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第三十七話 ばれる

 死竜騎士はゆっくりと辺りを見渡した。ひどく緩慢な動きだった。

 流れに流れた革命の激戦を表すような時間が嘘のように。誰もが、そんな隔絶された死竜騎士に視線を注いだ。

 全ての視線を払いのけるように、死竜騎士は、ルリアの方へ向かう。


「友が死んだか」

「……うん」

「やつが憎いか」

「……人は憎むものじゃ、ないんだよ」

「甘いな」

「女の子は甘いものが好きなんだよ」


 話しているとふわふわした夢の国に招かれた気分になる。

 死竜騎士はルリアに背を向けた。このどうにもならない世界に生まれてきてしまった自分に背を向けたように。

 でも、それももう終わりだ。死竜騎士は覚悟していた。

 嫌われ者でもなんでもいい。守りたいものが守れれば、ただそれだけで。


「消えろ、仮面卿。お前を殺しても詰まらん」

「こちとらもう悪役決定なんでね。最後まで悪ぶらせてもらう」

「この国に復讐する価値はない」

「いいや、違うな、間違っている。この国が悪いんじゃない。この国を腐らせた連中が悪いんだよ。元々この国は守るべき価値に溢れた素晴らしい国だ。それをダメにしたのは他の誰でもない。あの大臣たちだ」

「吠えるな、若造。お前が何者であるかはもう関係ない。だが何故そうまでしてこんな国を破壊しようとする」

「その後に再生が待っている」

「再生した国は血気盛んにお前を殺そうとするぞ」

「それでいいさ。国を守るために死んだ殉教者になれるならな」

「減らず口だ」

「寡黙よりはマシだ」

「寡黙な殿方の方がモテると聞くが?」

「モテたところで何だってんだ。死竜騎士、邪魔をしないならその三人の命は助けてやるが、どうする?」

「分かっている質問をするんじゃない」

「ああそうかい。じゃあやろうか」


 バハムートが哭き、死竜が現れる。

 王国はすでに火の海に染まり上げた。あとは血に染まり直すだけのこと。

 死竜騎士として、殺す。この仮面卿を。


「貴様の恨みはどこから生まれる」

「ああ? どうだっていいだろう」

「そうだな」


 二人は一瞬にして消え、丁度両者の中間であった場所で鍔迫り合い。

 ギリギリと、あり得ない程に火花を散らし、二人の剣が削り合う。

 否、死竜騎士の剣は朽ちない。仮面卿のそれが悲鳴を上げていた。

 劣勢と見るや、仮面卿は念力を使うが、封殺するのは難しくなかった。

 魔力でもちからでも劣る仮面卿の上空でバハムートが攻勢に出る。

 死竜たちを送り込むも、さすがは絶対のドラゴン。容易に死竜たちを突破する。

 さらに仮面卿が絶対守護障壁を展開。見計らったように、バハムートが火を噴いた。


「見え透いた人の攻撃など」


 念力で壁を作り出し、バハムートの攻撃を弾き飛ばす。

 が、これこそが、仮面卿の狙っていた真の目的。

 何かが起きた――

 死竜騎士は、いいや、ルインは、自身の鎧が破壊されるまで、何が起きたのか知ることが出来なかった。


「なに……!」

「お前は強すぎて倒せない。だが、その剣も、鎧も、かかっている呪いはお前のものじゃない。破壊することは容易だ」


 見事に、見事に弱点を突いた攻撃だ。

 確かに、死竜騎士の鎧はルインが鍛えたものではない。今まで歴戦を戦い抜き、その鎧に受けたダメージは殆どない。

 というのも、攻撃そのものがルインの圧倒的な力の前に届かないからだ。

 だが、仮面卿は、最初から鎧を破壊することだけに力を注いでいた。

 結果、鎧は砕け散った。

 完全に迂闊だったとしか思えない。いかにルインが最強でも、その装備は、たかだか物でしかない。


「しま……!」


 咄嗟に顔を隠すが、全てが無駄だった。

 カイル、アイラ、そして……ルリアが、死竜騎士の素顔を見た。

 ルインの、顔を。


「驚いたな。随分と綺麗な顔をしているじゃないか。嫌われた死竜遣いが、こんな坊やだったとは」

「つ……よくも……!」

「鎧被って必死に背伸びしていたわけか」

「悪いが君より随分年上だ。呪いのせいで僕は年が取れないからね」

「なに? まさか……はっはっは、そうか、面白い。お前、闇の騎士団が遺した禁忌の魔法を使ったのか。そうかそうか、はっはっは!」

「何を嗤っている。何を、嗤っている!」

「青いな。まあ怒るなって。俺は謎が解けた。死竜騎士は最悪の兵器だ。何故だかわかるか?」

「……死なないからだ」

「その通り。ずっと若く、老いはない。最強の軍師や将軍の最大の敵は時間。帝国が百年もたない理由は指導者が死んでしまうから。死竜騎士はその上物理的攻撃以外では死なない。その上、兵士は死なぬドラゴンと来ている。まあ、そのほとんどは、死んだらしいが」

「なに? 死んだって……」

「そもそも呪いに耐えられずに死んだのが多いと聞く。生き残った死竜騎士も、呆気なく終わったドラゴンたちの戦争の前に不必要となり、孤独の中で死んでいった。死竜騎士が少ない理由だ」

「死竜騎士が少ない、理由?」

「孤独だ。彼らは千年の孤独に耐えられなかった。そして自死を選んだ。御伽噺でも嫌われて、一体どうする。人生の閉じ方は、自分で選ぶしかない」

「そんな……今までただのひとりもいなかったというのか」

「ああ。誰も生きちゃいない。影でこそこそ世界を救う輩はいたが、誰だって孤独の中で死んでいった。死竜騎士、お前は確かに倒されないだろうが、もう死んでるんだよ」


 愕然とした。膝を折り、地面に体を近く寄せる。

 長い歴史の中で、誰一人、死竜騎士として生き続けた者はいない。

 称賛どころか、自ら命を絶った。それが、死竜騎士にかけられた、呪い。


「だがわからんな。お前は自分で選んだわけじゃあるまい。幼すぎる」

「僕は……」

「ふん。心のダメージが大きいか。なら、ここで殺しておくのも悪くはないか、死竜騎士」

「……答えてくれ、君は何者だ。なぜ、そこまで多くを知っている」

「ほとんど仮説に近いが事実も豊富だ。全て、聞いた。この王国の腐敗も。王国がひそかに死竜騎士を生み出そうとしていたのも」

「……何者だ」

「ふん。俺自身は何者でもない。仮面卿だ。だが、俺の父は違う。誰もが、知っている英雄。俺は……メドラウトの息子だ」

「……そうか。知っているわけだ。それに、王国を恨んでいるのも、そうか」

「はっはっは、そういうことだ。父親殺されて黙ってるわけないだろうが。そこをどけ。理由なき戦いに、お前が加わる必要はない。俺は、やつを殺す」

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