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第六話 お手伝いのご提案

「つ、疲れたよさすがに」


 色々な冒険者にもみくちゃにされたルインは疲れを吐露して関節を鳴らした。もう空は暗い。

 しかし妙に清々しいと言うか、満たされる気分だ。悪くはない。

 死竜騎士としての振る舞いは肩が凝ることの方が多い上に生産性がないのだから。

 ルインもそうだが、あの鎧は呪われている。普段の自分のままでは意識も持たないだろう。


「ああそうだ。ルリアはどこに行ったんだっけ?」


 聖竜騎士団に報告があるとかないとか言って姿を消したきり、すっかり夜だ。

 出会って間もないが、彼女は初めてかもしれない。

 死竜騎士であるルインを頭から否定せず、理解しようと寄り添ってくれた、初めての人。

 それ故に気になってしまう。あの内政大臣が素直に言うことを聞いてくれるとも思えない。

 気もそぞろにとりあえず空を眺めていると……


「あ、ルイルイ! なにしてるの~?」


 ついさっきと変わらぬ様子のルリアがポニテを揺らしてにっこり笑んでいた。


「君を探してたとこだよ。どうだった?」

「なんかね、騎士団は出せないんだって。冒険者ユニットだけで何とかしろってさ。ていうかパレードの後は宴会みたいで」

「相変わらずあの大臣は……」

「あれ、ルイルイ 内政大臣と知り合いなの?」

「え? あ、いや違うんだよ。予想だよ」

「的中だよ。あ、そうだ聞いたけどAAランクになったんだって? おめでとう」


 ルリアの中でルインが一体どんな活躍をしたことになっているのだろうか。

それはさておき、柔らかい手がルインの手を包み込む。ぶんぶんと揺らし、プレートに押さえつけられた胸も同時に弾む。

思わず視線を逸らしながら、気になることを問うことにした。


「そうだ。冒険者の集まりがユニットなんだよね? 規模はどのくらいなの?」

「今は48人かな。内三分の二がSクラス以上。ゴブリンの群れと亜人くらいなら何とかなるかなって。何かね、魔神軍の統率を執っていた大将が倒されたお陰で魔獣の覇権争いが起きてるんだって」


 ということは、ルインをぼろ雑巾のように捨てた挙句、ルインの力が必要になったがルインは最早連絡が取れない場所に居ると。

 だから冒険者ユニットにお鉢が回ってきた。挙兵して遠征となれば金がかかるが冒険者なら最初の報酬以外の負担は全て冒険者が負う。

 相も変わらず人を駒扱いしているな、とルインは首を振った。

 まあ、なんであれ自分を捨てた相手を気遣う必要があるとも思えない。


「勝てそう?」

「正直分かんないけど、勝ったら私、騎士団に入れるの」

「……そっか。憧れだったって言ってたもんね」


 ルインは感慨深く共感し、喜んだ。自分も死竜騎士であることが嫌で冒険者になった。


「応援してる。あ、僕でよければ手伝うよ?」


 せっかく仲良くなれたんだ。死竜騎士の能力を使わなければ手伝うことはできる。

 先の戦いではルインそのものの持つ力のみで大方を屠っている。人が多ければ多いほど、まぎれて戦うこともできるのだ。


「うれしい。でもルイルイ、剣とかあるの?」

「一応あるよ」


 呪われた鎧を着た死竜騎士の持つ剣。魔神の心臓を世界一硬度の高い金属、グラコユニウムと混ぜて作り上げた魔剣。決して錆びることなく、魔力を流し込んだ時の強化精度は尋常ではない。

 ドラゴンの炎で鋳造したもので、もしその辺の地面に突き刺さっていれば抜いたものは伝説の勇者になるだろうと言う代物だ。


「じゃあ戦えるね! 明日にはもう発つから、その気があれば私たちのユニットに来て。《クリスタルスフィア》はいつでも高いとこを目指す人を待ってるから」


 彼女の優しい笑顔と明るさに、ルインは久しぶりに心から笑んだ。


   †


「内政大臣。これ以上は隠しきれませんぞ。魔神軍の総大将を倒すのにあれだけの犠牲を払った。今度は王都周辺のあらゆるところで魔獣の襲撃に合っている」

「軍務大臣、あなたの仰りようでは、聖竜騎士団が敗戦を続けているように聞こえます」


 軍務大臣。財政大臣。運輸大臣。そして内政大臣。取り敢えず招集できるだけの高官を集め、内々の会議が行われていた。

 議題は単純。世界に平和が訪れたと言うのに国が疲弊している件についてだ。


「実際に敗戦続きでは? 国庫はもう破たん寸前だ」

「それを国民に知られるなと言うことです」

「王都と辺境は輸出入の観点から切っても切り離せない。情報は人の口を通じて大きくなっていく一方だ」

「焦っては思う壺というもの。あなた方はこの国の代表だ。胸を張りなさい」

「だがこれ以上嘘は……」

「嘘はつかなくてもよろしい。国民にはある部分を隠して真実を伝えなさい。せっかく私が聖竜騎士団と王を伝説へと昇華させたと言うのに」


 死竜騎士を使って大将を倒し、その活躍をかすめとることで国民に王と聖竜騎士団に対する絶大な信頼を植え付けた。

 あとは内政大臣が王を傀儡として名実ともに国のトップになろうという腹積もりが、こんなくだらないところで頓挫してしまった。

 王は演説の力に長けているだけの男。余生を精々楽しく生かしてやろうとさえ考えていた。

 それが、たかだか魔獣程度に邪魔されてたまるものか。


「派兵は事実上困難だが?」

「既に手は打ちました。内政大臣。冒険者への報酬を用意しておきなさい」

「パレードや宴で手いっぱいだ。今は何とかなっても後で首を絞めることになる」

「税金をばれない程度で上げなさい。このお祭り騒ぎはまだ続きます」

「人の口に戸は立てられないが?」

「辺境隅々にまで人を派遣しているのならば、ありのままを伝えなさい。残党が居る。しかしご安心を。聖竜騎士団が討伐のため動いていると。魔神軍大将を討伐した力があると」


 内政大臣は政略に長けている。得ている情報も豊富だ。

 だからこそ死竜騎士の居所を掴み、巧みに利用して見せた。

 死竜騎士をぼろ雑巾のように捨てたことが裏目に出たことは素直に認めるが、大したことではない。

 問題はこの謀略入り混じる策謀の中で如何に抜きんでるかと言うことだ。

 ともあれ、問題は問題だと認めて、次に進むとしよう。


「では会議を終了とする。問題が出ればまた開く。解散」

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