プロローグ
――――――私立鳳凛高校
某都内のごくごく普通の高校である。
そんな平凡な高校だったが、昨年の4月――1人の女子生徒によって、この高校は普通とは少し違う高校になってしまった。
その女子生徒とは、この学校の高嶺の花のことである。
そんな学校の高嶺の花的存在なんてどこにでもいるだろう、と誰もが思うだろう。
しかし彼女はそこらのマドンナや、高嶺の花とは違う。
彼女は学校の、絶対的高嶺の花なのだ。
この物語では、そんな彼女の話をしよう。
ここでいきなりではあるが、一つ問いかけをしてみよう。
品行方正・頭脳明晰・容姿端麗
この3つの言葉が表すものは何でしょう?
答えは…
そう、彼女だ。
この学校の生徒にこの問いかけをしたらきっと間髪入れずに彼女の名前を出すだろう。
それくらい、彼女を表している言葉なのだ。寧ろ、この3つの言葉は彼女を表すためにあるのだという者もいる。
では、その3つの言葉に沿って彼女を説明してみようか。
まず、品行方正。
それもそのはず、なぜなら彼女はあの白木院一郎の娘なのだから。
白木院一郎というのは宝石を取り扱っているファッション会社・シファンスの社長である。
一郎の祖父の祖父にあたる代の時は、白木院家はただの宝石店の店長だった。しかし、その次の代にはドレスや鞄などにその宝石を施すようになり、作った物を売るようになって大きな店へ。それから日本で有名なブランドになり、結果海外進出を果たした。
今では世界でも有名な会社だ。
そのため、彼女の家はとても裕福である。
シファンスは代々白木院家の者が継ぐことになっており、一郎は彼女を次期社長として、幼少期から様々なことを学ばせた。
次期社長として恥の無いようなふるまいをさせるため、礼儀については厳しく躾けられている。そのため、彼女の仕草はとても綺麗だ。
次に、頭脳明晰。
彼女はとても頭が良い。
期末テストなどではいつも学年1位、全国模試でも必ず10番以内には入れるほどだ。
頭脳明晰とは違ってしまうのだが、彼女は運動もよくできる。
この前、捻挫してしまったクラスメイトの代わりにバスケ部の試合に出た。するとチームの中で1番多くシュートを決め、更にメンバー達に的確な指示を出し、結果バスケ部は全国大会へと出場できた。
さすがに全国大会では上位には入れなかったものの、ここまで来れたのは彼女の力あってだ。
つまり、彼女は運動もできる。
最後に、容姿端麗。
腰まである黒髪は念入りに手入れされているのか、絡まることはないほどサラサラで、艶がある。また、まるで絹を触っているかのように柔らかな髪で、ずっと触っていたくなるほどだ。
目は、ぱっちりとした二重。白に近い灰色である。その目は吸い込まれてしまいそうなほど綺麗である。
鼻は小さく高く、筋がスッと通っている。
唇はまるで今咲き誇った薔薇のような紅色。いつも潤っている。
肌は白く、まるで雪のようだ。
スタイルは、出るところは出て、引き締まるところは引き締まっており、まさに理想のスタイルと言える。
もうわかると思うが、彼女は何でもできるまさに完璧な人間なのだ。
そんな彼女に憧れ、学校では彼女のファンクラブもできている。
まさに、“高嶺の花”。
だが、この物語にはそんな完璧な彼女はいない。
確かに彼女はこの小説の主人公だし、あの3つの言葉の通りだということは事実である。
だが、この作品で見せる彼女は、一味違う。
それは何故か?
なんと彼女には、誰にも言えないような秘密があったのだ!
その秘密は、まだ誰にも知られていない。
彼女が感謝している両親にも、信頼している侍女にも、彼女に憧れている学校の生徒にも。
この秘密は、誰にも知られてはいけない。
皆の理想の私でいなければいけない。
…その、秘密とは―――?
