魔王と受付嬢
魔王は、ギルド前の広場で人を待っていた。
「あ、すいませんベルクさん。待たせちゃいましたね…」
「問題ない。俺がどのくらい早く着けばいいかわからなかったから早く来てしまっただけだ。」
(〜っ!さりげなくフォローしてくれるところもイケメン!それに、素朴な服なのにベルクさんが着るとすごくオシャレに見えるくらい今日もイケメン!こんなイケメンと今から私がデート!私が、イケメンと、デート!)
「まずはどこに行くんだ?」
受付嬢が幸せでどこかに飛んでいきそうになっていた意識を戻す。そうなっているのも冒険者にイケメンが少なく、イケメンに対する免疫が皆無なためである。
「えっと、まずはベルクさんの服を買いに行きませんか?今来てるのも素敵ですがもっと似合うのがあるはずです!」
「あ、ああ。わかった。なら服を買いに行こう。」
歩く女性の視線をほぼ全て集めながらも魔王は服屋に向かって歩いていった。
「いらっしゃいませ!…!(イケメンがこの店に⁉︎)」
「何か似合いそうな服はあるか?」
「それならこれはどうでしょうか?」
店員がそう言って持ってきたのは派手というほどではないが、趣味の良い貴族が着ていそうな程よい装飾が施された服だった。
「これは冒険者が街中できる服ではないような気がするんだが…」
「とりあえず試着だけでもどうぞ!」
とりあえず試着して店員と受付嬢に見せる。
「いいですよ似合いますお客さんお客さんのそこはかとなく上品な感じの雰囲気とその服の(略」
「すごく似合ってますよベルクさん!もうそこらへんの貴族よりも貴族らしい気品が出てますよ。」
周りからこっそり見ていた女性客達も興奮して鼻から赤い液体が一筋垂れている。
「次はこれを!」
なぜか執事服だ。
(貴族から使用人になったんだが…)
またも試着する。
「これもまた完璧な執事みたいで素晴らしいですお客さん!上級の貴族に仕えるエリートって感じが滲み出ていて(略」
「できる男って感じでカッコいいですベルクさん!(こんな執事さんにいろんなご奉仕されたい…)」
鼻から(以下略)女性客達はそれを見て、もはや物理的に衝撃をくらったかのようにのけぞっている。全員がシンクロしていて喜劇のようになっているが影から覗いていたのだけなので魔王達からは見えていない。しかし、外からは見えているので通行人が何事かと驚いていた。
・・・・・・・・・
小一時間かかってようやく解放された魔王は服屋を出て受付嬢と通りを歩いていた。
この通りはやけに鍛冶屋と宝石店をよく見かける。
「ここら辺には宝石店や鍛冶屋が多いんですよ。女性達ああいうネックレスとかに憧れるものですけど、高いからなかなか手が届かないんですよね。」
「そこがこの通り一番の職人がいると言われている鍛冶屋です。見てみますか?」
「ああ、一番の職人の作品には興味があるな。」
魔王も鍛治をしたりする(魔法で)ので興味が湧いたようだ。二人は鍛冶屋に入っていった。
「うーん、なるほど。」
もっとすごいかと思っていたんだが、金属の比率も技もまだまだだな。
「なんだか微妙な表情ですが、どうかしたんですか?」
「なんだ、俺の作品に不満でもあるのか?」
突然店の奥から頑固そうな老人が出てきた。
図ったかのようにちょうどいいタイミングである。受付嬢は固まっている。
「そうだな、まず、金属を混ぜる比率が甘いと思う。」
「ほう、長年研究してこれが一番だったんだがな。」
「この短剣ならば、丈夫で切れ味がいいものにするために、アダマンタイトを多めに、オリハルコン、鉄をそれより少なめに、ミスリルをほんの少し入れるといいだろう。こんな感じだ。」
そう言ってストレージからそれぞれの材料を適量取り出し、魔法で合金にした。
「むむっ!錬金術師か何かなのか?それにしてもこれは…」
「まあ、見ていろ。短剣ならすぐに作れる。」
魔法陣が現れ、作られた合金から短剣を作り出していく。
やがて、無駄のなく、洗練された素晴らしい短剣が出来上がった。
「これで完成だ。鋼で試し切りでもするとしようか。」
今度は鋼の棒をストレージから取り出し、
短剣を振るう。すると、鋼の棒はいとも容易く真っ二つになり上半分のみ床に落ちていった。
「何という切れ味だ!鋼の棒が容易く斬れるとは…それも力技というわけでもなく、すっと斬れていた。お前は、いや、あなたは他所で有名な鍛治師なのか?」
「そういうわけではないがこれはやるからもう少し研究してみるといい。」
「わかった。次に会うまでにはこれに近いものを作れるように精進しよう。」
