魔王と試験と装備製作
忙しい時期が去ったので投稿でございます。
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宿屋の娘の朝は早い。起きたら身だしなみを整えて、まず料理を作り、お客さんを起こしてそれから使われたシーツ類を洗い、その後にお客さんが食べた料理の皿を洗い、お客さんが出掛けるならば見送りまでするのだ。
今日はいつもよりも綺麗に身だしなみを整え、料理にも力を入れ、イケメンなお客さんの寝顔を眺めた後、優しく起こし、シーツにちょっと顔を埋めてみたりしてから名残惜しそうに洗濯し、お客さんが残さず綺麗に食べてくれた後の皿を見てニマニマしながら洗っていた。
両親は昨日今日と生暖かい目をするオブジェかのように生暖かい目で見守り続けているのだった。
いつもであれば完璧な美少女なのだが昨日今日は残念美少女になっていた。
・・・・・・・・・
魔王は宿屋で朝食をとった後、早速冒険者ギルドに向かった。
朝早くなのでどこの通りも店の準備をする人々ばかりで、割と静かだ。
ギルドもまだ朝だからか、閑散としていた。
「あ、早いですね。試験官の方はもう少ししたら来ると思うので待っていてくださいね。」
「ああ、分かった。」
魔王はただぼーっとしてるのも暇だからギルド内を見て回ることにした。
ギルド内の半分は酒場になっていて、もう半分は受付と依頼が貼ってある掲示板のスペースになっている。酒場と受付の間には仕切りがある。おそらく酔った冒険者が受付嬢を見て絡みに行かないようにするためだろう。
他には有名な冒険者が使っていた武器や、この周辺で有名なハンターのサイン、冒険者のランキングなどがあった。
ランキングはカッコイイ戦い方をする冒険者や美人な冒険者、イケメンな冒険者、今注目の冒険者、筋肉がカッコいい冒険者などとにかく色々あった。暇なのだろうか?
ちなみ、イケメンな冒険者のランキングで、ここに来たばかりにもかかわらず魔王がランク急上昇中であった。魔王を見た女性の冒険者は噂し、男性冒険者は血の涙を流していることなど魔王は気づかない。
そんなふうに魔王が暇潰ししていると鍛え上げられた体の男がギルドに入ってきた。
「何か御用でしょうか?」
「試験官の依頼を受けに来たんだが。」
「あ、試験官の方ですね。ベルクさん!試験官の方が来ましたよ!」
思ったよりも試験官は早く来たようだ。
どんな試験かはわからんが流石に魔王が受からないことはないよな。
「おう、お前さんが試験を受けるのか。見たところ実力に問題は無さそうだがこれも仕事だから試験は規定通りやらせてもらうぜ。」
「ああ、よろしく頼む。」
試験の会場は冒険者ギルドの裏にある訓練場で行われた。たまにランクが高い者が決闘や訓練をする為、結構頑丈だそうだ。確かに魔法も使って強固にしてあるな。
「まずは剣の腕前からだな。その木刀を使って俺にかかってこい。」
「ああ。いくぞ。」
初っ端から思い切り踏み込んで一瞬で試験官に近づき袈裟斬りを放つ。試験官は少し驚いた様子だが普通に防がれてしまった。
「やるじゃねぇか。すでに一人前の冒険者レベルは確実にあるな。」
防がれた時の反動の勢いのまま反転して木刀を叩きつけ、防がれては突きを放ち…としばらく俺は攻撃を続け、試験官は全て防ぎ、受け流していた。
「次は俺から攻撃するからしっかり防げよ。」
どうやらここで攻守を交代するようだ。
試験官の重い剣撃を防ぎ、受け流していくが、少しずつ打ち込まれる速度が速くなっている。ギリギリ防げる速さになると剣撃は止んだ。どうやらどこまで防げるか試していたようだ。
「剣の腕前はわかったし、次は魔法の威力を見させてもらうぜ。とりあえずあの的に向かって簡単な魔法を全力で放ってくれ。」
全力でも確かに大丈夫そうなので最大威力のファイアボールを放った。小さいが、魔力が詰まっているのでそれなりに強力なはずだ。
