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第三話 魔獣――亜人の場合

「気持ちいい!」

「でしょ!? クリンちゃんサイコー!」


 最高の気分。言葉に表せない爽快感を風と共に感じる。大空をとてつもない速度で飛翔するクリンちゃん。

 ルリアはもちろん、ルインも身体強化系の魔法をこれでもかとかけているため無事どころか楽しめているが、常人が乗れば振り落とされるか風に裂かれる。

 魔法。人はみな平等に地面に流れる魔力を持っている。魔力をドラゴンと共有することで、強力な魔法を発動することが可能になる。

 が、ルインは死竜騎士としてかなりの年数を生きている。

 扱える魔法の数、質共に竜なしで最早人類を超越しているため関係ない。


「ていうかルイルイ、初めてにしてはすごいねー」


 さすがにそのことに感づき始めたらしいSS冒険者ルリア。

まずい、ここで死竜騎士であることがばれてしまえば水の泡だと、ルインは慌てて魔法の一部を解除。途端、目もくらむような衝撃に襲われた。

 意識が正常に戻ったのは、地面の厚みを感じた時だった――


「ルイルイ~? おーい、陸地だよ~」


 ゆっさゆっさと体を振るわれ、ルインはようやく覚醒した。眼前に聳えるFランクの谷間からゆっくりと視線を逸らし、ゆっくりとルリアの元を離れる。


「ええと、中々の標高ですね」

「ここ平らだよ」


 ルリアはくるりと辺りを見やった。

雑草と牧草が混生した緑色の地面。白い肌の木々がそこそこに生え、少し奥には鬱蒼と木が茂る森がある。目的地に着いたようだ。

 

「え、あ、はい。そうですね! ここはまな板大地ですね!」

「ルイルイしっかり~。はいお水。目当てのキノコこの辺に生えてるから摘んじゃおうよ」


 おかしそうに笑うルリアはいたって普通にルインを扱ってくれる。

それだけで大分嬉しかった。偏見なく、分け隔てなく接されることは戦場以外なかった。

 そう。戦場では、魔獣にとってルインは分け隔てのない殺戮対象だ。


「詳しいね」

「そりゃ、私もFランだったしね~。こういうの毎日やったよ。あはは。それこそ、ルイルイみたいにドラゴンと契約できなかったし」


 キノコの種類に勿論精通していたルインは手際の良さを発揮する前に動きを止めた。


「契約できなかった?」

「大地にある魔力の根源から、私たちは魔力を貰って魔法が使える。それに引き寄せられるように、まさに運命的にドラゴンと出会って契約するのね。でも、私はどれとも拒まれてた。いや~、聖竜騎士団に入れないしで大変だったわ~」


 魔力の相性に見合うドラゴンがいない。ルインからすれば、まだいる可能性があるだけマシだが、孤独は十二分に理解できた。

 ルインは薄れた記憶の過去を思い出した。幼少の頃から呪われ、竜に拒絶されたルイン。

 誰もが優しい瞳で励ましてくれて、それに応えたくて、ルインはとうとう契約を結んだ。

 死し、地面で眠っていたドラゴンと。

 あとは想像に難くない。今思えばその時殺さずに追放を選んだ村人には感謝してもしきれない。


「そっか。冒険者に女性は少ない……」

「そ。女性の方が聖竜騎士になりやすいんだってさ。力や量は男性に劣るけど、質は高いらしくて。んで、色々すっとろばしてクリンちゃんに出会って今ここ」


 けらけらと笑うルリアの顔に無理は滲んでいない。昔は色々あっても今は楽しいんだろう。

 その姿にルインは希望を持った。自分もいずれ、今を笑える未来が来るだろうと。

 キノコを手早く採り、さて帰ろうというとき、微かな異変を感じ取った。

 ルインは地面に手を触れ、魔法、もとい能力を使う。索敵用の魔法。龍脈索敵。

 地面に流れる魔力の根源に意識を流し、流動的に気配を感じ、可視化する。

 まだ遠いが、居る。モンスターの群れだ。


「早く行った方がいい」

「どしたの? ルイルイ」

「モンスターだ」


 ルインが言うと同時に、地響きが聞こえた。

足音も、何百と連なれば地面くらい揺らすには申し分ない。


「……数は、そうね、かなり多い。でもなんで? ここは町に近すぎる。さらに後ろはもう王都よ?」

「聖騎士団は凱旋パレードの真っ最中。相当気が緩んでるんじゃないのかな。早く逃げたほうが――」

「ダメだよ。数が数だもの、ここで食い止めなきゃ、被害が出る」


 おりしも、件のモンスターが森を割って出てきた。

 巨大な頭に巨大な耳。ひとみは赤く濁り、裂けたように大きな口は醜悪そのもの。頭に対して体は小さく、完全に二頭身。節ばった手には何かがこびりついたこん棒や、ほとんど朽ちた剣に弓、弩だ。

