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第四十話 死竜とリンク

「さっさと行くぞ。バハムート!」


 黒きドラゴンが降り立ち、ルインと仮面卿を乗せる。

 丁度よく、魔神の意識は分散している。あとはルインと仮面卿が攻撃を当てれば終わりだ。


「マスター!」

「ルイン!」

「ルイルイ!」

「分かってる!」

「これで終わり!」


 仮面卿、ルインが剣を引き抜き、魔神の頭部に……一撃を叩きこむ。

 とてつもなくけたたましい音が響き渡り、両者の間に隔たれた壁が目に見えた。

 魔力。厚い魔力の壁。仮面卿の守護障壁ばりの分厚さだ。

 だが、ルインにとってそんなものはないに等しい。


「この程度、僕の孤独に比べれば!」


 好きで孤独を選んだのではない。身の危険を感じて逃げた。誰も殺したくないから逃げた。

 そんな千年の孤独は、ルインをここまで高みに連れて行った――


「障壁が割れた!」


 仮面卿が叫び、自ら剣を突き立てる。

 しかし固い――

 ここまで来て、魔神本来の頑強さが勢いに歯止めを利かせていた。

 冗談ではなかった。この程度の壁。あと一歩で、届かないなんてことは。


「死竜騎士! 俺の魔法は闇魔法だ。こいつには効かん、お前がやれ!」

「分かってる!」


 術式構築。しかし、そのすべてがあと一撃で倒せるようなものではない。

 ルインは確かに絶大で強烈だ。しかし、あと一撃で瞬殺できるような魔法は持ち合わせていない。

 正確にいえばあるが、魔力量が足りない。

 ルインは生きたドラゴンと契約できない。本来は使えるはずの魔法が使えない。

 歯がゆい思いだった。まさかこんなところで、自分の不幸な生い立ちに邪魔をされるとは。

 魔神の瞳が光った――

 刹那、衝撃波が全員を襲い、吹き飛ばす。

 それぞれ地面にはたき落とされ、土煙の中でゆっくりと体を起こした。

 ルインと仮面卿は無傷だが、他はもう、瀕死だ。ただの人間なのだ。

 死竜騎士と闇の魔法を司る者と比べる方がどうかしているのだが。


「不甲斐ない……この程度の攻撃を……」

「ざけんな! んだよ、あの強さ!」

「ふう……ちょっときつい……ルイルイ、私たちはもう、これまで」


 確かにこれ以上、三人は戦えない。限界が来ている。戦場に行っても死ぬだけだ。

 しかし可能なのか。

 ルインと仮面卿だけで、あの魔神を倒すことは。さすがにルインの瞳が揺らいだ。

 間違いなく倒せる。しかしそれにには時間が必要だ。今はその時間を確保する手立てがない。

 闇の魔法を使う仮面卿。壁を生み出すだけの存在にこれ以上何も望めない。


「勝てる戦がこうまでも……」

「簡単に倒せても面白くないってことだ。しかし実際問題こいつは厄介だな。倒す倒さないの問題だけじゃない。背が高いせいで行けるか行けないかの問題がある」

「僕がドラゴンと契約できていれば……」


 地面に手をついた。龍脈索敵。残りの死竜の数を確認する。

 たかだか一体のモンスターにこれほどまでの痛手を負わされるとは思わなかった。

 死竜の軍隊の半分は町の防衛に当たらせている。それをすべて魔神に回せばあり得るかもしれない。

 しかしその場合、未だに残って懸命な救出と避難誘導をしている冒険者が死ぬリスクが高まる。

 つまり、人が大勢死ぬことになる。

 王国がどうなろうと知ったことではないが、死者が出るのは納得できない。

 ルリアが、また悲しげな瞳をしてしまうから。


「なにか案はないのか、死竜騎士」

「待ってて。まだドラゴンを掴み切れてない」


 考えれば考えるほど、良い作戦というものが浮かんできた。

 鎧の中に隠れていたルインは鎧を纏った死竜騎士になり切ることで最強だった。

 だが今のルインはまさしくルインだ。

 優しく、情に流される、褒められたい少年。

高いリスクを負ってまで、大きな代償を払ってまで、何とか倒そうとする。

不合理性が頭に霧を宿し、考えがまとまらない。


「倒すには、なるしかない。死竜騎士に」

「最初からなってろや、面倒くさい。だがぶっちゃけどうするかが大きな問題なわけだ。さっさとできることをやりやがれ」

「乱暴な物言いだ。一手足りないんだ」


 周りを見るまでもない。もう皆ボロボロだ。虚勢を張る仮面卿でさえ、まともに戦えているかどうか怪しい。

 十分な戦力はルインだけ。後一手で押し切る必要があるが、その一手が足りない。

 龍脈索敵で手掛かりを探す。探し続ける。

 そして見つけた。光明を――


「……そうか、君はまだ、彼女を救いたいんだね?」


 願いに応えるため、ルインは手を地面から離し、ゆっくりと胸の前で腕を払った。

 ドラゴンが舞い降りる。

 黒く、灰色に染まった、四枚の羽をもった巨大なドラゴン。

 その目も体も、随分と悪い色をしている。しかし紛れもなくこのドラゴンは……

 クリムゾンドラゴン――クリンちゃんだった。


「なんとでも言って。僕はもう、決めたから……それに君も、パートナーを最後まで守りたいんだよね?」


 死竜、クリンちゃんは微かに頷いた。死してなお、ルリアを守りたいという強い願いが、ルインによく伝わった。

 死竜騎士はいつだってそうだ。いつだって、死したドラゴンの願いを叶えてくる。

 微かで、とても儚く純粋な願い。

 パートナーを助けたい。死竜を従えてきたルインは、その思いを常々感じていた。

 だから、応えようと思った。

 たとえ今、誰に嫌われようとも。


「ううん。クリンちゃんの願いを、かなえてあげて、ルイルイ」

「ああ。行くぞ、クリンちゃん!」


 死竜騎士は嫌われる。

 だが、ドラゴンの果たせなかった思いを果たせる代弁者でもある。

 さあ、飛ぼう。一度落ちた大地から、パートナーを助けると言う儚い願いを叶えるために。


「やれるだろう?」


 クリンちゃんが飛翔する。

 魔神に恐れを抱いていないかのように悠然と空を舞う。翼は朽ちた。使える魔法も数に限りがある。


「君となら出来るかもしれないな。リンクが」


 生前より行動を共にしたドラゴンはいない。

 だから今までやってこなかった。死竜とのリンク。可能かどうかは分からない。

 理解は最早問題ではない。やろうとする意志があるのなら、いつだって、なんだってやることが出来る。

 ルインは学んだ。

 死竜騎士は、一人ではないと。


「行くよ!」


 リンク。

 強烈な魔力同士が結び付き合い、死竜騎士は、かつてない強さを手に入れた。

 元々の魔力とプラスして、死したクリムゾンドラゴンの力――絶大な物。

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