ちょっとした変化
よろしくお願いします。
その後、バルドウィン様と二人でパーティーの反省会を行った。あれはやっぱり失敗だったと、バルドウィン様も思っていたらしい。
何故ツェーザル様を挑発したのかというと、手っ取り早く当主である自分を害させて立ち入り禁止にしたかったそうだ。何という極端な……。
いや、私も確かに相手をするのが面倒臭かったけれど、そこまでしようとは思わない。
だけど、結局ユーディット様を巻き込む事態になったのだから、もうしないでくれと厳命した。すると何故か、そうなったら私が大変だからもうしないと約束してくれた。そういう問題でもないのだけど。
どうして自分を大切にしてくれないのか。バルドウィン様は、恵まれた容姿に肩書きを持っているにもかかわらず、自己肯定感が低い。自信を持って欲しいのに。それもこれもパーティーに参加した人たち全てがバルドウィン様を認めようとしないからだろう。だけど、それならご両親は?
性格というのは一朝一夕で形成されるものじゃない。ご両親とバルドウィン様の関係にも何かあるのか、なんてことを考えてしまった。
そもそも結婚したというのに何の音沙汰もないのだ。バルドウィン様のお父様と弟であるフィッシャー男爵とのあれこれは、お父様の因縁であるというのに。バルドウィン様に押し付けて悠々自適に引退生活……。うーん、お父様の考えがわからない。いつか会えたら考えを聞いてみたいけれど、私がそれまでここにいるかわからないし。
だけど、こうして考えが広がっただけでも収穫はあったと言ってもいいと思う。
そして、それから数日後──。
◇
「バルドウィン様、今日も来ていますよ!」
夕方。帰宅して自室で寛いでいたバルドウィン様に嬉々として手紙を差し出す。その手紙の主を察したバルドウィン様は嫌そうに眉を顰めた。
「何で君はそんなに嬉しそうなんだ……。それはユーディットからなんだろう?」
「ええ、そうです。でも、これは私宛てですよ? そんな顔をしなくてもいいじゃないですか」
「それはそうなんだが……。ユーディットは一体何を考えているんだ」
「まあまあ。これはいい兆しじゃないかと思うんですよ。これまでユーディット様の興味の対象はバルドウィン様だけでしたから。こうして興味の幅が広がれば、その中でバルドウィン様を選ぶか、他の方に目を向けるか、選択肢が増えます。バルドウィン様だけでなくユーディット様にとってもいいことだと思うんですよ」
盲目的にバルドウィン様だけを追い求めることは怖いことだ。その当のバルドウィン様に拒否された場合、ユーディット様の心がどうなるのか心配になる。まあ、バルドウィン様がそれらを理解してユーディット様を受け入れるのなら、それでもいいのかもしれないけれど……。
だけど、バルドウィン様は拒否した。理由を聞いたら、ユーディット様を恋愛対象に思えないから、だそうだ。綺麗な方なのにもったいない。だからついつい私もバルドウィン様に聞いてしまう。
「本当にユーディット様を受け入れるつもりはないんですか?」
「ああ。手のかかる妹みたいな感じにしか思えないし、性格的に合わないと思う」
「贅沢ですね。ユーディット様が変わっていって、バルドウィン様に興味を持たなくなったらどうします? 逃した魚は大きかったって後悔しても遅いんですよ?」
「それはそれでいいんじゃないか? この世界には私よりもいい男がたくさんいるんだ。何も私にこだわらなくとも」
そう言うバルドウィン様の表情には一点の曇りもない。本気で思っているのだろう。
「なるほど。去る者は追わずということですね。それなら私も心置きなく去ることができます」
まあ、バルドウィン様が追いかけてくるわけはないか。というか、反対に『お給金を上乗せするから行かないでくれ』と言われるくらいに優秀にならないと、いつクビになってもおかしくないのかも……。それはいけない。そんなことを考えていたら、バルドウィン様が何故か慌てたように声を上げる。
「ちょっ、待ってくれ。今居なくなられると困るんだが」
「わかってますよ。新婚早々、しかも私自ら出て行ったとなるとひどい醜聞ですからね。バルドウィン様が自信をつけるなり、当主として認められるようにでもなった時に、私はお役御免になるんですよね」
「いや、まあ、そうなのかもしれないが……そうでもなくて」
「はい?」
「いや、その話は今はいいとして。ユーディットは相変わらずなのか?」
何かはぐらかされたような気がするけど、私はその問いに頷いた。
「ええ。あなたには負けない、というのと、私と比較して自分がいかに優れているかが書いてありますね」
「不愉快な思いをさせてすまない」
「いえ、そんなことはないです。むしろ読んでいて面白いんですよね。毎回私との勝負の仕方と勝ち方が違うので、次はどんなお話かと楽しみになってきたくらいで」
やっぱりユーディット様には文才があると思う。いや、想像力なのか? どちらにせよ、私にはない才能で羨ましい。
「それと……ユーディットだけでなく、伯父上からもまた届け物があったんだろう?」
「ああ……そうですね」
届いた物を思い出して、ついつい苦笑が漏れた。ちなみにバルドウィン様がいう伯父上というのは、ユーディット様のお父様じゃなく、アルバン様のことだ。
あのパーティーで嫌な予感を覚えたのは間違いなかったようで、あれから毎日のように私宛てに花や物に添えて手紙も届く。『凛としたあなたの美しさに相応しい』などと書いてあるのを見て、一体誰と間違えているのだろうかと一度送り返した。だけど間違いじゃないと再度送られてきたのだ。
「アルバン様は女性なら誰でもいいんですかね? 妹のクリスティンならわかるんですが」
「いや、伯父上は少女趣味ではないから。君を本当に魅力的に思っているか、もしくは……色仕掛けで君からミュラーの情報を引き出したいのかもしれないな。いずれにせよ、君も気をつけてくれ」
「ええ、もちろんです。何があっても雇用主の守秘義務は守りますから!」
「いや、私が言いたいのは危ない目に合わないように気をつけてくれという意味なんだが」
「わかってますよ」
「……これはわかってないな」
頭痛がするのか、眉を顰めてバルドウィン様はこめかみを両手で揉み解す。その様子を見て、眉間の皺が増えそうだなと、どこか他人事のように思うのだった。
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