ユーディットの変身
よろしくお願いします。
途端に周囲がざわめき始める。
「いや、僕は助けるつもりはあったが……。当主の意に沿わないことをしてはいけないと思って……」
「それは私もだ」
「だよな。従わないとどうなるか……」
……言い訳ばかりで何だかな。そんなことは誰にでも言えるでしょう。バルドウィン様を馬鹿にして蹴落とそうとしている割に、機嫌取りは一人前。誰一人としてユーディット様が無事で良かったの一言もない。それはユーディット様のご両親もだ。
陽気がいいとはいえ、濡れっぱなしではユーディット様が風邪を引きそうだ。まだ怠さが残る体を起こして、バルドウィン様に話しかける。
「待ってください。このままではユーディット様が風邪を引きそうです。着替えのために少し失礼してもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。だが、歩けるのか? 私がこのまま運ぼうか?」
「いえ、大丈夫です。ユーディット様、参りましょう。それでは皆様、失礼いたします」
呆然としていたユーディット様の瞳に光が戻ってきて、戸惑いながらも頷いてくれた。バルドウィン様に下ろしてもらい、ユーディット様と並んでゆっくりと屋敷に向かう。その間ユーディット様は無言だった。
◇
「びったりで良かったです」
てっきり嫌がるか文句を言うかと思いきや、ユーディット様は大人しく私の用意したドレスを着てくれた。着せたのがメイドだからかもしれないけど。
用意したのは袖なしの紺色のドレス。だから下に白いブラウスを着てもらい、腰回りから胸にかけて細い紐で編み込み、蝶々結びをした。さらに、髪の毛は細かく編み込んで最後にシニヨンにする。ユーディット様は襟足が綺麗なので、すごく似合う。
後は服装に合わせて化粧もやり直した。切れ長の目を和らげるようにしたら、すごく印象が変わった。
元がいいのはわかっていたけど、今は爽やか系の美人になっている。これはすごい。今なら男性陣も放っておかないだろう。ついつい満足して顔がにやける。
「……お礼なんて言いませんわ。あなたが勝手にしたことですから」
眉を顰めたユーディット様が吐き捨てる。なんでそんなに悔しそうなんだろう。
「ええ。私の自己満足なので必要ありません」
そりゃそうだ。元々ユーディット様を濡らしてしまったのは私だし、用意したのは私がしたかったから。それで感謝されるとも思ってなかったし。
だけどユーディット様はそんな私の態度が気に入らなかったようだ。私を見据えると怒鳴る。
「……っ、なんであなたが、バルドウィン様に選ばれるのです⁈ わたくしはずっとあの方に相応しくなれるように努力してきたというのに……!」
顔を真っ赤にしたかと思えば、ユーディット様は感情が高ぶりすぎたのか、はらはらと涙を流し始めた。気の強い女性だと思っていたから、まさか泣くとは思わなかった。
なんだろう。虐めたわけではないけど、罪悪感を感じる。
「何だか、すみません」
「っ、悪いと思ってないくせに謝らないでくださいませ!」
「いえ、悪いとは思っているんです」
これは、完全に部外者の私がしゃしゃり出てきたことで起こったことかもしれない。そう考えると、引っ掻き回して悪いとは思う。多少だけど。
私の気持ちを察したのか、ユーディット様は泣きながらも眦を吊り上げる。
「口先だけなら何とでも言えるでしょう! 本当に腹立たしい女……!」
おおう。バレてる。この方、すごく勘がいいのね。それなら正直に話した方がいいかも。
「……申し訳ありません。もしかしたらこうなるかも、とは予想していました。だから念のためにユーディット様に合わせたドレスも用意していて……」
「わたくしが言いたいのはそんなことではありません! 何故わたくしではなく、あなたなのです? わたくしはそれほどに劣った存在だということ……⁈」
「いえ、そんな……」
と言いながら、複雑な気分になる。これって、私が最低な女なのに、選ばれなかったユーディット様はそれよりも下って言いたいんじゃ……。さりげない私の落とし方はさすがだと思う。いや、まあ、私は確かに優れた女性とは言い難いけど。
ユーディット様は私の声が聞こえていないのか、今度は俯いて何やら呟き始めた。
「……認めない。わたくしは絶対に認めない。選ばれなければ意味がないの。わたくしは絶対に当主夫人になってバルドウィン様をお守りしなければならないの……」
絶対に、と繰り返すユーディット様からは鬼気迫るものを感じた。何が彼女をここまで追い詰めるのか、私にはわからない。バルドウィン様が好きだから。そんな理由では片付けられないものがあるのかも。それを知らない限り、彼女はきっと別の男性に心を開かないだろう。
ユーディット様に声をかけることもできず、私はしばらくその様子を見ていた。
読んでいただき、ありがとうございました。




