第十四話 聖竜騎士団の中身
聖竜騎士団。王都を守護し、民を守るために結成された私設軍隊。
聖竜騎士団はどこにも属さず、ただ初代団長が定めた王国と国民を守るために敵を駆逐することに身を捧げた者たちの集団である。
時代は変わり、半分王国の管理下に置かれた彼らの出動、遠征先は議会によって決定する。団長以下数名の幹部に優越権があったものの、現内政大臣によって完全に議会の管理下に置かれることになった。
というのも、八年前に起きたクーデターにさかのぼる。闇の魔法を使う者たちによって当時の団長メドラウトが殺害され、騎士団の力が落ちたからである。
現在、魔神軍掃討作戦及び隣国との戦争を控え、騎士団は昼夜問わず大忙しだ。
「はあ、はあ、さすが騎士団の訓練だね~」
「そ、そうだね」
そんな中、ルインとルリアは見習い騎士として訓練に励んでいた。
ちなみに、なぜルインがどぎまぎしているかというと簡単だ。動きやすいように薄手の服装に着替えたルリアのおへそ、そして下着がさっきから見えて仕方がないのだ。
何故こうまで無防備になれるのか甚だ疑問だった。誘われているのじゃないかと思いながらも、うなじや胸にしたたる汗を見つめる。
聖竜騎士団のグラウンドはよく整備されている。肌色の地面は寝てもいいと思える程だ。四方をぐるりと壁に囲まれており、場合が場合なら闘技場に変化するらしい。ここで、各々自分に合った訓練を積む。
そう、訓練を積むのだ。肉欲におぼれている場合ではない。
しかし欲望を何とか理性でねじ伏せた次の瞬間――
「っと、ごめんね、ルイルイ」
バランスを崩したルリアの胸が……胸で顔を挟まれた。汗をかいているはずなのに良い匂いがするし、柔らかいしで色々頭が沸きそうだった。
最早訓練より辛い拷問を受けている。元々身体強化をパッシブでかけているせいで、人間がやる訓練は辛くもなんともない。まずやる意味がない。
「いちゃついてんじゃねえぞ、雑魚ども」
「カイルは全然辛そうじゃないね」
「当たり前だクズが」
「ほんと二人って仲良いよね」
「黙ってろ!」
「新人が入ってきたと聞いてきてみれば、見たことのある顔がふざけたことをしている」
三人はぐるりと首を回して声のする方を見た。
確かに、見覚えのある顔がいた。先日、ルインたちクリスフィ絶体絶命のピンチを救った聖竜騎士団の大隊長。
ランスロット・アイラ・フォンブラッド。
この間はルインたちを助けた――あくまでルイン一人でも可能であったが――命の恩人は、つい最近と変わらず意味不明に不機嫌そうだ。
この性格をどこかで見た事あると思ったルインは無意識に隣のオールバックに目をやっていた。
「なんだ? 敗戦種族の――」
はいやりやがったと、ルインは急いでカイルの足に突き刺さった槍を抜いて全快魔法。
「良かったね。傷が浅くて。ほらもう傷はない」
「だけどいてえんだよクソ野郎が!」
「目上に敬意を払わん貴様など、いつでも殺せる。それより貴様、名前は」
「ルインです」
「貴様は一体何者だ」
何かを問うと同時に槍を二本出現させて地面に突き刺すフォンブラッド。どうやら惜しげもなく使われているこの槍出現が彼女の能力のようだった。
強力な物量に加えてドラゴンの能力もある。聖竜騎士団の精度も昔に比べて上がったらしい。
それより、もう、既に、ばれかけている。
さすがに何度も死線――身バレ――を潜り抜けてきたルインのお芝居は中々ものになっていた。しかし、どうにも問題はそうたやすくなかった。
ばれないように治したはずが、いとも簡単に見破られた。
「ええと、元AAクラスの冒険者です」
「なに? AAごときが使える魔法ではない。うちの魔法竜騎士、それも歴戦の回復担当でも難しい技だぞ」
当たり前だ。おいそれと簡単にできるようではルインはとっくに何者かに殺害されている。
しかし今回は完全に裏目。
聖竜騎士団に入って早々、大臣以外の人間にばれるとは思いもしなかった。
額に薄ら汗をにじませていると……
「大隊長。大臣より次の作戦が」
彼女の部下の一人、聖竜騎士団騎士、金マントがゆっくりと言った。場の空気が一気に緩められると同時に、フォンブラッドも視線をルインから外した。
「なに? 帰って早々人使いの荒い」
「急ぎの要件だと。すぐに全部隊に招集をかけろとのことです」
「帰って来たばかりだと言っている。部下にも休養を取らせなくては」
「同感であります。しかしそれは、大臣に直接進言なさるべきかと」
「……もっともだ」
命からがら、ルインは大きな安堵のため息をついた。
「ちっ、女王様かよ気に入らねえ。敗戦種の女が」
「その敗戦種って何?」
「あー、ルイルイ知らないかー。彼女の種族、ケットシー族は、クーデターの時、革命派に参加した種族なの。同じ時期に、種族間戦争っていうのがあってね。ケットシー族やライオット族、ダークエルフ族を筆頭に戦ってたの。人間側に着いた種族と一緒にね」
「なんでそんな戦争に?」
「分かんない。向こうの種族側とは元々そこまで交流があったわけじゃないし。とにかく、
クーデターに乗じて……メドラウトを殺害したの」
この国でクーデターがあったことを知らないが、ルリアの表情を見るに、どういうことが起きたのかはどことなく掴むことが出来た。
否応にも、聖竜騎士団に入ったことで、ルインはこの国に関わらざるを得ないような、いやな予感がしていた。




