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第三十五話 生贄

「せっかく生かしてやったのに、なんてやつだ」


 パラパラと、瓦礫をいくつか払いのけ、服のほこりを払いながら、仮面卿は顔を上げた。

 あの距離をさっさと飛ばしてきたと言うのなら、あのルリアという少女が使役するドラゴンはただものではない。


「だからよ。もう、こんなのやめてよ! あなただって、本当はこんなことしたくないんでしょう!?」

「いいや、もう容赦しねえ、俺がぶっ殺す」

「黙れ、カイル。だがルリア、私もこいつを許す気はない」

「おいおい。あんたらの大事な仲間を殺した奴ならさっき肉塊になったんじゃないのか? よってたかってなんだって人様の邪魔をする」


 やれやれ、と数を確認しながら立ち上がる。

 三人。たった三人で来るとは愚かなのか勇敢なのか。恐らく前者。

 厄介なことにそこそこの実力者たちが連携を取っている。念力で一気に首を弾こうとしても、ドラゴンの加護が邪魔だ。

 ならば正攻法で行くしかない。


「はっ、手前が蒔いた種だろうが!」

「だったら収穫するとしよう」


 カイルの剣と仮面卿の剣がかちあった。

 剣の練度、力共に仮面卿が勝り、一気に押し切る。

 押すと同時に弾き、カイルを吹き飛ばすと、すぐさま間近に迫っていた槍を途中で止める。


「厄介な魔力量だな。闇の魔法を知れば、お前たちも俺に逆らうことがどれ程愚かか気づけただろうに」

「ふん。では教えてもらおうか。私たちがどれ程愚かなのかを」

「闇の魔法を甘く見るな」


 槍の切っ先を自分からアイラに変え、来た時よりも早く返す。

 舌打ちをして横へ飛ぶアイラ。仮面卿は既にその場にいた。


「なに――」

「見せてくれと言ったから」


 腰めがけて痛烈な蹴りを放ち、どこぞへ飛ばすと、両手を上げて迫り来ていた粒子を弾き飛ばした。


「二人を囮に強烈な技を仕掛ける。良い連携だ。そしてクリムゾンドラゴンも良いドラゴンだ。だが、俺のドラゴンはもっと良い」


 バハムートがクリムゾンドラゴンよりも上空から一息に飛来し、強襲。

 巨大なドラゴンが絡まり合いながら地面に落下した。

 衝撃ととてつもない砂塵が上がり、砂嵐のようになる。

 少し経つと、砂嵐の中からクリムゾンドラゴンが投げ飛ばされ、近くの木々をなぎ倒しながらようやく止まった。


「クリンちゃん――」

「飼い主が弱いから、ペットが傷つく」


 既に仮面卿はルリアの背後に回っていた。

 鋭い斬撃がルリアを襲い、彼女もまた、ドラゴンの元へ吹き飛ばされた。

 圧倒的な、仮面卿の力。彼の前に三人とドラゴンは瞬く間に屠られた。

 まだ二匹いるのは確かだが、恐らく今出ても勝てないと踏んでの戦略。賢い。


「止めておけ。それより町に放たれた雑魚モンスターどもを一掃したらどうだ? お前らの言うところの罪のない人々が死に絶えるぞ?」

「だから……手前を殺す――」

「はい? すまんな、聞こえなかった」


 立ち上がろうとするカイルの腹を蹴り上げ、黙らせる。

 戯言も青臭い言葉も何もかも聞き飽きた。

 傲慢さと欺瞞に塗れた世界は冒険者なんてものを許した。自由は束縛から生まれる。

 冒険者が存在している時点で、この王国は半分腐っているようなものだ。


「お前の強さも……そんな性根の黒ずんだ意思の前には霞んで見えるな」

「ありがとう」


 アイラの背中を足の平で押さえつけ、地面に埋める。

 彼女たちは被害者だ。大臣が国民の反感意識を人間ではない別物に挿げ替えるために起こした種族間大戦の。

 それを機に起きたクーデターではさらに多くが死んだ。全員、アレの掌の上で転がされていた。

 それに気づけない多くの罪のない人々にはたして罪はないのだろうか。

 違う。仮面卿に言わせればこの世界は罪だらけだ。

 自分は関係ない。被害者だと言う意思そのものが、彼のような巨悪を生んだ。


「どうして……どうしてそこまでするの! あなたの目的は何!」


 ドラゴンを庇うように、傷つきながらも立ちはだかるルリア。その顔は悲しみに満ちていた。


「目的? 闇の騎士団の復活だ。かつて世界を闇に包もうとした魔神と魔竜。クーデターの時、この国を滅ぼそうとしたのは奴らを信仰する者たち。それが闇の騎士団。漆黒の御旗を掲げ、騎士たちは大手を振って凱旋するだろう」

「そんな……ことして……」

「嘘だ。そんなものに興味はない。闇の騎士団も名前だけ先行してはいるが、結局のところただの人間に敗れた」


 そう。ただの人間だ。

 今もこの王都のあちこちで人々を救うために戦う自由の使者。

 助けたい。命を救いたい。青臭すぎて反吐が出る理由で戦う輝かしき戦士たち。

 クーデターの時も、戦士たちは戦った。大臣が作り上げた敵を真の敵として。

 まるで、親の仇のように戦った。


「戦いに勝ちたいならまず敵を知れ。これは常識だと思わないか?」

「……じゃあ、教えてよ。あなたの敵は、誰なの?」

「俺の邪魔をする奴ら全員だ」

「そんなんじゃ、わかんないよ……分かってあげられないよ」

「上から物をいう娘だな。その気はない」

「なにが、その気はねえだ。お前、分かりやすいんだよ。分かってもらいたくない? 承認欲求の塊みたいなやつが嘘こくな」

「なんだと?」

「その通りだ。貴様は所詮、誰かに認めてもらいたいだけだ。自分の強さを。自分の行いが、いかに愚かな奴らと比べて崇高で偉大かを、分かってもらいたいだけの甘ちゃんさ」

「お前ら……」

「悔しいなら、教えてよ。あなたのことを。こんなことは止めて、話し合おうよ」


 歴戦を戦い抜いた。

 多くの戦闘を重ね、最早体は満身創痍のはず。動くことすらしたくないはずだと言うのに、三人は立ちあがた。

 理解に苦しむ。

 目の前にいる仮面卿は、三人がいくら束になったところで勝てる相手ではない。

 本能以前に結果から、それは知ることが出来るはずだ。

 なのに三人は依然として戦おうとする。


「理解が出来ない。何故そうまでして立ち上がる」

「俺より強い奴が気に食わねえだけだ」

「私はこの国の聖竜騎士。それだけだ」

「誰だって、悲しいのは、嫌だよ」


 なんとも、自分勝手な理由だった。


「……ははは、はっはっはっはっはっはっは!」


 高らかに、彼は嗤った。

 面白い。そうだ。それでいい。大義名分など脇に置き、自分のエゴで剣を抜ける奴と戦ってこその戦い。

 彼が目指す破滅には、いけにえが必要だ。

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