真っ直ぐ的に向かって飛んでいったファイアボールは的に当たると一瞬で炎で包み込み、完全に溶かした。溶け方と溶けた後のものを見ると材質はミスリルのようだ。宝石細工でよく使っていたから今は溶かすくらい楽勝だ。
「おお、なかなかの威力だな!本当に駆け出しとは思えないくらいだ。」
魔王なのだから実際には駆け出しとはいえないが、そもそも魔王なのに無双できない時点でこの世界はおかしいと思わなくもないがそんなものだと思うしかない。上には上がいるというやつだ。
「とにかく、これで訓練場での試験は終わりだ。これは文句なしの合格だから実地試験を受かれば合格だ。まあ、簡単な依頼を受けるだけだからよほど油断しなけりゃ大丈夫だろう。受付に戻れば説明されるはずだ。ほどほどに頑張れよ!」
「なるほど、実際に依頼を受けるのか。
わかった。ありがとう。」
そして訓練場を後にし、受付へ戻った。
「文句なしの合格だそうですね、ベルクさん。試験官さんも将来が楽しみと言っていましたよ!…それで次ですが、この薬草採取とゴブリン退治の依頼を達成すれば合格です。期限は3日なので頑張ってくださいね。
応援してますよ!…それと、もし受かったらお祝いで食事に行きませんか?この街の案内も兼ねて。」
「わかった。期待していてくれ。」
(他の受付嬢がいない間にデートの約束!一歩リードできたわ!)
受付嬢は心の中で喜びを噛み締めた。
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一旦宿に戻るとすぐに依頼を達成するために
装備を作り始めた。
ストレージの中にも魔王の時に使っていた剣はあるが、あんなものを冒険者が持っていたら目立ちすぎるのでやめた。魔王としての雰囲気を出す為に無駄に禍々しく作ってしまったからだ。ちなみに瘴気がオプションで出るようになっていて無駄に凝っている。
「まずは剣だな。」
魔王は色々な金属をストレージから取り出した。魔王は色々な金属を混ぜて合金も作れるのだ。それも簡単なのから魔王以外誰も知らない超複雑なものまで。金属の比率や温度を完璧にしないといけないのもあるのだが、もともとの才能か、なんとなくでもできるらしい。もうただの職人であった。
魔王はオリハルコン、アダマンタイト、ミスリル、少しの鉄と魔石を魔法陣に置いた。
これは頑丈かつ魔法を纏わせることができる金属の比率だ。
魔法でやるからと言って簡単ではない。時間は大幅に短くなるが、魔法と金属についての深い理解が無いと到底できないのだ。
そして魔法を発動させ、緻密なコントロールで魔法を操った。
しばらくして剣が出来上がった。見た目は意外にも白っぽい鉄のようで、一見凄そうには見えない。しかし、この剣はそんじょそこらの名剣を遥かに超えたものなのだった。
「次は小手と胸当てだな。簡単な依頼らしいし軽い方がいいだろう。」
すでにやばい剣を作っていて確実にオーバーキルなのだが魔王は気にしない。
今度はオリハルコン、アダマンタイト、魔石、鉄、そして少量のミスリルを魔法陣に置いて魔法を発動、小手を作る。
頑丈かつ魔法も防げるような金属の比率だ。
今度は少し黒っぽい鉄では無いだろうと一目で分かる見た目だ。
次は胸当て。魔物の皮にミスリル、魔石、鉄、オリハルコン少量、アダマンタイト少量で魔物の皮に薄く塗っても硬くなりにくく動きが阻害されにくい比率になっている。
商品ではなく自分の装備なので、魔王はこれらに銘をつけた。その方が愛着が湧いて大事にできそうという理由だ。理由が魔王らしく無いが大切なことだ。
剣にはフォルスヴェグ、小手はアンスタブリクと名付けて彫り、胸当てはアンスタフェリクと名付けてアダマンタイトの粉から作った黒っぽい絵の具で書き、定着させた。
それぞれ、元の世界にあった言語でそれぞれ偽弱、不壊、不死といった意味の名前をつけた。
装備を作り終えた頃には昼だった。早くに起き、試験もすぐ終わったのにもう昼を過ぎていた。
「さて、昼食食って、早く依頼を終わらせに行くか。」
魔王は装備をストレージにしまい部屋を出ていった。