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第7話

支度は万端に整った。ついでにフローリアシティまでの商人の護衛依頼を引き受けた。『花祭り』で桜の花を模した飾りを売るんだそうだ。あとダンジョン産のルビーベリーの砂糖漬けとか。ルビーベリーは10階層で採れるルビーのような真っ赤な苺。繊細な甘みと上品な酸味が癖になる…と、好む人は多い。とりあえず護衛として馬車に乗せてもらえるそうだ。


「宜しくお願いしますね。ベルファーレさん。」


商人のボギーさんが手を差し出した。


「ええ。契約したからには手は抜かないわ。」


ベルさんが手を出して握手した。

馬車は二頭立て。幌のついた馬車だ。荷物の積み込みは終わっているようだ。私たちは収納バッグに荷物を殆ど入れてあるので荷物はないに等しい。一応個人のリュックに多少の食べ物と水が入っているけど。場所をとらないのでボギーさんにも喜ばれたようだ。私たちが小ぢんまりしていればその分荷物が積めるからな。祭りとは関係ないがダンジョン産の素材で作られた武器防具類はどこでもいい値で売れるから。いつだか私たちが戦った蟻の外殻で出来た鎧とか。火魔術に弱いことに目をつぶれば硬いことには間違いがないし。それはもう。私の剣が刃毀れするほどに。ちゃんと良いやつに買い換えました。

ゴトゴト馬車に運ばれる。


「さて、ジゼルちゃん。意識して索敵とかしたことあるかしら?」

「ないです。」

「今回の旅ではそれを学びましょう。集中して自分の周囲に感覚を広げていく感じよ。生き物は多かれ少なかれ魔力を持っているものだから、魔力感知が出来るようになれば、すぐに気配はつかめるわ。慣れてくれば大きさとか、強いか弱いかとかもわかるのよ。」

「やってみます!」


全然わからなくて1日目が終わった。途中2度ほど草原狼の襲撃にあったけれど、ベルさんもシータさんもちゃんと気付いていて、スムーズに討伐できた。マジックアイテムの剥ぎ取りナイフも使ってみたけどドロップする感じに少し似ている。ぱららっと素材が分解される。血抜きもされるらしくて血液は血液だけ分解された。入れ物が無いから地面にぶちまけられたけれど。草原狼の肉は筋が多くて食用にはならないという話だ。毛皮も爪も二束三文。でも嵩張るならともかく収納バッグで収納できるので、一応毛皮も爪も取っておいた。

夜はベルさんと私で干し肉と野菜のスープを作った。【クリエイトウォーター】で飲み水には困らないのでたっぷりスープを作った。ボギーさんにもお裾分けした。それとパンを食べて人心地。さて、野宿だとお風呂に入れないと心配していることだろう。此処で【クリーン】なのである。身体も服も汚れをきれいさっぱり浄化してくれるのだ。これでお風呂に入れなくてもさっぱり。でもこの魔術があればお風呂はいらないか…と言われると微妙で、お風呂には血行を良くする効果や、古い角質を浮かせる効果があるので、やっぱり入れるときは入った方が良いのだと思う。ところで汚れと染料による染色を魔術がどのように区別しているのかが非常に不可解ではある。でも汚れは落ちてるけど色落ちはしてないのだ。真面目に考えると禿げそうな気がする。そういう理論は学者様に丸投げしておこう。3人で1人ずつ交代で眠った。私が足を引っ張っている…索敵能力がイマイチなので私を一人で見張りにするのは難しいのだ。

焚火を挟んでベルさんとお喋り。見張りの最中にぺちゃくちゃお喋りするのはあまり褒められたことではないけれど、黙っていると眠くなるのだ。索敵の真似事はしているが、未だにベルさんの気配すらつかめない。


