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第二十一話 胸は関係ない

「酷い……有様だね」

「うん。そうだね」

「つっても、大勝利には変わらねえ。おい、ルイン。お前は何匹倒した」

「さあ、数えてないけどたくさんだよ。砦を占拠して、次はどうするのかな?」

「今、大隊長が確認のドラゴンを送ってるところ。はー、疲れた。お風呂入りたい。体ベトベト」

「本当だね」


 言いつつ、ルインは倒壊した瓦礫の一部に腰を下ろした。

 敵の攻撃の大多数はルインの死竜が片づけた。誰にも目撃されることなく、手早く。

 敵将の魔神三柱グリディアンも死竜騎士が打倒した。

 それほどの戦果をあげていながら、ルインは疲れ知らずだ。


「あの、ルインと言ったか?」


 と、聖竜騎士のひとりが声をかけてきた。兜を取り、素顔を露わにしている。

 猫のような耳が生えていることから、アイラと同じケットシー族なのだろう。


「はい」

「さっきは大隊長を救ってくれたそうだな。お礼を言わせてほしい」

「私たちではあの大部隊に勝てなかったわ。あの合成獣人にも」

「あなたのお陰よ」

「いやあ、そんなことないですよ」


 美女に囲まれ、ルインは顔を赤らめながら後頭部を掻いた。何度も言うが悪い気がしない。

 それにしても、かなりの被害が出ていても、やはり勝利は嬉しいものだ。

 この被害、ルインが死竜騎士で暴れていれば出なかったものだというのは脇に置く。

 最早、正義の味方であることは捨てている。勝ちはいただいた。


「なんでそいつばっかなんだよ。俺だって殺したぞ」

「君の戦い方が乱暴なせいじゃないか?」

「手前ぶっ殺すぞ」


 確かにカイルは敵を倒してはいる。ただ、味方の陣形を全く無視した独断先行だ。

 だったら、味方の動きを的確に読み切った上で砦に侵入し、大火力を内側で爆発させたルリアの方が上手だ。判断力、行動力ともにさすがはSSというもの。

 もしルインが人と同じ程度の力しか無ければ同じことをしていたかもしれない。

 もっとも、それはフォンブラッドの作戦を裏から掠めとる必要があるわけだが。


「待たせたな。全員隊列を組め。キャプテン、数を」

「犠牲者の数ですか。生存者の数ですか」


 副官と思われる聖竜騎士が短く問うた。グリディアンとの戦闘で生き残った。だからとは言わないが、兜の半分が血で染まっている。見分けはつけやすいが、被害は大きいようだ。


「多い方だ」

「犠牲者十七名。大隊の三分の一が失われました。残りの人員も負傷者が数名。休養も必要です。援軍無しでここを守るのなら、早急にシフトを組んで開始します」

「頼む」

「ご命令のままに。タリサン、ハルミン、負傷兵を内部に。歩哨を立て、動けるものを警備に当たらせろ。休養、交代は任せる」


 さすがは戦場で生きる騎士。伊達に場数を踏んでいないのだろう。

 優秀な副管を持つフォンブラッドは目頭を押さえ、ルインの前に腰かけた。


「礼だけは言っておく」

「わざわざいいですよ。それにこれは、三人で成しえた結果です」

「……ふん、まあ良い。今度からは貴様らも数に入れておく。ルリア・ルロット。貴様の力は見させてもらった。大したものだ」

「えへへ。ありがとうございます。ルイルイのゴブリン殺しがなければ倒されてましたよ。いつの間にか、亜人も消えていたし」


 亜人に関してはほとんどが逃げた。残った一匹だけをルインの死竜が駆逐した。

 あの魔神三柱との会話で結局得る物はなかった。しかし、取りあえず満足は満足だった。


「おい、ルインだったな。こっちへ来い。話がある」


 と、フォンブラッドはルインを軽く手で呼んで砦の外へ連れ出した。

 見事に隠しきった自負はある。それ故に内心ビビり倒していることも間違いではない。

 もし、死竜騎士ということがばれれば、彼女は軍を率いてルインを殺すだろう。

 ルインとしては殺されることが厄介なのではない。

 殺さなければいけないことが厄介なのだ。

 魔神三柱などと自ら名乗るグリディアンでさえ死竜騎士を嫌っていた。禁忌の呪文。最終兵器だと。

 妙に神妙な雰囲気を漂わせながら、ルインは草原に引っ張り出された。


「なんの用ですか?」

「……剣を抜け」

「はい!?」

「いいから、さっさと、剣を抜け」

「ちょ、今戦い終わったばかりですよ? 僕何かしましたか!?」


 何かは間違いなくしている。

 具体的にはグリディアンを打倒し、ゴブリンやスパイドスを全滅させ、亜人を圧倒した。

 だが全ては死竜騎士がやったことだ。極力魔法を使わずフォンブラッドを助け出し、気絶させたうえで死竜騎士になったはず。

 見つかっていないことは間違いない。しかし気になって仕方がない。


「ああ。何かした。私の胸によく分からない何かを入れた」

「え!? 胸に!?」


 胸に目をやると、視線上に剣の切っ先が現れた。


「貴様、私の胸は何も入ってないと言いたいのか」

「ひっがいもうそう! それはちょっと、それで斬られるのは納得いかないです!」

「今、私の胸のことはどうでも良い。お前はどうせあの、ルロットのようなのが良いんだろう」

「ルリアの胸もどうでも良いですよ。ああいや、どういう意味じゃなくて、あ、でもそういう意味でもないです! あれ、どういう意味?」

「黙れ! ルールは簡単だ。剣一つだ。魔法も能力も無し。良いな」

「なんの!?」

「釈然と、せんのだ。貴様が、私を助けた理由が!」


 顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。もしくは羞恥に染め上げているのか分からない。

 しかし、本気さだけは目を見れば伝わる。

 問題はただ一つ。どうやって、接戦に持っていくかである。

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