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第十五話 大臣との

「大臣、お呼びですか?」


 ランスロット・アイラ・フォンブラッドは、内政大臣の前に出頭した。

 国内情勢が荒れに荒れたクーデター時に比べて、昨今は魔神軍大将も滅びやることがないのだろう。椅子に座って少ない書類を片付けていた。

 ところで、魔神軍大将討伐にはこの内政大臣が絡んでいると、アイラは思っている。

 潰そうとしたところで余計な横やりを入れられ、アイラは彼のことを元々よく思っていなかったが、今では地面を這う程度の好感度だ。


「ああ、ランスロット大隊長。実は火急の案件があってね」


 称号持ちには敬意を持って称号で呼ぶ。こともよくある。アイラ自身はどちらでも構わない。称号は大隊長だから持てるものでも、大隊長でないから持てないものでもない。


「西、東、南、どれが好きだね?」

「は?」

「この三つの砦の内、どれに君は精通している?」

「遠征のため、東の砦を何度か中継したことが」

「よろしい。では君の部隊にこの砦攻略任務を任せる」

「は? 攻略とはどういうことですか」

「……今しがた言った砦が同時に、何者かに落とされた。どれもこれもこの王都を結ぶ重要な補給路だ。まあ、だからこそ砦が建っているわけだが。その砦どれもから緊急のナーガが飛ばされた。敵襲の合図を知らせるものだ。余裕があれば詳細が書かれるはずだがそれもない。余程緊急事態だったのだろう」

「斥候は」

「わかっていないようだな。魔神軍が消えた今、我々は隣国の脅威に立ち向かわねばならない。この広い王国の土地を、多くの国民を守るために、常に有力な場所に有能な騎士を配置しなければ気ない」

「そんなものを出せる余裕はないと? 御冗談を。敵が何か分からない以上、フォーメーションも作戦も組めません」

「音に高いランスロット大隊長ともあろうお方が。ではもう少し話を分かりやすくしましょう。あなたの部下は全員あなたと同じケットシー族ですね?」


 無論だった。というより、敗戦種族であるアイラが大隊長になった時点でそうだった。

自分たちの種族序列を引き上げる意味も込めて部下を全員ケットシー族で構築した。

アイラと部下たちが活躍すればするほど、奴隷として酷い扱いを受ける敗戦種族の躍進に繋がるはず。

しかしそれをなぜ今? とアイラは訝しげな表情を隠しもしなかった。


「私がこの紙切れ一枚にあなたの部下全員を罷免するという文章を書けば、騎士でもない彼女たちは奴隷に逆戻りだ」

「貴様……! この外道が!」

「おやそうですかな。あなたの罷免は出来ないが、部下はどうにでもなる。さあ、早くお決めなさい。行くか、それとも部下を市場に流すか」

「つ……良いでしょう。ただ、部下は疲弊している。補充人員を貰おうか。そうでなければ言ったところで情報一つ持ち帰ることが出来ない」

「良いでしょう。丁度補充人員が入ったところです。彼らをあなたに与えます。大丈夫、冒険者のSSはあなたにも相当するレベルです」


 溜息と同時に涙まで出てきそうだった。その補充人員が誰であるか、彼女は知っていた。


   †


「ふう、訓練おーわり、ルイルイ、カイル、これからどうする?」

「昼ごはんでも食べる?」

「賛成だな。腹減った」

「ところが、それは後にしてもらおうか」


 個人と言うよりグループ訓練が終了した次の瞬間には、さっき何か捨て台詞を残して消えたフォンブラッドがいた。本当に何をしに来たのか。

 ルインとしては最大限の警戒が必要だった。なにせ、看破される恐れがある。正体を。


「なんの用ですか?」

「貴様たちに任務だ。東の砦を攻めた謎の敵性勢力の調査及びこれの撃滅を行う。戦果を期待する」

「いきなり何かと思えば、僕たちは入ったばかりですよ?」

「聖竜騎士団にルーキーもベテランもない。貴様らが精々穀潰しでないことを祈る」

「ちょっと待ってください。私たち、まだ何をすればいいのかも分からないのに……」

「戦え」

「お前に命令されるまでもねえ。敵がいるってんなら全力でぶっ潰す」

「威勢は良いが態度が悪い。戦力になるかは甚だ疑問だが、貴様らしかいないのも事実だ。役に立ってもらわんと困る」


 踵を返したフォンブラッド。ルインたちは顔を見合わせるが、ついてこいと言うことなのだろうと解釈して、後を追った。

 なんの説明も受けていなかったが、東の砦と呼ばれる場所に向かうことは確かだ。

 別にルインは王国に対して忠誠心の欠片も持っていない。

 この国がどうなろうと知ったことではないが、仕事は仕事と割り切ろう。


「大きな戦いになるんですか?」

「聖竜騎士団の大隊は戦略単位だ。勝てないなどあり得ない。それ故に気を引き締めてもらわねば困る」

「はいはい。なんだって良い。俺がこいつより上だってことを証明できれば」

「なんでそんな僕に突っかかる」

「黙れクソが、気に入らねえ」

「ちょっと二人とも、止めようよ~」

「こんなガキどもと戦場に出向かなければいけないとは……」


 吐き捨てるように、フォンブラッドは言う。

 先の大臣との会見で何か煮え湯でも飲まされたのだろう。何を考えているのか分からないが、あの大臣は一体どのような命令をしたのだろうか。

 かつてルインが、魔神軍大将を屠ったと同時に捨てたあの大臣が。


「だがその前に、貴様らの力を見せてもらう必要がある」


 ある程度進んだところで、フォンブラッドは止まった。

 地面に、腰にかけていた剣を突き刺した。何をしようとしているのかは、大方分かる。


「貴様らの中で最も強いやつを出せ。時間もないのでな、手早く力量を図る。もし私に負ければ、絶対服従だ。良いな?」


 余程大臣に何か気に食わないことを言われたのだろう。

 手早く、とは面白い。


「誰にする?」

「さあ」

「俺だ」

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