バルドウィンとユーディット
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「お帰りなさいませ」
執事と話しているうちにバルドウィン様の帰宅時間になっていた。執事やメイドたちと一緒に出迎えると、バルドウィン様に首を傾げられた。
「出迎えはいいと言っていたのに、どうしたんだ? 何かあったのか?」
「いえ。ついさっきまで執事とガーデンパーティーの打ち合わせをしていたんです。で、旦那様のお帰りです、と聞いたもので」
「ああ、そうか。結構時間がかかったんだな」
「それは、まあ。主に手紙の検分に時間がかかりましたが」
歩き出したバルドウィン様の後をついていきながらそう言うと、バルドウィン様の眉に皺が寄る。
「読まなくてもよかったのに。読んでいて不愉快になるだけだろう?」
「そんなことはありませんよ。文章からも人となりがわかるので、ガーデンパーティーの席順の参考になりましたし。何より、ユーディット様の壮大な恋愛物語には感心しました」
途端にバルドウィン様が咳き込んだ。涙目であまりにも苦しそうだから、思わずバルドウィン様の背中をさする。
「大丈夫ですか?」
「……誰のせいだと」
「誰のせいですか?」
私は別におかしなことは言ってないけど。バルドウィン様も内容を思い出して感動したんだろうか。そう思った私は笑顔で頷く。
「あのお話は傑作ですよね。ただもったいないのは二人の世界だけで完結していることですね。登場人物を増やせばもっと物語に深みが出ると思います。例えば後半の当て馬役にまた私を入れるとか。バルドウィン様に恋敵がいても面白そうですが」
ようやく息を整えたバルドウィン様は、思い切り顔を顰めた。どうやらお気に召さなかったらしい。
「私からすると嫌がらせにしか思えないんだが? なんで私が君に脅されて結婚した上に、泣く泣くユーディットと別れたことになっているんだ。しかも最終的にはくっついているし」
「でも、わからないじゃないですか。ひょっとしたら最後は……」
「ない!」
バルドウィン様は間を置かずに否定した。その表情は苦々しい。話を続けたかったけどメイドたちの目がある。私は口を閉ざして二人でバルドウィン様の私室へ向かった。
◇
「……バルドウィン様は、ユーディット様とのことをどうしたいと思っていますか?」
私室の扉を閉めて二人きりになったのを見計らってから話を再開した。とはいえ、バルドウィン様の表情はうんざりしている。だけど、ちゃんと話さないと、私がユーディット様とどう付き合えばいいのかわからないのだ。
父親の代からの確執もあって再婚相手には選びにくいだろうけど、あの手紙の感じではそう簡単に諦めるとは思えない。でも、様々な理由からはっきり拒絶できないのもわかる。
バルドウィン様は私の真剣な表情を見て、渋々答えてくれた。
「はっきりと断れればいいんだが、そうもいかないんだ。現フィッシャー男爵である叔父上は、ユーディットと私の婚姻を望んでいるように見せているが、内心複雑なんだろう。兄である父が伯爵家を継いだことも、妻である夫人が父を思っていたことも、憎々しく思っていたようだ。というのも、本来なら父の継承権は二位で、余程のことがない限り継ぐはずがなかった。だから、叔父上も伯爵家を継げると夢を見てしまったんだ。それに、男爵夫人は父を諦める代わりに、叔父上との婚姻を望んだと言われている。叔父上は夫人が妥協で自分と結婚したと思っているから、父とは疎遠になっていたんだが……」
「バルドウィン様とユーディット様が産まれたから変わったんですね。夫人が自分の娘であるユーディット様とバルドウィン様を結婚させたくなって」
バルドウィン様はソファに深く腰掛けると、天井を仰ぎながらため息をついた。魂が抜けるんじゃないかと思うくらいに重いものだ。
「そうなんだ……。その夫人もユーディットと負けず劣らずの妄想、いや想像力のたくましい方で。どうにかしてユーディットと私を結びつけようと、私に近づく令嬢に嫌がらせをしたり、ユーディットを私の寝所に送り込んで既成事実を作ろうとしたり、それが叶わないとわかると事実を捏造したり……。ユーディットは夫人の言いなりになっているところもあると思う」
「それって、バルドウィン様と結婚しなければならない、と夫人に洗脳されているように感じるんですが」
「まさしくそうだよ。私としてはこれ以上叔父上との関係を拗らせたくないから穏便に断りたいし、ユーディットには目を覚ましてもらいたい。だが、当人である私が他に目を向けろ、と言ったところで効果はなかったんだ」
なるほど。確かにそう言われても、余計に自分を思っての言葉にしか響かないから効果はないかもしれない。
だけど、第三者なら?
特に私なら気にいらないから、言うこと為すこと全てに反発するだろう。
で、うまく誘導して他に目を向けさせればいいのでは?
──ガーデンパーティー、絶好の機会じゃないの。
「……バルドウィン様。私に任せてもらえますか?」
バルドウィン様は私の申し出に視線を落として私を見る──と、体をびくりと震わせた。なんだか顔も引きつっている。失礼な。ちょっと面白いことを思いついただけなのに。
「な、何をだ?」
しかも吃った。まあ、いいけど。今の私は素晴らしい思いつきで頭がいっぱいなのだから。
「ユーディット様を円満に諦めさせる方法を思いつきました」
読んでいただき、ありがとうございました。




