第67話
「トルク寝てばっかりだね。」
「生まれたばかりの赤ちゃんなんてそんなもんよ。」
お母さんに笑われた。お父さんは畑である。
みんなで眠るトルクを鑑賞。
「でもちっちゃいなー。手なんて玩具みたいだ。」
シータさんが小さな手をツンツンした。ほんとーにちっちゃいのだ。
「可愛いっすね。」
「皆もこんなだったのかにゃ。」
「母さん曰くアタシはちょっとむずかり屋さんだったみたいね。結構いっぱい夜泣きして両親を困らせてたって聞くわ。シータはお乳を飲んでる時以外はずっとぐっすりな感じだったわね。」
「寝る子は育つのだ。」
「成長したようなしてないような…」
「してる!」
ベルさんとシータさんの言い合いを眺めた。
「ジゼルたちはここを発ったらどこに行くの?」
お母さんに聞かれた。
「まだ決めてない…どうしましょうか?」
「青のダンジョンはまだだろうな。緑のダンジョン?」
「そうねえ…黄のダンジョンはどう?」
「ボクは苦手だなー。」
シータさんが露骨に顔をしかめた。
「自分は行ったことないっす。どんなとこっすか?」
イシュさんはまだあまり色んな所へ行った経験はないんだよね。私もだけど。
「とにかく敵が硬い。低階層にはロックゴーレムとかがうようよいる。ちょっと進むとアイアンゴーレムとかが出てきて自分はお手上げだ。すぐに刃がぼろぼろになる。兄殿のメイスは少し有利だが。重軽メイスだともしかしたらすごく良いかもしれんが。」
ロックゴーレムもアイアンゴーレムも見たことないな…
「どうしてベルさんは黄のダンジョンがいいと?」
「まさに『潜りにくい』からよ。シータが言ったように土属性の敵は硬い。だから比較的浅い層までしか攻略されていない……深層部にお宝を溜め込んだダンジョンなのよ。普通にやればアタシたちも攻略は手間取るでしょうけど、【エンチャント・風】を使えば多分攻略しやすいんじゃないかと思うわ。【攻撃力UP】もかけて。シータのフローレスソードは刃毀れの心配がないし。」
ふうむ…
「にゃーは黄のダンジョンでもいいにゃ。腕力が無いから足手まといかもだけど、にゃーは色んな所にいっぱい行きたいにゃ。」
ミーニャさんは賛成らしい。
「うふふ。黄のタンジョンではそれなりに罠も多いから活躍する場面も多いわよ。」
「にゃーのポジションは罠の解除装置にゃ…」
ミーニャさんが肩を落とした。
「ミーニャちゃんはがっかりしてるけど、アタシたちにとってそれは死活問題よ。」
「滅茶苦茶パーティーに貢献してるっす。」
「そ、そうかにゃ…?」
ミーニャさんが照れ照れした。
「【エンチャント・風】が使い物になるなら私も黄のダンジョンに行ってみたいです。」
「自分もそれでいいっす。」
「じゃあ、ボクも再チャレンジしてみるか。フローレスソードの効果が如実に表れる敵だし。」
お母さんに向き直った。
「ということになりました。」
「いいんだけど、定住してないと手紙が送れないわね。」
「もし腰を落ち着けることになったら手紙にそう書くから。」
それから私とベルさんがそれぞれお土産を見せた。ボルルックシティで買った丸鈴やワインや干しブドウ。お母さんは母乳の関係上ワインやお刺身を口にできないことを悔しがっていた。
「でもあれ良かったわー。クリアスキンスクロール?本当にお肌が透明感出ちゃって…アイルにも『綺麗になったね』って褒められたのよ。村のみんなにも『あれ?最近キレイなった?』なんて言われちゃって。おほほほほ。」
「あれいいよねー。夏の砂浜でも全然日焼けしなかったよ。」
「ズルいにゃ…」
ミーニャさんは羨ましそうだった。今はそうでもないけど、出会った頃は結構日焼けしてたもんね。短命種だからシミと長いお付き合い…って言うのはないんだろうけど、日焼けはしないに越したことはない。
「でも本当に私に『仲居さん』なんて務まるのかしら?」
「『理想の仲居さん』を『演じる』つもりでやってみてください。」
ベルさんが助言した。
「ふふ。そうね。やるだけやってみましょう。まずは3年…しっかりトルクを育てなきゃ。」
「そうですね。ジゼルちゃんみたいに素敵な子に育ててください。」
「頑張るわ。」
それからみんなが私の酒癖を母に教えた。私は成人して、すぐに旅立ってしまったので、家でお酒など飲む機会がなかった。すごく弱いのはお父さんもお母さんも知らないこと。私の両親もまたお酒は嗜まないのだが。嗜むほどの金銭的余裕がなかったからだけど。
「ジゼルがご迷惑をかけたみたいで…」
母が恐縮している。
「別に絡み癖とかじゃないし、本人が弱いの自覚してるから平気だぞ。」
「公衆の面前で服を脱ごうとしたときは焦ったわね。」
「何?そんな面白い事件が…」
「面白くありません!」
「にゃーは奇妙な踊りは結構好きにゃ。」
「自分はそれがきっかけで助かったようなものなんでコメントに困るっす。」
父も帰ってきて、【アイテム購入】で、皆で美味しい食事をとった。母は赤ちゃんがいるので自分の食べるものは色々吟味していたようだが。
お母さんって大変だな。トルクは寝てるか泣いてるかのどっちかだし。おむつが少し不足気味だとのことだったので【アイテム購入】で購入しておいた。
「あー…便利だわ。ジゼルの時はおむつ自体がそもそも私たちの古着で、それでも沢山はなくって、洗ってまだ生乾きのおむつを巻いて盛大に泣かれたもんよ。」
「にゃーの孤児院では年長組から延々と衣服を受け継がれて、何度も継ぎを当てて、もう着られない!ってなったら無事なところをおむつに回してたにゃ。」
「貧乏は敵です…」
「ジゼルちゃんの子供は優雅に暮らせそうだけど、その分教育はしっかりしないとね。」
私の子供かあ…まだ想像つかないな。ていうかまだまだ先の話だよね?うん。冒険者もっと続けるつもりだし。




