転生、一つ目の世界。
「これで終わりだ!魔王っ!ハァァァァァッ!」
魔王として人類を追い詰めていた俺は、勇者の聖剣によって心臓を貫かれた。
「ぐあぁっ!勇者め、覚えてろ…いずれまた蘇って、お前に復讐してやる!」
俺は勇者に復讐を宣言し、直後、
意識は深い闇に落ちていった。
意識がなくなった魔王の下で音もなく魔法陣が現れる。聖剣の神力と俺が死ぬ時に体から絞り出した魔力によって、予め隠していた俺の死を条件に発動する転生の魔法陣が起動したのだ。そう、この世界ではない世界に、俺は転移する。要は他の世界で、出会ったことのない強い敵を倒し、パワーアップして勇者を倒しに帰ってくるのだ!
そして闇の中に一筋の光が迸ったと思うと
俺はそこに吸い込まれていった。
・・・・・・・・・
…目を開けるとそこは青空が広がる草原だった。そよ風の感覚や草の感覚はしっかりとある。
「うまく転生することができたみたいだ…ここからは俺のターンだ、勇者!」
勇者には聞こえることはないだろうがが、元魔王は自分を鼓舞するために叫ぶ。
その時、急に辺りが暗くなった。
嫌な予感がして上を見ると、そこには…
Lv 110のワイバーンが悠々と羽ばたいていた。
「何でいきなりLv 110のワイバーンがいるんだ⁉︎」
転生したばかりなのにいきなり死にそうなのだが?
転生して調子に乗っていたせいなのか?
こういうのは本当に勘弁して欲しいんだが…
勝てないことはないかもしれないがワイバーンは素早いし飛んでるしとにかく厄介だからこっちも結構な怪我を負うだろう。というか転生前の世界のワイバーンはそんなにレベルが高くないんだが…
それに、このワイバーンは元の世界のドラゴンより強いのでは?
とにかく今は逃げるしかない。
魔法の準備もできてないしいきなり互角な死闘なんてしたくないからな…
そう、俺はLv 99でこのワイバーンよりも弱いのだ。元の世界でのレベル上限はLv99。ちなみに勇者は神の力とやらで限界突破したことによってLv 150である。理不尽だ。この世界はいきなり上限をぶち壊して来るなんて理不尽すぎると思うんだが…
というかどうなっているんだろうか?
この星では上限がないのだろうか?
…もしそうであれば勇者を超えるチャンス
ではないだろうか。
そんな期待をしながらも命からがら数時間かけて地味に速いワイバーンから逃がれたのだった。
・・・・・・・・・・
夢中で逃げている内に運良く街の近くまで来ていたらしく街の防壁が見える。そして街の門まで来ると衛兵が気怠そうに立っていた。
…そしてただの衛兵のはずなのだが
レベルは何と、150だった。
そこまで大きいようには見えないこの街の
衛兵で勇者と同レベルというのは流石に
何とも言えない気持ちになる。
微妙な顔をしていると、衛兵に声を
かけられた。
「おーい、とりあえず身分を証明できるものはあるか?」
そんなもの持っていないな…
ならば!
「いや、途中で魔物に襲われて重かったから荷物を置いて逃げてきたんだ。」
「なるほど、それは災難だったな…
ならとりあえず滞在許可は出してやるから
冒険者証でも作成しておくといいぞ。」
よし、何とか切り抜けられた。流石は
魔王な俺。
「ああ。そうする。次はレベルを上げて荷物を置いていかなくてもいいようにしないとな。」
「ハハッ、そうだな。じゃあ頑張れよ!」
・・・・・・・・・
街は結構きれいで活気もあるところだった。前の世界では見かけなかったものも売っているようだ。
とりあえず冒険者ギルドを探しながら
色々なところを見ていくとしよう。
そうやって歩いている内に冒険者ギルド
っぽい建物まで辿り着いた。
…何というかでかいが、外からでもとにかく騒がしいのがわかった。
そして建物に入ると想像通りで、顔に傷が
あるやつや、大剣を側に立て掛けている
筋肉ダルマ達が酒を飲みながら騒いでいた。
受け付けに行くと、受付嬢が顔を赤らめながら声をかけてきた。アルコールの匂いで酔ったのだろうか?
「何か御用でしょうか?」
「冒険者として登録がしたいんだが?」
「で、ではこのカードに触れてください。」
言われた通りに触れるとカードが淡く光って名前や職業やレベル、冒険者のランクが
表示された。
名前はベルク?…そういえば魔王になる前に
お忍びでいろんなところに行った時に自分で付けて名乗ってた名前だったな。
魔王になってからは魔王様としか呼ばれて
なかったから忘れてた。
しかしこれほど早く終わるのは少し驚きだ。こういう魔道具は転生前にもあったが、もう少し時間がかかるし、こんなに軽く渡せるほどには安くない。この世界は技術も進んでいるのかもしれない。
「これで仮登録が出来ましたので明日の朝、ギルドの試験にきてくださいね。」
「分かった。」
なぜか仮登録が終わってギルドを出るときに俺に結構たくさんの視線が向けられていた。
女性の視線が妙に多い気がするし、男からはなんとなく敵意が向けられているような気がするのだが?
ぼそぼそとこちらを見ながら何か独り言を呟いている一番近い男の声にバレないように
聞き耳を立てる。
「ちくしょう、新人のくせに…顔がすべてじゃねぇっての!(泣)」
?…何故か恨むような声が聞こえた。
解せぬ。
それに、女性たちもひそひそと話しているが遠巻きなので流石に聞こえない。魔王の時は配下は男ばかりで女性との関わりがなかったからな…
女性のことは良くわからん。
本当に何でかわからないが、俺はそそくさと
その場から立ち去った。
・・・・・・・・・
再び街を歩いていると腹が減ってきた。よく考えたら収納魔法の「ストレージ」には転生前の通貨はたくさんあるが、この世界の通貨は全く持ってない。どうしようか?
…まあとりあえず金になりそうなものを
ストレージから出して売ればいいだろう。
何かしら買い取りをしているところをさがしていると、宝石店で宝石を買い取っているようだったので適当にストレージに入っている、趣味で自分でカットした宝石を出して店に入った。
店に入ると仕立ての良い服を着た老人が出てきた。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件で?」
「これを買い取って欲しいのだが。」
「む?これは、なかなか。これほど良いものならばこれくらいでどうでしょうか?」
そう言って提示してきた金額は思ったよりもかなり高かった。こんなに高く買い取って損しないんだろうか?そう考えていると、
「お客さんの考えは大体読めますが、これはかなり上等な方なのでこれが妥当でしょう。」
…エスパーなのだろうか
「お節介かもしれませんがお客さんは
考えが全部顔に出るタイプみたいですねぇ。」
そんなに分かりやすかったんだろうか?
まあ、気を付けるようにしよう。
「それでは次の機会があれば
この店をご贔屓に。」
「ああ。また用があればだけどな。」
思ったよりも金が入ってきたし今日は
さっさと宿をとって、明日に備えて
眠るとしよう。
ブックマーク、評価、感想をくださると嬉しいです よろしくお願いしますm(-_-)m