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黙ってられない方々

よろしくお願いします。

 こうして、私の目論見通り、ユーディット様の興味はバルドウィン様からエルンスト様に移った。恋愛感情では全くなさそうだけど、ユーディット様はアーレンス夫人とも仲良くなり、その後アーレンス邸に通っているそうだ。


 何故それを知っているかというと、ユーディット様から手紙が毎日届くから。内容のほとんどはエルンスト様の愚痴だけど、活き活きと楽しそうな様子が伝わってくる。


 これで私たちは友人になれたのかもしれない。そう考えるとやっぱり嬉しい。


 だけど、ユーディット様がこうなると、()()()()が黙っていないだろう。そんな私の予感は当たった──。


 ◇


「奥様、お客様なのですが」

「え? こんな朝早くに?」


 朝食を済ませてバルドウィン様の書斎にいると、執事が申し訳なさそうに入ってきた。


 今日はバルドウィン様が休みということもあって、バルドウィン様と過ごすことにしたのだ。たまには仲の良いところも見せないと、使用人たちも心配する。とはいえ、話す内容はユーディット様とエルンスト様のことばかりだった。


 話を中断してバルドウィン様と顔を見合わせる。


「誰かと約束していたのか?」

「いえ。午後からエルンスト様がこちらに来るとは手紙が来ましたけど……来客ってエルンスト様なの?」

「いえ、それが……フィッシャー男爵夫妻なのです。約束はしていないが、奥様に会わせろの一点張りでして……。追い返しましょうか?」


 ようやく来たわね。それにしても先触れ無しで直接来るなんて。余程ユーディット様のことが腹に据えかねているらしい。


 いずれ会わないといけないと思っていたから好都合だ。


「会うわ。応接室へお通しして」

「かしこまりました。失礼いたします」


 執事は恭しく頭を下げると出て行った。やっぱり傅かれると未だに背中がムズムズする。そんな違和感を払拭するように私は勢いよくソファから立ち上がった。


「バルドウィン様、そういうことですので私も失礼します」

「いや、待ってくれ。私も行く」


 続いてバルドウィン様も立ち上がる。

 いやいや、これは私の仕事でしょう。


「私一人で大丈夫ですよ?」

「いや、私も立ち会いたい。私も当事者だからな」

「……きっと不愉快な思いをするだけですよ」

「そんなことは今更だろう? それに一番不愉快な思いをするのは君だ。私がいれば多少はマシなのではないか?」


 そんなこと気にしなくていいのに……と言ってもバルドウィン様は気にするのだろう。心配そうに私を見ている。


「わかりました。それでは参りましょうか」

「ああ」


 二人で顔を見合わせて表情を引き締める。ユーディット様のためにもフィッシャー男爵夫妻を納得させたいけど、簡単にはいかないだろう。


 バルドウィン様の隣を歩きながら、応接室へ着くまで考えを巡らせていた。


 ◇


「それで、こんな朝早くにどのようなご用件でしょう?」


 既に着席していたフィッシャー夫妻の向かいにバルドウィン様と並んで座るなり、私はそう切り出した。そんな私を忌々しそうに睨みつける男爵が答える。


「……わかっているだろうに白々しい。ユーディットのことだ」

「あら、ユーディット様に何かありました?」


 笑顔ではぐらかすと、男爵の隣に座っていた夫人が前のめりになって怒鳴る。


「アーレンス夫人からユーディットを息子の婚約者に、と言われたのですよ! しかもユーディットは嫌がるでもなくアーレンス邸に通い始めるし! こちらを訪ねてからあの子がおかしくなったのです!」

「あら、そうでしたか。それはおめでとうございます」


 今初めて聞いたかのように声をひっくり返してみる。私も意外に演技が上手いかもと隣のバルドウィン様を見ると、頭痛を堪えるように額に手を当てていた。


 え、そんなにダメ?


 突っ込んだのは夫人だった。


「そんなわざとらしい演技で騙されるものですか! そもそもアーレンスとは何の接点もなかったのだから、少し考えればわかることです!」


 わざとらしいと言われてしまった。ちょっとは自信があったのだけど。


 でも、あまり感情的になってもらってはこれからの話に差し支えるので、私は咳払いをすると笑みを消した。


「ええ、そうですね。考えればわかることです。それなら聞きますが、あなた方はユーディット様が何を望んでいるか考えましたか?」

「論点をすり替えるな!」


 今度は男爵が怒鳴る。

 この二人って似た者夫婦なのね。意外に相性いいんじゃないの?

 ついついエルンスト様とユーディット様を思い浮かべる……うーん、共通の目的がある時だけかもしれない。


「すり替えてはいませんよ。アーレンス邸に通っているのはユーディット様の意思。私が強制したわけではありません」


 そりゃそうだ。あのユーディット様が親以外の、それも好敵手の言葉をすんなり聞くわけがないだろう。それこそ考えればわかることだ。


 この方々はユーディット様の気持ちを考えたことがあるのだろうか。もし仮に考えたことがあったとして、わからないなら対話をしようと考えたことはあるのだろうか。


 あまりにもユーディット様を無視した振る舞いに、私も少し頭に来ていた。


「ユーディット様がアーレンス邸に通って、あなた方に何か不都合なことでもあるのですか?」

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] さあ、呪いを絶ち切れるかってところですね!!
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