それでは、彼女の日常の一部分を見てみよう。
静かに、屋敷のドアを運転手が開ける。
彼女は運転手に向かい、「ありがとう」と感謝を述べると、屋敷の中に足を踏み入れた。
玄関ホールの中央には赤いロングカーペットが敷かれており、その両脇には執事とメイドが並ぶ。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
まるでロボットのように、全員が一語一句声を揃え、更にお辞儀も揃えて彼女の帰りを出迎えた。
「はい。ただいま帰りました」
そんな使用人達に向かい、彼女はニコリと笑いかける。
彼女が歩き出すと、メイドの中から1人、彼女の荷物を持ち後ろをついて歩く者がいた。
彼女の名前は西野雪羽。彼女の侍女である。
部屋に着き、雪羽は彼女の荷物を置いた。
「いつもありがとうね」
彼女はまた、先程使用人達に見せたような笑顔を雪羽に見せた。
「いえ、これが侍女の務めですので。…それでは、失礼します」
「うん」
雪羽はペコリと彼女に向かって礼をすると、部屋を出て行った。
雪羽の足音が遠のいていき、聞こえなくなった瞬間、彼女は動き出す。
まず、ハンガーラックに掛けてある紺色のワンピースを着ると、その中に学校のジャージのズボンを履いた。
もちろん食事の時にはこのズボンは脱ぐ。
ただ、本人的にこっちの方が着心地が良いのだとか。
この時点で、違和感を覚えた人がいるのではないだろうか。
次にハーフアップの髪の垂らしている部分をお団子にすると、彼女は机に置かれたパソコンを開く。
「パスワード…3025っと」
もちろんこれは彼女の誕生日ではない。そんな簡単なパスワードにしてしまえば、開かれてしまうだろう。
そう、このパソコンには見られてはいけないモノが入っているのだ。
パソコンを開いている内に、パソコン用のブルーライトをカットしてくれる眼鏡をかけ、ヘッドホンをパソコンにつけ、肩にかける。そして机の上に置いてある髪ゴムとヘアピンを手にとると、彼女は前髪を上げた。
この格好で、大体の人が彼女の秘密になんとなく勘付いたのではないだろうか。
彼女はニヤニヤと頬を緩ませながら、ホーム画面にある一つのアプリをクリックした。
そして、彼女は震える手で肩にかけたヘッドホンを耳につけた。
「ふ…ふふ…今日もやるぞー…!愛すべき、ミオ×ニコの為にっ…!」
パソコンの画面に映ったのは、長身の男が女顔の男子を壁ドンしている絵。
画面の上の方、タイトルと思われる部分には、「BL学園第三弾!アイツと俺の秘密の関係〜俺の言うことには、絶対服従だから〜」という文章が。
「第一弾、第二弾も良かったけど、この第三弾が一番いいな〜!何しろこの圧倒的受けのニコちゃんがくそ可愛い‼もー好き!」
彼女はニヤけるのを抑えようともせず、そのままゲームをプレイした。
おわかりいただけただろうか。
そう、完璧でまさに高嶺の花だと思われている彼女は―――
腐 女 子
なのだ。
改めて、この物語を説明しよう。
この物語は、ある一人の少女と少年がその秘密を巡りお互いを振り回し、そして周りを振り回し振り回されるドタバタコメディである!
その少年のことも、軽く説明しておこう。
彼の名は一条薫。
書道家である一条龍の孫で、一条家の次期当主である。
そのため、彼女と同じく礼儀がしっかりとしている。
書道は勿論のこと、彼は他の面も優秀だ。頭も良く、運動もできる。彼の所属する弓道部ではエースとして活躍している。
ルックスが良く、よくモデルに勧誘されているが、本人は全く興味が無いようだ。
人柄も良いと評判があり、彼にも彼女と同じようにファンクラブが存在している。
そう、まさに完璧。
しかしながら、またそんな彼にも秘密があった!
彼の秘密については、ここでは語らない。話を読んで知ってもらおう。本当の彼を。
さて、彼女と彼についての予習は済んだ。
あとはもう、彼女の日常を覗くだけ。
…ああ、そういえば重要なことを伝え忘れていた。
基礎中の基礎のことを。
そう、名前である。
彼女の名前は――――
白木院純
プロローグを読んでくださり、ありがとうございました。