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意味不明な理屈

よろしくお願いします。

「不都合ならある! 私たちはミュラーに嫁がせるためにユーディットに教育を施してきたのだ! それを……!」


 男爵は当たり前のように怒るけど、それは違うだろう。何でこんな当たり前のことに気づかないのか理解に苦しむ。


「お言葉ですが、アーレンス伯爵家も歴史のある名家です。アーレンスに嫁ぐことのどこが悪いのです?」

「いや、だって……」


 男爵は途端に及び腰になる。そりゃそうだ。アーレンスはミュラーと並ぶ名家だ。そこが気に入らない理由なんて思いつかないだろう。すると今度は夫人ががなりたてる。


「そもそもわたくしたちは先代と約束を交わしたのです! それを反故にするということはわたくしたちを侮辱しているということでしょう!」


 ほほう、そう来たか。論点をそれ以前の問題にして、ユーディット様をバルドウィン様に嫁がせよう。そういう魂胆ね。


 ……本当にどこまで自分たちの思い通りにユーディット様を動かそうとするのかしら。


 沸々と怒りが込み上げてくる。それはバルドウィン様も同じようだ。バルドウィン様は感情を押し殺すように低い声で言う。


「約束というが、正式な書面は交わしていたのか?」

「そんなもの、なくたって約束は約束……」

「そんな口約束がまかり通るとでも思っているのか? はっきり言うが、私とメラニーは正式に結婚誓約書を交わしている。つまりは書面で国に認められた夫婦ということだ。その私たちに難癖をつける権利がお前たちにあるのか?」


 これには男爵夫妻に返す言葉はなかったようだ。二人は気まずそうに顔を見合わせる。


 二人が黙ったところで私も口を開く。


「……お二人はユーディット様の気持ちを考えたことはありますか? ユーディット様の幸せが何か考えたことはありますか?」

「そんなことは当たり前だろう。いい家に嫁ぐのが女の幸せ。だからこそ私はユーディットをミュラーに嫁がせようと……」

「それは違いますよね。あなたは自分の果たせなかった夢をユーディット様に託した。いえ、押し付けたんですよね」

「なっ!」

「失礼ですわね……!」


 私の言葉に男爵夫妻は顔を険しくさせた。だけど、その程度で怯む私じゃない。この際だから、言いにくいこともぶちまけてやろうと更に続ける。


「夫人がバルドウィン様のお父様に好意を持っていたことは知っています。それに男爵が実兄であるお父様に複雑な感情を抱いていることも、ユーディット様から聞いています。だからこそユーディット様は悩んでいたんです。あなた方の期待に応えるために、好きでもないバルドウィン様に嫁がなければいけないことを」

「でたらめを言うな!」

「でたらめではありません。あなた方がミュラーに執着すればするほど家族がバラバラになるのではともユーディット様は危惧していらっしゃいました。それはそうですよね。夫人がまだバルドウィン様のお父様に未練があるように見えるから夫婦仲は悪化しそうですし、男爵はバルドウィン様のお父様さえいなければ伯爵家当主になれたかもしれなかった。だからユーディット様を嫁がせることで伯爵家に口出しできるようになりたかった。だけどその結果、男爵家が蔑ろにされるのではと心配になった。そう考えてもおかしくありません」

「……」


 男爵は難しい顔で黙り込んだ。少しは私の言葉が響いたならいいのだけど。でも夫人には通じなかった。


「だからなんだというのです? 貴族の令嬢として生まれてきたからには、あの子には責任があるのです。その責任の前には気持ちなんて瑣末なこと。思い通りになることなんてありはしないのだと、あの子も思い知るべきです」


 きっぱりと言い切った。しかもそれがどうしたと、わかりやすく顔に書いてある。


 自分がおかしいことを言っているとどうして気づかないのだろうか。


「それなら、あなたにも男爵夫人としての責任があるのではないですか? ミュラーにこだわり過ぎて、今目の前にある最高の縁談を潰す権利があなたにあるとでも? それに今、あなた自身が仰ったではありませんか。思い通りになることなんてありはしないと」

「あの子はわたくしの娘です! 親が娘の未来を決めて何が悪いというのです!」


 夫人には私の言葉は届かない。それどころか反対に怒りを募らせた。血走った目を見開いて怒鳴るばかりだ。


 もう、いい加減私も頭に来た。


「あの……!」

「待ってくれ、メラニー。この人には君が何を言っても通じないだろう。だから私がわからせる」


 声を上げかけた私をバルドウィン様が制した。だけど、バルドウィン様はどうやってわからせる気なのだろうか。黙ってバルドウィン様を見ると、バルドウィン様は立ち上がり、応接室の外にいたメイドに何かを言った。メイドは頷き、すぐにどこかに行ってしまった。しばらくして戻ってきたメイドの手には羊皮紙。それをバルドウィン様に渡す。


「……あなた方にはきちんとした証拠が必要かもしれないと、父と連絡を取ったんだ。父から正式にユーディットとの婚約はなかったことにする、と確約を得た。だから私は私の意思でユーディットとは結婚しないと宣言する。これがその証拠だ」


 バルドウィン様は夫人に書面を見せる。夫人はぶるぶると体を震わせた。


「……そ、そんな。あの方はまた、わたくしを拒否すると、いうの……?」

「おい!」


 蒼白になる夫人を男爵が隣で支える。こうして見ると、男爵は夫人を大切にしているように見える。余計なお節介かもしれないけど、言わずにいられなかった。


「今、そうやって支えてくれる旦那様がいらっしゃるのに、どうして過去ばかりにこだわるのですか。大切にしなければならないのは、過去ではなく、今です。きちんと男爵やユーディット様と向き合ってください……!」

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは……不幸になる人しか居ない家庭ですね つらい…
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