「なんか新鮮ね。」


ベルさんがクスリと笑った。


「何がですか?」

「ジゼルちゃんが髪を下ろしてるところ、初めて見るもの。」


そうだっけ?宿では女湯だからシータさんとは時々遭遇することもあるけど、ベルさんとお風呂上りに遭遇することとかなかったかもね。


「結ってるのも可愛いけど、下ろしてるのも可愛いわ。」

「有難うございます。」


照れちゃうなー…



***

朝、ベルさんが『髭を剃る』場面を初めて見た。言葉遣いはオネェだけど、やっぱり男性っぽい。異性を感じてどぎまぎしてしまった。でも多分ベルさんは『体は男性でも心は女性』な人なのだろう。異性として見てたと知ったら傷付くかもしれないから、どぎまぎしてしまったことは黙っておこうと思う。

やはり周囲の魔物の気配はつかめない。ゴブリンの襲撃があったが、私は全く気付かなかった。ベルさんとシータさんは勿論気付いてたが。


「難しい?」

「はい。魔力ってどんな感じなのかよくわからなくて。」

「そうねえ…アタシにヒール掛けられた時の感じが『自分以外の生命体の魔力』なんだけど。」

「うーん…」


何度かかけられたことはあるけど、痛みの方に集中力を割かれちゃって覚えてないなあ…


「じゃあ、手を出してちょうだい。今、少しだけ流してみるから。」

「はい。」


手を差し出すと、ベルさんに手を握られた。ベルさん、手、大きい…あったかい…別の方向に集中力を割かれそうになって、慌てて、魔力の方に集中する。ベルさんの手からじわっと魔力を流し込まれたのが分かった。


「わかったかしら?」

「はい。なんとなく。」

「とりあえず、アタシとシータの魔力を感じ取れるようになってみて。強さは質で見るのよ。アタシの質が治癒術師のもの、シータの質が剣士のもの。そして同じ剣士の魔力を持っている者同士でも、なんて言うか…輝きみたいなものの強さが違うのよ。キラキラしてる方が強いわ。……ごめんなさい。個人によって感じ方は違うかもしれないわ。感覚的なものだから説明しにくいの。」

「大丈夫です。試してみます…」


心を落ち着けて二人の魔力を探す。魔力を探り当てて判別できるようになった。でもまだ半径3mくらいまでの生き物しかわからなかった。因みに私は質を色のような形で捉えている。剣士と治癒術師の差は何となく分かったが、実力の大小は比較対象がないのでよくわからなかった。


「筋が良いわね。」


ベルさんが笑って褒めてくれた。嬉しい。


「先生が良いからです。」

「ふふ。有難う。でも知能の高い魔物は平気で気配も魔力も隠蔽してくるから、あんまり探知結果に信頼を寄せすぎてはダメよ。用心して臆病すぎるくらいが丁度良いの。」

「はい!」


ベルさんに頭をなでなでされた。優しいお兄さんに甘やかされるのはとっても気持ち良い。お姉さん?お兄さん?おねにーさん?わからないけどベルさんに撫でられるのはとても好き。

夜番でシータさんともお喋り。


「ジゼルは、あのランディとか言う男と付き合っていたのか?やたら好色そうな男だったけど。」

「まさかあ。金喰虫の私を格好良く冒険者に誘ってくれた時はちょっとときめきましたが、視線を辿れば街行く女性の胸を見ている、見た目重視の可愛い奴隷ちゃんを買って、毎晩隣室で喘がせてるのを知ってて惚れます?無理でしょう?この男はないな…と思いました。」


シータさんが笑った。


「確かにないな。ジゼルはどんな男性がタイプなのかな?」


一瞬頭によぎった人の影を打ち消した。


「やっぱり、優しくて、誠実で、面倒見が良くて、頼りになる、朗らかで、温厚な…」

「兄殿みたいな?」

「なっ!?だ、誰みたいとか、考えてないです!!ベルさんは素敵な方ですけど、ベルさんは男性がお好きでしょうし!」


アワアワと言い訳をした。確かにベルさんを思い浮かべて、こんな素敵な『男の人』がいたら、コロッと参っちゃうだろうなあ…とは思ったけど、ベルさんをそういう対象として見るのはベルさんを傷つける行為だ。そんなことしちゃダメだ。

