第十八話 謎の統率者
敵の数は予想の範囲内だが、統率力はアイラの予想を遥かに凌駕していた。
「木に隠れて移動しろ! 必ず魔法竜騎士を連れて援護と共にだ。敵が隠れている木を見つけたら幹の細い部分を狙って折り倒せ!」
目の前のゴブリンの口に剣を突き刺し、延髄から突き破ったアイラは視線を砦に向けた。
堅い――
頑強が過ぎる。
どちらにせよ落とさなければいけない場所だが、にしたって統率が取れすぎている。
アイラは戦いながらも思案を深め続けた。その程度をこなせなければ大隊長は務まらない。
敵のゴブリンの動きが良いせいで、アイラの部隊はたたらを踏む羽目になっている。
そこいらの聖竜騎士団部隊ならとうに圧倒されているだろうが、アイラの部隊は全員ケットシー族。俊敏性は高い。人よりも圧倒的に。
それらが鎧を着てドラゴンを使役している。驚異的なのは当たり前だろう。
だがしかし、ゴブリンの展開がただの亜人にしては出来過ぎている。
「大隊長。こちらにも被害が出ています。早急にご指示を」
「ちっ、私が活路を開く。陣形を魚鱗の陣に敷き直せ。極端に攻撃的にして一点突破だ」
「横っ腹を食いちぎられますが」
「ドラゴンに守らせろ。あの大臣め、こうなることは織り込み済みか」
何かがいる。例えこの数だろうと砦が落とされるにしては足りない。
アイラの指示に従い、部隊が二等辺三角形に陣形を整えた。後は進むだけ。
側面から弓が飛ぶ。
すぐにアイラが剣で落とし、槍で確実に殺していく。
動きが読まれている。そんな予感がした。第六感に近い予感だ。
足を止めれば殺される。ゴブリン風情にやられては堪ったものではない。
種族昇華のためにも、こんなところで負けてはいられない。
「誰が、俺様の前に立ってんだクソどもが!」
おりしも――
わけのわからない所から現れ、敵陣営を食いちぎったアホがいた。
こちらの作戦を一つも考慮せず、何も考えず、ただ進路の敵を食いちぎった。
到底理解できない行動だが、お陰で敵に乱れが出た。人間よりも知性で劣るアレらに混乱をどうにかできる知性はない。
「食い破るぞ」
ゴブリンの頭をかち割り、突き進む。敵の陣形が乱れた今、総崩れだ。
「左翼がスパイドスに破られました!」
「……そうか」
大量の槍を一挙に展開。敵味方の区別をする時間は十分にあった。
槍の嵐が森の木々を薙ぎ倒し、貫き、破砕しながら、スパイドスの群れを強襲。
「指揮官がいる!」
アイラが叫んだ途端、砦で爆発が起きた。ドラゴンの攻撃……。
「まさかもう入ったと言うのか、あの三人は……」
†
「クリンちゃん、ありがとう!」
火炎を纏い、ルリアが先陣を切った。
砦の中には大量のゴブリンとホブゴブリンがいた。しかし、クリンちゃんの一撃で壁諸共ホブゴブリンを一掃。
リンクしたルリアが炎魔法で一息にゴブリンを一掃した。
全てを横で見ていたゴブリンハンタールイン。人前で頑張って殺し、人が見ていない所で余裕の殺戮を繰り返す。
結果、倒したゴブリンの数は四十を超えていた。
「ルイルイ!」
「わかった!」
ルリアの指す方向へ炎魔法を展開。火球ではなく、炎の波だ。波が一気にゴブリンを押し込んだ。
「俺より前に進むんじゃねえ!」
燃える少年カイルが、相棒のレンと共に爆発を起こしながらやってきた。
固有にどんな能力を秘めているのか知れたものじゃない。
しかし一人で良くここまで跳び込むことが出来るものだと驚愕する。
そろそろ馬鹿なのではないかと疑いを持ってしまいそうだ。
「さて、皆気をつけて。砦を落としたらきっとここの指揮官が出てくるはず――」
ルインが皆に警戒を伝えた時、何かが……森の木々を吹き飛ばした。
間違いなく、突発的な防風ではない。
人為的に引き起こされた風の嵐。暴力と言う名の攻撃。
それを皮切りに、亜人、魚鱗種が姿を現し、強襲をかける。
「もう、同じ轍は踏まない!」
ルリアが果敢に攻め。
「はっはっは、楽しくなってきやがった!」
カイルが狂いながら反撃する。
ここはもう大丈夫だと踏んだルインは、身体強化を極限まで高め、跳躍した。
おおよそそこはドラゴンの剣域。ゆっくりと降下しながら、ようやく敵の姿を発見した。
強さを勘違いした連中の将軍が、恐らくいる。
別に助けたいとか、国を守りたいとか、そんな気はなかった。
ただ、死竜騎士として、ルインは知っておきたかった。
闇の騎士団が突如として現れ、滅んだ事実を。