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結婚式にて

感想、評価、ありがとうございます。

 婚約期間は二週間。その間に、私がバルドウィン様の身内に紹介されることはなかった。


 バルドウィン様との間にまだぎこちなさが残るから突っ込まれた時に困るし、バルドウィン様から一人一人がどんな人なのかを教えてもらっていたからだ。


 やっぱり知らないと対処ができない。口だけなのか、あからさまに嫌がらせをされるか、それによっても振る舞い方は変わると思う。


 その甲斐あって、心構えは大分できてきた。あとは対峙してみないとわからないから、とりあえずは目の前のことに専念しないといけない。


 思い切り頬を叩いて気合を入れた、のだけど──。


「痛い……」

「……そりゃあ痛いだろう」


 兄の冷静な突っ込みが悲しい。だけど、こうでもしないとおかしくなりそうだ。


「だって……見てください、このドレス! どれだけお母様気合を入れたんですか!」


 真っ白なウエディングドレスには、袖だけではなく、襟ぐり、裾に繊細な刺繍が施してある。布だって、光沢があり、軽くて肌触りがいい。恐る恐る母に尋ねてみた。


「お母様……ひょっとして、ひょっとしなくても、これって絹ですか?」

「ええ、そうよ。すごいでしょう? やっぱり一生に一度の物だから奮発したのよ」


 母は私の全身を上から下まで見ると満足気に頷いた。


「奮発って、私の借金じゃないですかー! なんてことをしてくれたんですか!」


 絹は作り出す工程から高価になると聞いた。たった一度しか着ないものに目が飛び出そうになるほどのお金をつぎ込んでどうする!


 しかもそれは私が出世払いで払うことになっているのに……。


 頭を抱えてぐるぐると歩き回っていると、アロイスが突っ込んできた。


「姉上、そんなことよりも、じきに式が始まるのでは?」

「……わかってる。だけど逃避したくなってもいいじゃない」


 そう。今日は迎えた結婚式当日で、ここは教会の控え室。

 教会には既に多くの人が集まってきている。


 さすがは伯爵家当主の結婚式。なんて感心してる場合じゃない。主役のもう一人は私。信じたくないけど私なのだ。


 私を見たクリスティンは、頬を紅潮させる。


「お姉様、綺麗……! すごく似合ってます!」

「ありがとう、クリスティン」


 お世辞でも嬉しい。と言おうとしたところでクリスティンの顔が泣きそうに歪む。


「だけど、寂しいです。お嫁に行くのはいいことだけど、離れ離れになるんですね……」

「クリスティン……大丈夫よ。また会えるから!」


 そのためにも頑張って仕事をしてこよう。私は屈んでクリスティンを抱きしめた。


 寂しいけれど、これもみんなのため。


 クリスティンやイルザの持参金や、身の回りの物を揃えるためにもお金がいる。


 アロイスやダニエルは次男、三男ということもあり、爵位を継げず、自分で身を立てていかなければならない。そんな二人にもまだまだ教育は必要だ。


 兄もいずれ結婚して跡を継ぐ。その時のための人脈を私を通じて作って欲しい。兄の人柄をわかった上で付き合ってくれ、離れていかない人が望ましい。わかりにくくて相手に誤解を与えてしまう人だから。


 自分のためだけならきっと心が折れていた。こうして慕って心配してくれる人たちがいるから私は頑張れる。


 待ってて。いずれ帰るから。

 そんな言葉を飲み込んで、私は式に臨んだ。


 ◇


 その後、大勢の人に見守られ、式は厳かに始まった。


 普通にしていてもカッコいいバルドウィン様は、白のタキシード効果もあり、何割り増しかでカッコよくなっていた。それを見て思わず踵を返しそうになったとしても私の責任じゃない。


 ……もっと相手に相応しい人がいただろうに。

 ビアンカ様が何を思ってバルドウィン様に私を勧めたのかはわからないけど、よくもまあバルドウィン様も、私と形だけとはいえ結婚を受け入れたものだと感心する。


 きっと私は死んだ魚のような目になっていただろう。早く終わらないだろうか。そんなことを考えながら誓いの言葉を言っていた。無意識ってすごい。

 そうこうしているうちに式は終わりに近づいた。


「それでは誓いのキスを」


 こうなることは織り込み済みだ。これは唇でなくてもいいらしい。バルドウィン様と打ち合わせをして、頬に軽くするから、私が恥じらう演技をする。そちらの方が初々しい花嫁を演出できるからと決めた。


 打ち合わせ通りにバルドウィン様は私のベールを上げて、頬にキスをした。途端に湧き上がるお祝いの声。


 その声に紛れて隣に立っているバルドウィン様が小声で話しかけてくる。


「……大丈夫か?」

「……そんなわけないでしょう。拷問ですよ」

「あともう少しだから我慢してくれ」

「見世物になった分、余計に請求しますからね」

「わかった」


 恥じらうように伏し目がちに周囲を観察すると、女性勢の視線が刺さる。憎しみ、嫉妬、怒り、そんな感じだろうか。


 お家騒動以外は業務外なのだけど。


 何だか余計な敵を作った気がして、それも含めて余分に手当を請求してやろうと心の中で誓うのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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[一言] 嫉妬している人「キスの代金請求するぞコラ」
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