 あまりにも数が多く、悪知恵が働く害悪極まりないモンスター、ゴブリン。その群れ。

 魔力を操る魔獣レベルではない雑魚モンスターとはいえ、徒党を組めば面倒な存在だ。


「ちょっとなにこれ軍勢規模!? 聖騎士団を呼ばないと無理でしょ!」

「だったら早く逃げようよ」

「無理! クリンちゃん呼んだら射られちゃう。一撃は軽くても数で圧される」

「火で焼けばいいんじゃない?」

「ここは村に近すぎる。ほかの冒険者は村人だっているかもしれない。焼くにしてはこの森はあまりに役者不足だよ。私がやるから、ルイルイは逃げて」


 言い、ルリアは青い柄の剣を取り出した。

中心には楕円形の宝玉がついていて、赤々と輝いている。

彼女はゆっくり剣を引き、構える。


「リンク」


 呟くと同時に、刀身を青い炎が包み込んだ。

 ドラゴンと契約、リンクすることで自身の能力を強化し、また、ドラゴンの能力を自身に付与する。

 聖竜騎士の真骨頂――

 冒険者は聖騎士団と同じ職業でしかない。聖竜騎士の冒険者、それがルリアの職業。


「焼き尽くさない程度に焼いてあげる!」


 青々と輝く火を散らし、先頭のゴブリン集団を一掃する。

 消えない炎がゴブリンを、ゴブリンだけを確実に焼き尽くす。

 更にルリアは地面を蹴り上げ、集団の中に飛び込む。

 無茶だ。聖竜騎士にして騎士団に所属せず、SSランクの冒険者とは言え無理がある。

 ゴブリンがいるということは、十中八九アレがいると、ルインは確信していた。

 すでに彼女の姿は見えない。加勢したいのは山々だが、この姿ではばれてしまう。

 絶黒の死竜騎士であることが。

 死竜騎士の力を使わないにしても、あまりに強さを見せつけては怪しまれる。よし。


   †


 数が多いと、ルリアは正直な感想を述べた。背後の村、町、王都、そしてルインを守るために全てのヘイトを自分に集めることを目的として突っ込んだ。

 開けている場所でない以上、クリンちゃんを連れることは難しい。よしんば開けていてもクリンちゃんの炎はすべてを飲み込む。敵地でなければ使いたくはない。


「だから、おとなしく帰って!」


 炎を飛ばし、直近の敵は刻む。

 常に視線を飛ばし、気を張り詰める。

 だからこそ、背後で棍棒を振るうゴブリンの一撃を剣で防いだ。

 防ぐと同時に棍棒を弾き、がら空きになった胴体に拳を打ち込んだ。魔力で強化された一撃はゴブリンの腹を穿つ。

 だけでは止まらない。拳から青い炎が噴き出し、ゴブリンを中から焼き殺した。

 元々の能力はまだ使わない。今はリンク中のクリンちゃんの能力だけで叩く。

 近接戦闘では分が悪いと判断したゴブリンは肉壁を作り、後方から弓と弩で攻撃。


「こずるい手を!」


 剣と炎で矢を燃やすも、そこばかり気にしていてはゴブリンに襲われる。奥の方からゴブリンの五倍ほどある体躯のホブゴブリンが巨大な棍棒を振るった。

 素早く避け、腹に突き刺すと同時に炎で焼く。脳筋に殺されはしない。

 剣を引き抜き、肩で息をすると点々

さらに厄介なものが、現れた。

 人の倍ほどある体躯。筋骨隆々の青白い肉体には鱗が生え、その頭部は、並びの悪い牙を持つギョロ目の魚。手鰭は鋭利な刃物のように鋭い。間違いない。


魔獣――亜人≪魚鱗種≫


 存在を知覚すると同時に鋭い一撃が、ルリアを襲った。

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