ビアンカの企み?
よろしくお願いします。
何となく釈然としない。私の気持ち? ビアンカ様に私の何がわかるというのか。とはいっても、私にはビアンカ様の気持ちがわからないから否定できない。悔しい。
「……狡いです。ビアンカ様には何でもお見通しみたいで」
「ふふふ。これも年の功というのかしらね。それに当事者じゃないから客観的に見てわかることって結構あるのよ」
ビアンカ様はいたずらっぽく片目をつぶって笑う。
そう……かもしれない。私はバルドウィン様と話したけど、バルドウィン様が何を言いたいのかわからなかった。
神妙な顔で黙り込むと、ビアンカ様は手を叩いて「この話は終わりにしましょう」とだけ言った。
そうだった。いけないいけない。今は私用じゃなく、業務の一環でビアンカ様をお招きしているのだ。
「そうですね。今日はユーディット様のお話をするために来ていただいたのですから。早速ですが、お相手をうかがっても?」
「ええ。名前はエルンスト・アーレンス。アーレンス伯爵家の長男よ。つまり、次期当主。バルドウィンは現当主だけど、エルンストは遅かれ早かれ継ぐのだから問題はないでしょう?」
「エルンスト・アーレンス……」
名前を呟きながら、どんな方だったかと思い返してみる。アーレンス家と言えば、ミュラーとは違えど、王族の覚えもめでたい歴史のある名家だ。そんな名家の長男なら引く手数多に違いない。そんな方にお見合いのようなことをさせていいのだろうか。
「ビアンカ様。私は確かにバルドウィン様以上の方をと言いましたが、エルンスト様は了承してくださっているのですか?」
するとビアンカ様は困ったように眉を下げて笑う。
「……実はね、エルンスト本人ではなく、私の友人であるエルンストの母から是非にと頼まれたのよ。というのもエルンストは大の女嫌いでね……。自分に近づく女性に暴言を吐いては怒らせて。このままではエルンストが結婚できないと泣きつかれていたのよ……。だから私にとっても渡りに舟だったってわけなの」
「ああ、なるほど……」
って、ちょっと待って。あのユーディット様よ? 烈火のごとく怒るに違いない。それで反対にエルンスト様を怒らせないだろうか。水に油。犬猿の仲。割れ鍋に綴じ蓋。いや、これは違うかも。
「……どう考えても相性最悪じゃないですか?」
「いえ、わからないわよ? 喧嘩するほど仲がいいとも言うし。こればかりは実際に会ってみないとわからないんじゃないかしら」
「そうだといいですけどねえ……」
不安しかない。ユーディット様がようやく他に目を向けようとしているというのに、これで失敗したらまたユーディット様は心を閉ざしてしまう。
ユーディット様が私に本心を打ち明けたのは、心が限界だったのもあると思う。ご両親からの過度の期待。様々な悩みを周囲に打ち明けることもできなかっただろう。ユーディット様の友人を通じてご両親に伝わる可能性があるから。その点、私ならご両親には敵だと思われているだろうから、話が漏れる心配もない。
私は余程不安そうな顔をしていたのだろう。ビアンカ様は苦笑する。
「やる前からダメと決めつけてはダメよ。あなた、そんな性格じゃないでしょう? やるだけやってダメだったら一旦立ち止まって、また別の方法で成功するまで頑張る。私はそんなあなたの性格を見込んでバルドウィンを任せたの。あの子はどうせ自分はダメだって諦めてしまうから。あなたならあの子にいい影響を与えてくれるって信じさせてくれるでしょう?」
「くれるでしょうって……。私、そんな大層な人間じゃないですよ。契約だからそうしているだけで……」
「はいはい。わかったわ。とにかく会うだけ会ってみる。その先のことは考えない、でいいわね?」
ビアンカ様の有無を言わせない口調に、渋々私は頷いた。そもそも決めるのは当人であるユーディット様だ。
「……そうですね。大切なのは当人たちの気持ちです。私たちはその手助けをするだけ。それで場所はどうしましょう? お見合いだとわかるとエルンスト様は逃げ出しそうですし、アーレンス邸がいいのでしょうか?」
「そうねえ……アーレンスならエルンストも逃げられないでしょうから、そうしましょう。私とあなたはエルンストの母に呼ばれたという名目でお邪魔しましょうか」
「え? ビアンカ様も来るのですか?」
「当たり前よ。エルンストのことを頼まれたのは私だし、こんな面白そうなこと、立ち会わないなんて損じゃない?」
目を輝かせるビアンカ様。これは心から楽しんでいらっしゃる。なんて不憫なエルンスト様とユーディット様……。
そもそもお見合いじゃなかったような気がするんだけど。ユーディット様の世界を広げるための出会いの場ではなかったっけ。ついつい私もビアンカ様がお見合いのノリで話すものだから錯覚してしまった。
うん? 待って。
これって私とバルドウィン様の時と同じような展開ではない?
私は仕事を得られると意気揚々とミュラー邸に来て、バルドウィン様はお見合いだと言われていた。結婚のけの字もなかった私もビアンカ様に乗せられて、今やこうして雇われ伯爵夫人……。
「……ビアンカ様。エルンスト様とユーディット様も、私とバルドウィン様のように口八丁手八丁で丸め込もうとしてます?」
「あら、メラニー。丸め込んだなんて人聞きが悪いわ。収まるべきところに収まった、それだけの話よ」
ビアンカ様は飄々としている。食えない方だわ。さすがは私の母と友人なだけはある。
「まあ、いいです。ビアンカ様のその手腕で、エルンスト様をうまく丸め込んでくださいね」
「何のことかしらね? だけどきっとエルンストとユーディット嬢の場合も、収まるべきところに収まるのではないかしら」
そう言って含み笑いをするビアンカ様には、私にはわからないものが見えているのかもしれない。根拠があるわけではないけれど、ビアンカ様がいればうまくいく、そんな予感がするのだった。
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