ツェーザル夫妻登場
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フィッシャー男爵一家は到着したけど、まだアルバン様とツェーザル様が到着していない。彼らに限って欠席はないだろう。そう思いながら招待客と挨拶を交わしていると、隣のバルドウィン様が呟く。
「……ツェーザル」
バルドウィン様の視線の先には赤い髪の男性と茶髪の小柄な女性。彼らはバルドウィン様の前で止まり、男性が口を開いた。
「相変わらず情けない面してんな。やっぱりお前は当主って器じゃねえよ。それに隣の女。結婚式でも見たが、やっぱり地味だな。お前、女の趣味まで悪いなんて救いようがねえな」
何か言っているけど無視だ、無視。この人は対処を間違えると暴力を振るうかもしれないし。
言葉は聞き流して、彼を観察する。情熱を感じさせる真っ赤な髪色のように、表情、声音、態度全てから自信が満ち溢れている。この方がバルドウィン様の又従兄弟のツェーザル様。バルドウィン様と同い年の二十五歳と聞いたけど、二人は正反対に見える。バルドウィン様が静なら彼は動。実際に落ち着きがなさそうだ。
ということは隣の小柄な女性がツェーザル様を尻に敷いている奥様……。だけど、小柄でたおやかで小動物のようなこの女性が、ツェーザル様を尻に敷けるのだろうか。
すると、女性がツェーザル様を諌めた。
「ツェーザル、失礼なことを言っては駄目よ。それにまず言うことがあるでしょう? ミュラー卿、奥様。お招きいただきありがとうございます。それに、ご結婚おめでとうございます」
「だが、クララ……」
言い募ろうとするツェーザル様を、クララ様が悲しそうに見つめる。ツェーザル様はぐっと詰まり、渋々口上を述べた。
「……お招きありがとう。結婚も、おめで……」
心から不本意だったのだろう。最後の言葉は小さくて聞き取れなかった。だけど、その言葉を聞いた途端にクララ様は花が綻ぶように笑った。その笑顔にツェーザル様が胸を押さえて呟く。
「……可愛い」
……チョロい。チョロすぎる。
私は一体何を見せられているのだろう。奥様のツェーザル様の手綱さばきに感心するべきなのか、それともツェーザル様の奥様への溺愛っぷりに呆れるべきなのか。
まあ、一つだけ言えるのは、ツェーザル様は自分から喜んで奥様の尻に敷かれに行っているということだ。
勝手にやっててくださいな。
隣を見ると、バルドウィン様はうんざりした表情をしていた。
何だろう。先程のユーディット様といい、ツェーザル様といい、突っ込みたくなる方たちだからかもしれないけど、バルドウィン様の気持ちが痛いほどわかる。
──夫婦としての距離が縮まったってことなのかしら……!
と、ユーディット様なら言いそうだ。だけど生憎私はそんな性格はしていない。
バルドウィン様の感性も私と同じで普通、ということなのだろう。共感してくれる人がいてくれてよかった。一人じゃないって心強い。特に、個性が強い人たちの中に置いていかれるのは辛い。
思わずバルドウィン様に微笑んだ。
──こんな人たちの中に置き去りにしないでくださいよ? 恨みますからね?
バルドウィン様が私の言いたいことに気づいたかはわからないけど、それはもう周りを魅了するような微笑みを返してくれた。そんなキラキラ笑顔はいらないのだけど。
すると、クララ様が嬉しそうな声を上げた。
「お二人はお似合いのご夫婦ですね。お互いを思い合っているのがわかる笑顔の応酬。どうして急にミュラー卿がご結婚されたのかと不思議でしたが、お二人を見て納得しました。愛し合っているのですね……!」
見るとクララ様の顔は興奮のあまり紅潮している。
え。なんで?
再びバルドウィン様を見ると、バルドウィン様も首を傾げていた。
ですよね。あれのどこに愛があると?
だけど、私たちを見たクララ様は更に興奮する。
「そのお互いを思い合う視線。素敵です! ツェーザル! 私たちもお二人のような素敵な夫婦になりましょうね!」
「いや、クララ……俺たちの方が……」
「妻の気持ちを察する夫。ミュラー卿みたいな旦那様で、奥様もお幸せですね」
クララ様が無邪気にそんなことを言うものだから、ツェーザル様の機嫌は瞬く間に地を這う。
「……バルドウィン、てめえ……」
「おい。これは私のせいじゃないだろう」
同感。クララ様を溺愛しているツェーザル様の前で別の男性、特に敵対視しているバルドウィン様を褒めては駄目だ。
これはどう回避しよう。
だけど、そんな私の悩みを吹き飛ばす言葉をクララ様がはにかみながら言った。
「だけど、やっぱり私は夫が一番なんです。察してはくれないけど、わかろうとしてくれるから」
「クララ……!」
先程までの不機嫌は何処へやら。ツェーザル様は感極まってクララ様を抱きしめる。
──なるほど。こうやって調教されてきたのね。勉強になるわ。
感心しながら見ていたけれど、そもそも勉強したところで私にはその技を使う相手がいないということに、しばらく経った後で気づくのだった。
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