ゴブリンとこの鍛治師、どちらに方が早く成長するだろうか。ちなみにゴブリンはもう少し経ってから呼んで進捗を確かめる予定である。
そうして魔王と受付嬢は鍛冶屋を後にした。
(ベルクさん色々とミステリアスです…)
受付嬢からすれば何が何だかわからず、ベルクという存在の謎が深まるばかりだった。
・・・・・・・・・
「ちょっとお昼を過ぎちゃいましたけど、ご飯を食べに行きましょうか。私、おしゃれで美味しい料理が出てくるお店を見つけたのでそこで食べましょう。」
「それなら、案内は任せた。」
「はい。もちろんです。」
鍛冶屋から数分ほど歩くと、受付嬢が言っていた店の前にたどり着いた。
「ここです。この店が私のおすすめなお店なんですよ。」
なるほどな。外観は綺麗に手入れがされているように見えるな。それに程よく花や植物で飾っていて小綺麗な印象が出ている。
「さぁ、入りましょうか。」
店の中は白く塗られた壁で、自然光で程よい明るさに保たれるように配置された窓があり、店員も男女共に白を基調としたおしゃれな服を着て接客をしていた。
いまさらだが、魔王は宝石細工をしているだけあって、美的なセンスは結構あるのだ。
「いらっしゃいませ。ご注文はいかがいたしますか?」
「私は野菜とハムのサンドイッチで。ベルクさんはどれにしますか?」
うーん、あまりよく知らない料理名が並んでいるな…絵が描いてあるからそれで決めればいいか。
「このキノコと鹿肉のクリームパスタというのを頼む。」
「かしこまりました。料理が出るまで少々お待ちください。」
この世界の料理は基本的に美味そうだし楽しみではあるな。
「このお店、なかなかおしゃれでしょう?ベルクさん。お付き合いしている人とこういうお店に来れたらいいですよね。(チラッ)」
オツキアイとは何だろうか?元の世界ではそんな言葉は無かったからどういったものかわからんな。
「それより、今日は冒険者になったお祝いでしたね。改めて、おめでとうございます!ベルクさん!」
「ありがとう。こんな風に祝われるのは結構久しぶりだ。」
魔王就任以来だろうか。魔王として忙しかったから趣味もあまり楽しめなかったぐらいだしな。そもそも祝えることなどないほど毎日争いやら何やらで大変だった。
昔のことを思い出し、感傷にひたっていると、料理とともにいい匂いがこちらに運ばれてきた。
「失礼します。サンドイッチとパスタです。
ごゆっくりどうぞ。」
おお、実物を見てみると絵よりも美味そうに見えるな。受付嬢が頼んだサンドイッチという料理も手軽に食べられそうな見た目をしているし美味そうだ。
パスタを口に運ぶ。クリームと鹿肉の脂、キノコが抜群にあっていた。
「ベルクさんのも美味しそうですね。」
「少し食べるか?ほら。」
(べ、ベルクさんが使ったフォーク…)
「じゃ、じゃあいただきますね。」
(ぱくり)
「美味いか?」
「え、あ、はい。とても美味しいです。(興奮してて味はあまりわからないけど…とにかく顔が熱い!)」
周りの客は呪うような視線を向けたり砂糖をそのまま口に流し込まれたかのような顔をしたりしている。
その後、魔王がさりげなく料理の代金を全て払い、何だか動きがぎこちない受付嬢を連れて出ていった。
「では、今日はこれで。機会があればいいところを見つけておくので今度はベルクさんから誘ってくださいね?」
「そうだな。また機会があれば行こうか。
…あー、いまさらけど名前を聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
「そういえばまだ名前を言ってないですね…
私は冒険者ギルド、ダスエルステ支部のエマです。よろしくお願いしますね、新人冒険者さん。」
「ああ。改めてよろしくな。それと、これはこれは今日のお礼だ。」
そう言ってストレージから出したのは魔王が作った綺麗なネックレスだ。宝石店の前を通った時に受付嬢改めエマが言っていたことを思い出したためだ。そしてエマの首に手を回しそれを付けた。
「今日はありがとう、エマ。」
「は、はひ!こちらこそ!」
「じゃあ、またな。」
エマは魔王が去った後もしばしぼーっと立っていた。
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〜元の世界の恋愛事情〜
惚れた!→求婚!→yes! or no !
以上。
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