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第七話 朝起きたら男子として目がどうしても離せなくて

 何故こうなったのでしょう。

 ルインはかつて自分を呪ったことで怒りに震え、呪った神に教えを請うた。

 まだ起きていない頭に瞳は容赦なく情報を押し付けた。

 人肌で温かいベッドにかかっていた薄い掛布団を捲ると、可愛らしい寝息を立てる……ルリアの姿があった。

 ピンク色のネグリジェを着ていて、下は履いているのかどうか分からない。

 微妙な位置が余計な妄想を駆り立てる。

 というか、プレートで押し付けていた時から十分わかっていた豊かな乳房、その谷間がしっかり眼前に飛び込んで来た。

 こちらも微妙に開け、ネグリジェと同じピンク色の何かが見えるようで見えないようで、とにかく悶々とする。

 ルインは顔を背けるも、男としてみたいという欲求に抗う必要があった。

 大いなる覚悟。大いなる葛藤を経て、ルインはルリアにそっと布団をかけた。

 ちらりとその辺りを見渡すが、全く覚えがない。と言うより頭が痛かった。

 色々と思い出そうと必死に覚醒していない頭を振ると……徐々に思い出してきた。


昨夜・・・

「みんな~、ゴブリンハンターのルイルイだよ~。私を助けてくれたの~」

「おお、噂のルイルイ」

「おいおい、ルイルイが来てるって?」

「ひゅー、あれがルイルイか」


 ルインの知らない所でゴブリンハンタールイルイが尾ひれつきまくりで広がっているらしかった。

 夜もばっちり更け、ルインが連れてこられたのは近くにあった酒場だ。

 ここで、冒険者集団の一つ、ユニット《クリスタルスフィア》の面々が何かを催していた。

 想像できる範囲では、大臣に依頼を受けた事への前祝だろう。

 こんなところに来ていいのか、ルインは少し不安だった。長いこと人と接する機会を持たなかったせいでへらへらするしかない。


「偶然ですって。僕はほら、逃げてただけですから。褒めるならルリアですよ。この《クリスタルスフィア》のエースなんでしょう?」


 わらわらとルインの周りに集まっていた男冒険者たちは皆一様に頷いた。

 仲間を認め合い、それでいて楽しそう。冒険者とは自由に強さを追い求める者の象徴。

 聖竜騎士団や国が使わない事案を解決する国の何でも屋。何人もの人間が憧れを抱いて彼らのようになるのも頷けた。


「よしよしルイン君。ユニットリーダーは今いないが、どうせいたって君の加入に文句をつけはしない。どうだ? 俺たちと一緒にまだ見ぬ荒野のその先、好奇心の海に飛び込まないか?」


 なんてことを言われては目を輝かせて頷くしかない。

 元よりルインは褒められたいのだ。不条理な境遇を過去のことだと笑えるまで。


「わーい、ルイルイが仲間になった~。みんな、今日は飲むよ!」

「おうよ!」

「んじゃあ諸々含めてかんぱーい!」


 あちらこちらでジョッキをぶつけ合う軽快な音が聞こえた。

 ルインも近くのルリアと一緒にささやかに乾杯。

 相変わらずの笑顔にルインは安心感を覚えていた。ここまで来るのに色々あったが、ここから更に進むのにまた色々あるだろう。

 しかし不思議と不安はなかった。ようは、死竜騎士であることだけばれなければそれで良い。


「ごめんね、みんな騒がしいでしょ。でも、良い人たちなの」

「見ていればわかるよ。楽しそうだ。ルリアはなんでクリスフィに?」

「行くとこなかった私をリーダーが拾ってくれたの。Fランクだった私を。ほら、女性は結婚するか聖竜騎士団に入るのがセオリーでしょう? だからどこもね。何か……ほら、変な目で見る人の方が多いし」


 あはは、と苦笑からは苦労が見て取れた。ドラゴンと契約できないことがどんなに辛いかルインは良く分かっていた。

 だから神妙に話を聞いていると……


「なにが、ゴブリンハンターだ。なにが期待のルーキーだ。笑うよな、まったく」


 と、ジョッキ片手に現れたのは、茶髪のオールバックの少年だ。鋭く、力強い目をした少年はルインを睨みつけるように見下ろした。


「ちょっと、カイル、ダメだよルイルイにからんじゃ」


 カイルはジョッキの酒を勢い良く飲み干すと、豪快に籠手のついた手の甲で泡を拭った。


「お前、強いんだってな」

「……AAランク程度だよ」

「おもしれぇ。俺もAAだ。こりゃあ、どっちが強いか決める必要があるな」

「なんで!?」


 理論展開が雑すぎてついていけない。

 なるほど、強さを追い求めすぎるとここまで来てしまうのかと納得しながら、ルインは立ち上がった。

 目立ちたくはないが、AA同士なら善戦を装って勝つことくらい造作もない。

 要は圧倒せず、圧勝せず、完勝しなければいい。


「何で戦う?」

「る、ルイルイ?」

「いいねえ、その根性は気に入った」

「無論。勝ったら何かくれるんだろう?」

「惜しみない賞賛と、ルーキーってことは貧乏だろう。宿をくれてやる。そのルリアのなあ!」

「カイル!?」

「乗った」

「ルイルイ!?」

「腕相撲で勝負だ」

「カイル!?」

「乗った」

「ルイルイ!?」

「ひゅー、こいつあ面白いことになってきたな」

「一つ屋根の下に男女。ひゅー」

「ひゅーひゅー」

「みんな!?」


 困惑するルリアに対して、ルイン、カイルは静かだった。

 二人の間にあれよあれよと台が置かれる。

 ルインは世界をタダで救うような男。大空が屋根。大地がベッド。石が枕という生活を普通にしているサバイバル猛者だ。

 だからこそ思う。たまにはやわらかいベッドで寝たいのだと。

 この勝負、ルインにとっては賞賛の嵐を貰う戦いではない。

 暖かい布団で眠る戦いだった。

 そして勝負は、何とも容易く決してしまったのであった・・・


現在

 全てを思い出した。

 あの後、身体強化のかけあいでカイルに辛くも勝利をおさめた、という結果にして勝ったのだ。

 そのあとどんちゃん騒ぎでみんな酔い潰れ、ルインは布団を確保するためにやけ酒を喰らったルリアを背負ってここまで来た後二人して床に就いたはず。

 そう、だから何もあやまちは犯していないはずだ。

 何もしていないはず。というより布団欲しさに年頃の女の子の家に上がり込むことがどうかしていた。

 よくよく考えたら、考えなくてもルリアは魅力的な女性であり、あやまちを犯さなかった自分の不甲斐なさに辟易とする。


「草食系もここまで来たら大概だよね……」

「ううん……え?」

「あ、おはようルリ――」

「きゃあああああああ!?」


 自分の状態と傍にルインがいる。

 そして昨日の記憶は恐らく酔っていてほとんどない。

 ここから導き出される答えは、ルインと一晩のあやまちを犯してしまったと言う誤解。

 誤解の末に、最強の死竜騎士は強烈なびんたを喰らって床に叩きつけられた。声にならない悲鳴と共に、嫌な音が、響き渡った。

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