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第十二話 称号を持つ騎士

 ルインは口を間抜けに開けたまま、空を見上げた。

 あの短い間に随分と濃密な時間を過ごしたような気がしてならなかった。

 正体がばれないようにするため、カイル班全員を気絶させ、身体強化した体で目標ポイントまで来たまでは良かった。全然疲れてはいない上に、亜人程度の攻撃に何度も吹き飛ばされなければいけないのは厄介だったが、良い。

 そもそもとして、龍脈索敵でカイル班がまずい状況になっていると知って飛んで行ったのも恐らくばれてはいない。

 最終決戦でまさかモンスターの群れが訪れたのもまだいい。

負傷していると思われていたルインはいの一番に味方に捕まって逃がされかけたせいで対応が遅れてしまったのは良くない。

その上、皆の目を気にして技をなにひとつ使わず、結局スパイドスの足を喰らったのもよろしくない。弱者に傷つけられること程プライドが傷つくことはない。すでに全快済みだが気に入らない。

もし、空に舞う空色のドラゴンに乗った黒髪の騎士とその仲間がいなければ、確実に全滅していた。恐らくだが、既に何人か死んでいる。ルインが助けなければ半数は死んでいただろう。

正体を隠したせいで熾烈な戦いになってしまったことに罪悪感はあった。最初から死竜騎士であれば、被害は抑えられたはずだ。

だが、死竜騎士が現れた時点で彼らは目標をルインに変えて、被害が大きくなったかもしれない。大臣は約束を違えたかもしれない。

分からない以上、今が最善だと信じるしかない。


「責任者は誰だ」


 大量の槍を降らせ、土竜種を瞬殺。スパイドスはまさに蜘蛛の子を散らすように逃げた。

その後の焦土に、彼女は降り立った。

腰ほどまで長い黒髪を後ろでまとめ、編み込み、白いリボンの髪留めで止めた女性。肌は陶磁器の様に白く、身に纏っている薄めの銀鎧と黒いローブの上からでもスタイルの良さは見て取れた。冷たく、鋭い瞳もまた、どこか雰囲気に合っているように思えた。

そして彼女には……恐らく猫の耳が生えていた。そう、彼女は獣人なのだろう。

ルインとしては珍しい光景ではないが、他はそうではないらしい。


「このユニットのサブリーダーだ。あんたは聖竜騎士団の……」

「ランスロット・アイラ・フォンブラッド。聖竜騎士団第七隊大隊長だ」

「おいおい、獣人が聖竜騎士って」

「しかもケットシー族って種族間戦争の敗戦――」


 何かこそこそと話していた冒険者の足に容赦なく槍が突き刺さった。

 絶対痛いことは分かっていたので取り敢えず回復魔法を使ってやる。

 しかし、とルインはもう一度、ランスロット・アイラ・フォンブラッドを見た。なにもないところから槍を出した。魔法ではなく、恐らく固有の能力。

 つまり、相当な手練れ。


「口の利き方を知らない奴がいるようだ」

「血気盛んな連中だ、許してやってくれ。助けてもらったことには礼をする。だが、あんまりいじめんでもらいたいな」

「貴様たちを救ったわけじゃない。目障りだっただけだ。土竜種程度に情けない」


 良く分からないけど、嫌な人だと言うのがルインの初見感想だ。

 ちらりと横を見た。もうすっかり治っていると言うのに、心配げにぎゅっとルインの幹部を圧迫止血しようと試みるルリア。

 彼女にそっと耳打ちした。


「あの人、知ってる?」

「わからない……。でも、称号持ちの能力使い。それにあのドラゴン、たぶん名前があると思うよ……方角が国境だから、遠征組、かな」

「こそこそと話すな。私に聞きたいことがあるのなら面と向かって言え」

「ひゃい!? あ、えと……ルリア・ルロットです」

「それで」

「そ、それで!? ええと、ああ……家事全般得意です!」

「ふはっ」


 たまらんとばかりにサブリーダーが噴き出し、他の面々も笑った。

 緊張に満ち満ちた空気は一瞬にして面白おかしさで溢れかえった。何か間違えたのだろうと、ルリアは顔を真っ赤に染め上げて俯いた。本日二度目だ。


「……ふん。このエリアの亜人を掃討したのは貴様たちか。さっさと消えろ」


 フォンブラッドはドラゴンに乗り込むと、仲間と共に飛翔した。

 堂々たる姿だ。恐らく実力も相当なものなのだろう。でなければああも傲慢にならない。

 しかし、とルインは彼女になぜか同じものを感じた。

 なりたくてもなれないルリアとは別の共通点を、感じ取ったような気がした。


「聖竜騎士団ってのはおっかないな。よし、クエスト完了だ。お前ら約束通り、宴会だ! 酒場で飲むもよし、娼館で女を抱くもよし、好きにしやがれ!」

『うーい』


 現地集合現地解散。それが冒険者の流儀だ。

 さて、気になることが一つある。魔獣にしては、随分と頭の良い作戦だった。

 ルインはもう一度空を見上げた。大将亡き後、何が起きているのか。


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