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予想外の展開

よろしくお願いします。

 そして、エルンスト様を取り囲むように私たちは着席した。エルンスト様から見て左に私、正面にユーディット様、右にビアンカ様。エルンスト様は不機嫌そうに正面のユーディット様に顔を背けている。てっきりビアンカ様が嫌なのかと思ったけど、ユーディット様でも同じだった。


 ──これでお見合いって無理なんじゃ……。


 ビアンカ様を見ると、小さな声でいつものことよ、と言われてしまった。それが聞こえたようでエルンスト様の愁眉がピクリと動く。


「何か仰いましたか?」

「いえ、別に。それよりもお茶会を早く始めない? ほら、ホストのあなたが進行してくれないと始められないでしょう」


 ビアンカ様は涼しい顔でエルンスト様を促す。


「……あなたはいちいち。言われなくてもわかっています……それでは頼む」


 エルンスト様の言葉に、私たちの周囲に待機していたメイドたちが一斉に給仕を始める。出されたのはケーキと紅茶。生クリーム仕立てのケーキには季節の果物がふんだんに使われていて、とても美味しそうだ。ついつい私の目が輝く。と、向かいのビアンカ様が一言。


「……太りそうね」

「ビアンカ様。一言余計です」

「あら、だって、メラニー。どのくらいの砂糖が使われているかわからないわよ」

「それならビアンカ様はいらないんですね。私が代わりにいただきましょうか?」


 食べないなんてもったいない。だったらと思ったのだけど、ここで予想外にユーディット様が出てきた。


「それならわたくしがいただきますわ……いえ、あなたは肉をつけた方が良さそうですが……」


 ちょっと、ユーディット様。私の胸を見ながら哀れむように言うのはやめて。そこにビアンカ様が乗っかる。


「本当ね。バルドウィンはもっと肉付きがいい方が喜ぶのではない?」


 ビアンカ様まで。笑いを堪えながら私の胸を見るのはやめて欲しいのだけど。それに、私の体型がなんであれ、バルドウィン様には関係ないでしょう?


 そこでエルンスト様が呟く。


「バルドウィン……ということはミュラー夫人か。最近結婚したとは聞いていたが、そうかあなたが……。ミュラーも失敗したな」


 ……これは怒るところだろうか。多分、こんな嫁でバルドウィン様が可哀想という意味だろう。まあ、私は仮の嫁なので腹も立たないのだけど。


「そうですね。元貧乏男爵令嬢の私とバルドウィン様では釣り合いが取れませんし」


 すると、エルンスト様は目を眇める。


「つまりは財産目当てだと。恥知らずだな。その容姿でよくもまあミュラーほどの名家の当主を籠絡できたものだ。それとも現ミュラー家当主は余程愚かなのか?」


 すごい。私はただ元貧乏男爵令嬢としか言ってないのに、話がすごく飛躍している。ユーディット様と負けず劣らずの想像力だ。これなら似た者同士でうまくいくのだろうか。いや、反発し合うかも。


 まじまじとエルンスト様を見ると、今度の矛先はユーディット様に向かった。


「それであなたは?」


 私への暴言に呆然としていたらしいユーディット様は、目をぱちくりとさせた。あまりにもふわっとした問いに答えあぐねて何度か口を開閉させていた。


 エルンスト様、すごい。あのユーディット様を閉口させるほどの人物だとは。私は変に感心してしまった。


 少しして、ユーディット様は恐る恐るという体で口を開く。


「わたくしはフィッシャー男爵が娘、ユーディットと申します。どうぞお見知り置きを……」


 そうよね。それが無難な答えだと思う。だけどエルンスト様はユーディット様にも暴言を吐いた。


「ああ。ミュラーの親戚にあたるという。だが、ミュラー当主夫人の座を狙っていたのではなかったか? 何故ミュラー夫人と……。ああ、そうか。あわよくばおこぼれをもらおうと不本意でも付き従っているという感じか。それとも夫人の命でも狙っているのか?」

「なっ!」


 ユーディット様は気色ばむ。エルンスト様本人はこれをお見合いだと知らないとはいえ、ここまで悪し様に言われるとユーディット様も黙っていられないだろう。


 そんなユーディット様を止めるように、ようやくビアンカ様が口を挟んだ。


「エルンスト、いい加減になさい。今日、私たちはあなたの客なのよ。その客に対してその振る舞いはどうなの?」

「あなた方は母の客であって、私の客ではない」


 ツンと顔を背けるエルンスト様に私は脱力したくなる。あなた、仮にも次期伯爵家当主でしょう……。


 すると、隣から地を這うような声が聞こえてきた。


「……そんな子どもの理屈……」

「ユ、ユーディット様?」


 ユーディット様は拳を握り締めて立ち上がる。そしてエルンスト様の元にツカツカと歩いていくと彼の胸ぐらを掴んだ。それからすうっと息を思い切り吸い込む。


 嫌な予感に私は両手で耳を塞ぐ。ビアンカ様を見るとビアンカ様も同じように耳を塞いでいた。エルンスト様は何がなんやらわかっていないようだったけど。


 そしてユーディット様の絶叫が響いた。


「通用するわけないでしょうーーー!!!」


 しょう、しょう、とこだまする。やっぱり耳を塞いで正解だった。間近で攻撃を受けたエルンスト様は茫然自失だ。


 ユーディット様は座った目でエルンスト様ににっこり笑いかける。


「よろしいですわ。わたくしがあなたの根性を叩き直して差し上げます。わたくしに喧嘩を売ったこと、後悔させて差し上げますからそのおつもりで」


 ──まさかこうくるとは。


 エルンスト様の態度がユーディット様の何かに火をつけた。


 そもそもユーディット様は伯爵夫人になるべく教育を受けてきた人だ。つまりは伯爵家当主とはこうあるべき、ということも刷り込まれているのだろう。その姿とあまりにもかけ離れたエルンスト様が許せないから再教育の必要ありと見なしたのかもしれない。


 お見合いのつもりだったけど、違った形ではあれ、エルンスト様はユーディット様からは逃げられないだろう。


 ビアンカ様を見ると、「……あとは二人きりにしてあげましょう」と慈愛に満ちた目で言われてしまった。


 ということで、私とビアンカ様は当初の予定通り、アーレンス夫人と三人でお茶会を楽しんだのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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[一言] これぞまさに炎上商法……!
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