アワアワする私を見てシータさんは噴き出した。


「あはは。ジゼル。兄殿は言葉遣いはアレだが自分を雄だと認識しているぞ?当然恋愛対象も女性だ。」

「へ…?」

「騙されたな?誤解されることは多いが、正真正銘雄だ。彼女がいたこともある。今はフリーだが。」

「そ…そうなんですか…」


おねにーさんじゃなくて、お兄さんだったのか。ふ、フリーか…


「内面の好みの話は聞いたが、外面の話は聞いていないな。どんな感じが好きだ?やっぱり顔のいい男?中性的?それともマッチョ?ぶっちゃけ兄殿はタイプか?」


私は真っ赤になった。ベルさん…格好良いです。性格はドストライクだし、見た目もかなりいいと思う。好みかと聞かれたらすごい好みなんだけど。


「……なんだか脈がありそうだな?」


まあねえ…格好良いもん。


「でもベルさんくらい素敵な人なら、私のことなんて歯牙にもかけないと思うので……夢は見ません。」


髪もありふれた茶色だし、微乳だし。性格も結構心狭いし、能力的にも足を引っ張っちゃってて…ちゃんと稼げるようになった今となってはこのジョブが悪いものだとは思わないけど、ジャンル的には珍品だと思うし。魔術を重点的に充実させてるけど、それなら金喰虫じゃなくて魔術師とパーティー組めばいいじゃん!って話だよね。と言うかもし告白して振られたりしたらパーティーに居づらくなるし、あんまり邪な思いを抱くのは…

でも妄想の中でこんな風に甘やかされたいとか考えるくらいならいいかな?ぎゅっと抱き締めてキスなんかされちゃったり…

……妄想するのは楽しいけど現実を見るのは惨めだ。ベルさんは頼れるパーティーメンバー。それでいい。


「ジゼルは妙に自己評価が低いな?すごく可愛いと思うのに。」

「お世辞はいいです。私はきちんと自分を知ってます。」


醜いとは言わないよ。多分可愛い方だ。村で3番目に可愛いとか、そういう微妙なラインだと思う。都会に出ると私なんて霞むほど可愛い人が沢山いるというね。シンシアちゃんくらい可愛ければ自信も持てたんだけどね。


「そう言うシータさんはどうなんですか?」

「そうだなあ。他人を冷かすのは面白いけど、ボク自身の恋ってあんまり興味ないかも。初恋まだだし、恋ってどんなものかよくわからない。まだまだ花より団子って感じだね。」


美少女なのに勿体無い…と思うけど長命種で18なら青春はまだまだこれからだから猶予はいっぱいあると思う。

シータさんが好きな食べ物の話なんかを聞いた。肉が好きだが、海産物も好きなんだそうだ。実家が海沿いの街で、海産物をたっぷり使った海尽くしのお料理を食べていたとか。聞くだけで美味しそうなんだよねえ。うーん…海、行ってみたい。私、生まれてこの方海なんて行ったことないよ。サテライトシティに来てから干した海のお魚は食べたことがあるけど。結構高くて、当時の私からすると精一杯の贅沢だった。塩っ辛い焼いた干物でご飯を掻っ込むのは中々に美味しかった。


「ジゼルの好物はなんだ?」

「好物……あまり豊かな食生活送ってなかったので、美味しいものってよくわからないです。」

「そうか……人生長いんだ。これからたっぷり楽しもうな!」

「はい。」


人生を楽しむ…か。色々思うところはあるけれど、やっぱりランディには感謝すべきなんだろうな。村で生きてたら絶対にできない、楽しい思いをしてるもの。ベルさんやシータさんにも出会えたし。

幸せになろう。


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