アルバン登場
時間が空いてすみません。
よろしくお願いします。
見るのが辛くなるくらいいちゃいちゃしているツェーザル夫妻を送り出し、残りのアルバン様を待つ。もうそろそろ開始時刻だというのにまだ来ない。
「バルドウィン様。アルバン様、遅いですね」
「……まあ、いつも通りなんじゃないか。ほら、噂をすれば来たよ」
バルドウィン様が指をさした。その先には覚束ない足取りでこちらへ向かって来る一人の中年男性。
体調が悪いのかと心配になった私は、男性に駆け寄った。黒髪に青い瞳でバルドウィン様と同じ色。若い頃は怜悧な美貌だったのだろうけど、今はそれよりも不健康さが目立ってしまっている。
むせ返るような香水とお酒の匂い。ひょっとしたら先程まで飲んでいたのかもしれないくらいに強烈だ。香水も、様々な香りが混じってしまってすごく臭い。
思わず仰け反ると、男性が私を抱きとめた。
「大丈夫かい?」
お気遣いなく、と答えたかったけれど、息を止めているので口を開けない。空気が恋しい……!
勢いよく何度も頷く。頼むから離して欲しい。抵抗もできずにいると、バルドウィン様がやってきて、私を引き剥がしてくれた。ありがたい。
それなのにまたアルバン様らしき男性は、私の腕を掴んで腕の中に引き込もうとする。
そう。これがアルバン様が不適格になった理由だった。酒癖と女癖がものすごく悪いのだ。以前に格上の侯爵夫人にちょっかいをかけて問題になりかけたことがあった。それでも処罰を受けなかったのは、声をかけただけで、実際には何もなかったからだそうだ。
──一応私、人妻なんだけど……。
さすがにこれはまずいのでは。すると、見かねたのかバルドウィン様が私の手を掴んで引っ張った。
「伯父上、その辺りにしておいてください」
「私は何もしていないよ? 彼女が倒れそうだから支えただけで」
アルバン様は薄く笑い、さらに私を胸に引き込もうとする。こうなると支えているとは言えないのでは。それに臭いから離して欲しいのだけど。
「いい加減にしてください……!」
今度はバルドウィン様が動いた。私の肩を掴んで勢いよく抱き寄せる。
「わっ……ぷ」
そのままバルドウィン様の胸に顔を押し付けることになって、それほど高くない鼻をぶつけた。ちょっと痛い。
あ、だけど何かいい香りがする。何だろう。ついつい匂いを嗅いでいると、バルドウィン様がこそばゆそうに身動ぎした。
「メラニー、頼むからそれはやめてくれないか……」
「あ、すみません。何かいい匂いがしてつい」
体を離すと、バルドウィン様は恥ずかしそうに自分のあちこちの匂いを嗅いで確かめる。
「自分ではわからないんだが」
「まあ、そういうものだと思いますよ」
直前まで嗅いでいた匂いが酷かったからかもしれないけど、清涼感があって私は好きな匂いだ。二人でそんなやり取りをしていて、アルバン様をすっかり忘れてしまっていた。
「へえ、仲が良いんだな」
「いや、まあ……」
「そうですね。悪い方ではないです」
戸惑うバルドウィン様に被せて私がそう言うと、アルバン様はニヤニヤと笑った。
「ふうん……」
なんだか含みを感じる。だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。もう他の人たちは揃っていて、開始を待っている。私は背伸びをするとバルドウィン様に耳打ちした。
「バルドウィン様。そんなことより、もう行った方がいいんじゃないですか? 皆様お待ちですし。まだ始まってもないのに、ここでつまずくわけにはいきませんよ」
「っ、ああ、そうだな」
バルドウィン様の返事に満足して体を離すと、バルドウィン様の顔がまた赤くなっていた。
え、何で?
今は匂いを嗅いでないんだけど。バルドウィン様の恥ずかしがる基準がわからなくて首を傾げていると、アルバン様は小さな声で何かを呟いた。
「……もの……いがい……る」
「何かおっしゃいました?」
振り返ってアルバン様を見るけど、彼は何の含みもなさそうな満面の笑みを浮かべていた。
「いや、何でもないよ。気にしないでくれ」
それだけを言うと、アルバン様は先程よりもしっかりとした足取りで会場へと歩き始めた。何が何やらわからない私は、バルドウィン様と二人、顔を見合わせるのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。




