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第二十三話 マスター

「みんな、集合してくれ。王都より手紙が届いた。これより王都から南の砦に進軍を開始する」


 アイラ旗下の者全員が、砦の中にある小さな広場に集められた。哀しいかな、広場に居るのは既に二十数名。かなりの人員が屠られてしまった。

 その上これ以上の砦侵攻作戦を推し進めるのは勝機ではない。

 ここまでくると想像に難くない事実がある。落ちた砦は三つ。内一つにいたのは魔神三柱。全ての砦に三柱の一人がいてもおかしくはない。


「あ、あのー」

「どうした、ルロット」

「補充人員とかは?」

「ない。再占領部隊がまもなく到着するが、砦侵攻は現状の戦力で向かう。その上、ここを取り返したにもかかわらず、再占領の部隊が到着する前に他のモンスターに奪われたのでは奪還した意味がない。部隊を半分に分ける」

「この上さらに減らすだ? おもしれぇ。前線には俺が行く。お前らは黙って見てな」


 血気盛んが行き過ぎて狂ってしまったらしいカイルが息巻いた。しかも虚勢ではなく、本気で勝てると思っているのが厄介だ。

 カイルは勝てる戦いも負ける戦いも分け隔てなく戦う。結果がどうなったとしても。


「無論だ。カイルだったか? 貴様は前線中の前線に置いてやる。代わりに攻撃のタイミングは私の指示を聞け」

「ふん。あんたが指揮官だ、従ってやる」


 不遜極まりないが、アイラはアイラで的確に手駒を読み取っているとルインは確信した。

 ルインも見ていたが、カイルの働きは確かに目覚ましいものがあった。丁度いい処で攻勢に出て、丁度良く敵陣を食い破る。

 好き勝手な戦い方で混乱を生むが、指揮系統の範囲内であれば有効に活用できる。


「ルロット。貴様はここに残れ。勘違いしてもらっては困るが、貴様ひとりと数名の部下に託すと言う信頼だ」

「あ、はい、嬉しいです! でも、私に務まりますか?」

「無論だ。信頼している。敬語は寄せ。貴様は私の部下ではない」

「う、うん!」

「よし。残りは私と一緒に来てもらう。良いか、思うところがあるのは分かるが堪えてほしい。こうして三人の新たな戦力が増えたことを良しとするんだ。確かに彼らは私の部下でも、貴様らの上官でもない。しかし、仲間だ。私たちの種族が固い血統の絆で結ばれているように、彼らとは仲間という絆を持って接してほしい。彼らが我々の流儀を知らないと言うのなら教えてやれ。彼らが我々の知らないことを知っていれば教えを請え。一丸とならなければ、勝利はあり得ない!」

『ご命令のままに!』


 卓越したスピーチ力。これがカリスマ性というものなのだろう。


「ランスロット大隊長。部隊の編成をいたします。ご指示を」


 兜が半分赤く染まったアイラの副官が一歩前に出た。忠実で仕事が早い。自慢の部下だ。


「最高の部下を数名ここに残せ。二人で良い。残りはドラゴンに騎乗。陣形の確認を再度入念に行え。敵の対空砲火が思った以上に強かった。この戦いは前回以上にばらけて飛ぶぞ」

「ご命令のままに。ドラゴンの被害は騎士より少なく、余っているドラゴンがおりますが」

「ここに残せ。私も貴様もそうだが、家族はこの大隊だけだ。ドラゴンたちも家族を失って悲しいところだろう。しばし休みを取らせてやれ」

「失礼します、キャプテン。余ったドラゴンが暴れて休もうとしないのですが……」

「……連れていく。ライドフリーの状態で待機させよ。私が直々に指示を飛ばす。で、良いですね? 大隊長」

「貴様に全幅の信頼を置いている」


 と、アイラは微かにほほ笑んだ。

 その様子を、黙って眺めながら、ルインは少し居心地の悪さを感じていた。

 彼女たちの家はここだけ。家族もここだけしかいない。騎士になれるケットシー族は稀だ。ほとんどいない。大方は奴隷として売り買いされる。

 アイラは遠征で稼いだ資産を使って、そんな彼女たちを買っては救っている。そんな話を耳にした。見上げたものだ。


「あの、アイラ大隊長。僕はどうしたら?」

「マスターはキャプテンと共に右翼を担ってください。中央を私が。前線をカイルが。カイルが全線で暴れ、右翼が呼応するように陣を徐々に狭め、右翼と中央の合同部隊が一気に攻め入ります。また、この合同部隊を陽動に、左翼が攻め入ります。この左翼が本命です」

「マスタールイン。作戦をご一緒にできて光栄であります」

「あの、それ止めません? とてもやり辛いです」

「我々は奴隷種族です。しかし、その血脈は元よりパートナーと添い遂げることに重きを置いたもの。我々は負けたからではなく、自ずからマスターに忠誠を誓っているのです」


 そうは言われてもやりにくいことこの上ない。

 種族や異文化にケチをつける気はないが、やりにくい。あまり表に担ぎ出されるといざという時死竜騎士になり辛い。

 無論、ならずとも基本的に強いルインだが、さすがにレベルの高い魔法や死竜、伝説の剣に呪われた鎧を使った状態とは比べられない。

 魔神と共に戦ったやつらが相手になるとしたら、これ以上は出し惜しみが出来ないかもしれない。

 それに、一緒にいて情が沸かないと言えば嘘にもなる。


「わ、かりましたけど、そんな期待しないで――」

「マスターがいれば百人力です。それでは飛びましょう。私のヨルムンガンドに騎乗していただきたいことは山々ですが、今回は作戦の性質上、キャプテンのドラゴンに」

「我が隊はこれで安泰です。神風が吹き、瞬く間に戦場を制圧することでしょう」


 ルインの思惑は関係なく、大げさにされてしまうようだった。

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