど、何故かユーディット様とバルドウィン様もついてきた。三人で応接室へ入る。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや、こちらこそ突然の訪問すまない……って、何でいるんだ⁈」
先に応接室へ案内していたエルンスト様が振り返り、私の隣にいるユーディット様に気づき、指を差す。ユーディット様は腕を組んで踏ん反り返る。
「あら。わたくしもバルドウィン様の親戚ですわ。こちらにいてもおかしくないでしょう?」
「そういえばそうだったか。だが、本当はまだミュラーの当主夫人の座を狙ってるんじゃないのか?」
エルンスト様はせせら笑う。やっぱりこの方は相変わらずだ。怒り出すかと思ったユーディット様の方が意外に冷静だった。
「本っ当にあなたは失礼ですわね。ですが、わたくしにはもうその必要がありませんわ。だからこそこちらにお邪魔しているのです」
憑き物が落ちたようなユーディット様の穏やかな笑顔に、私だけでなくバルドウィン様も目を見張った。一人だけ事情を知らないエルンスト様は怪訝な顔になる。
「ミュラーの当主夫人の座を狙う必要がない……? はっ、そうか! 今度はアーレンスの当主夫人の座を狙ってるんだな。だが、断る!」
ユーディット様が鼻で笑い、興味なさそうに吐き捨てた。
「そんなもの、どうでもいいですわ」
「いえ、ユーディット様、どうでもよくないんです。ユーディット様のお父様は、今度はエルンスト様との縁談を進めるようです。それがユーディット様の幸せに繋がるのなら、と」
「お父様が……」
ユーディット様は感激のあまり言葉を詰まらせた。だけどそれも少しの間だったようだ。夢から覚めたように表情を引き締めると首を傾げる。
「何故この人との縁談がわたくしの幸せに繋がるのです? むしろ不幸しか生まないでしょう?」
「なんだと? 不幸になるのは私の方だ。お前がうちに来るようになってから母上がうるさいし、どうにかして欲しくて今日はミュラー夫人に会いに来たというのに……」
「あら、それなら心配はいりませんわ。もうそちらにお邪魔することはないと思いますから」
「は? どういうことだ」
見つめ合う……というよりは睨み合う二人に、存在感を消していたバルドウィン様が声をかけた。
「ユーディット。とりあえず座って話さないか?」
「え、ああ。そうですわね」
エルンスト様の隣にユーディット様、その向かいに私とバルドウィン様が並んでソファに腰掛けた。
「わたくしはただ、ミュラーから両親の関心を失わせたかったのです。だけど、どうすればいいかわからなくて……。それで一芝居打ったというわけですわ」
詳しい芝居の内容をユーディット様が説明を始めた。すると、次第にエルンスト様の眉間に皺が寄っていく。
「……つまり、私は利用された、ということか……」
「言葉は悪いですが、そうですわね。あと、あなたの態度が気に食わなかったから嫌がらせ、という意味もありました。ですが、目的が果たされた今、もうその必要はありませんし。あなたもこれでせいせいするでしょう?」
そこでバルドウィン様が突っ込む。
「ユーディット。目的は果たされたというが、根本的には変わってないぞ。男爵はミュラーにこだわらなくはなったが、君の縁談は諦めていない。その点はわかっているのか?」
「ええ。それなら考えがあります。わたくしがエルンスト様に失恋した、という形にすればいいのです。そもそも、エルンスト様は女嫌いだと言われてますし、説得力はあるでしょう? それでしばらく、傷心のために縁談に前向きになれないことにしますわ」
「だが……それだと君の適齢期を逃して縁談がまとまりにくくなるのではないか?」
「それは構いませんわ……両親と同じ轍を踏みたくはありませんから。わたくしはバルドウィン様とメラニーのような夫婦に憧れるのです。相手の弱さも受け入れて助け合えるような夫婦に。きっかけは政略結婚だとしても、努力次第でそういう夫婦になれるとわかりましたから」
ユーディット様の言葉に、バルドウィン様の顔が赤くなる。いやいや、そうじゃないでしょう。私たちは契約で結ばれただけの仮面夫婦であって、恥じらうような間柄ではないのだから。ユーディット様を騙している罪悪感に心が痛む。それでも本当のことを言えないのが辛い。
「……勝手に決めるな」
エルンスト様が俯いたまま呟く。どうやら気分を害したようだ。まあ、この方も最初から最後まで利用されていたと知って、腹が立ったのだろう。それも仕方ない。私は黙ってエルンスト様の次の言葉を待った。
読んでいただき、ありがとうございました。




