届いた手紙の検分2
ブックマーク、感想ありがとうございます。
さあ、気をとりなおして次。
えっと、三通目は……ライナー・フィッシャー。
この方は、ビアンカ様の弟で、フィッシャー男爵家に婿養子に行った。現在は男爵家当主だけど、娘をバルドウィン様に嫁がせて、自分が伯爵家の実権も握りたい、ということらしい。
さらに聞いた話ではフィッシャー男爵夫人である奥様は、元々この方の兄であるバルドウィン様のお父様に好意を寄せていた。だけど、バルドウィン様のお父様が伯爵家を継ぐことになり、婿養子に来てもらえないので、泣く泣く諦めたそうだ。
実際に手紙を読んでも、聞いていた話と大体同じだった。
フィッシャー男爵家はヘルツォークと違ってお金があるし、娘は美人でどこに出しても恥ずかしくない立派な淑女だ。何故君が私の娘ではなく、貧乏なみすぼらしい娘を選んだのか、理解に苦しむ。今からでも遅くない、目を覚ませ、とあった。
……寝ぼけているのはあなたの方では?
同じ男爵家でどちらが上か下か張り合ってどうするんだろうか。
伯爵位にもなれば、その位の中でも雲泥の差があるけど、男爵位はそんなに変わりはない。だから、もし私と離婚したとしても、再婚するなら子爵令嬢か伯爵令嬢だと思うんだけど。
はっきり言って、この程度のこともわからない人に馬鹿にされようが、痛くも痒くもない。
だけど何というか、この方の手紙からはミュラー伯爵家というよりも、バルドウィン様のお父様への私怨を感じる。きっと奥様とのことがあるのだろう。先程の二人よりは対処がしやすいのではないだろうか。
で、続く四通目はユーディット・フィッシャー。
なるほど、この方がライナー様ご自慢の娘さん。この方は幼い頃からバルドウィン様の自称婚約者で、結構思い込みが激しいらしい。自分こそが伯爵夫人に相応しいと吹聴して回っていたそうだ。
そんな彼女がバルドウィン様の結婚を知ってどうでるか……。手紙に目を滑らせて思わず苦笑が漏れた。
『あの田舎娘に脅されて仕方なく結婚したのでしょう。わたくしにはわかっております。あなたがわたくしの思いに応えてくださらなかったのは、こうなる運命だとわかっていたのですね。
ああ、何ということでしょう!
ですが、心配なさらないで。今は間違った道を進んでいたとしても、道は必ず元に戻るはず。
今は試練だと思って耐えるのです。そうすれば再びわたくしたちの道は交わるはずですわ』
これは面白い。芝居掛かった手紙というのは初めて読んだ。個人的にはこの方が一番好きかも。
というか、この場合、バルドウィン様が耐えるのは私との生活だろうか。試練の結婚生活。この方の中では一体どんな結婚生活なのか、聞いてみたい。
その後も壮大な物語が展開されていて、思わず読みふけってしまった。ただ、登場人物がユーディット様とバルドウィン様しかいないのが残念だ。一応私も脇役なんだけど。敵役を登場させたら、より一層物語が面白くなるに違いない。いつか私を彼女の物語に登場させてはくれないだろうか。
と、ここまで読んだけど、本当に三者三様だった。
後の手紙は昔、他家へ嫁いだ方の従兄弟だ、再従姉妹だ、なんだと、ここまでくると血が繋がってるのかと疑う度合いになってくる。なのに、自分にはそれだけの能力があるから、そちらの養子になり、伯爵家を継ぐ覚悟があると自信満々だ。
確かに、傍系でも能力があれば養子になり、継ぐことはできるだろうけど……。
貴族年鑑によると、その方々は三男以下の方ばかりだ。働き口を探さなければならないから、藁をも掴む思いでバルドウィン様を追い落としたい、ということなのかもしれない。
だけど、矛盾している。
バルドウィン様から当主の座を奪いたいくせに、バルドウィン様に口添えしてもらって伯爵家の養子に、というのはあまりにもバルドウィン様を馬鹿にしていないだろうか。
この人たちを呼んでのガーデンパーティーか……。バルドウィン様が精神的に大丈夫なのか心配になる。
それでも言いだしたのはバルドウィン様だから、私はそれに従うだけだ。
手紙を全て読み終えると、すぐに執事を呼んだ。それからガーデンパーティーの招待状の手配、席順などについて、執事と話を詰めていった。
読んでいただき、ありがとうございました。