第65話
「観光しようにも…」
「何もないでしょう?」
「何もないな。」
シータさんが困った顔をしている。
「とりあえず、気も紛れるでしょうし、私の友人を紹介しましょうか。」
「お。いいのか?」
「他に何にもすることがないので。とりあえず声かけてきますから、村の中央にある『鶴亀亭』にいてくださいますか?地図預けときます。」
「わかったわ。」
ベルさんに地図を預けた。とはいえこの村に飲食店は一軒しかないのだけれど。多分地図なくても行けばわかる。
友達を呼び出そうとしたら、普通に友達がいるところまで行くしかない。つまり畑。私は各々の畑を回った。
「ボナー!ジゼルだよー!里帰りだよー!時間あったら話そうー!」
「ジゼル!?嘘。行く行く!どこで話す?」
「『鶴亀』!私のパーティーメンバー紹介するよ。」
「ごめん…お金が…」
「お茶くらい奢るよ。スコーンと紅茶でどう?」
「マジで!?やった。お父さん、お母さんちょっと出てくる!」
「ミミィに声かけてきてよ。私はジェーンとブレンダ呼んでくるから。」
「わかった!」
私はジェーンとブレンダを連れて『鶴亀亭』へ行った。ボナもミミィを連れてきてた。
ベルさんたちは先に来ていた。鶴亀屋の主人にテーブルと椅子を寄せてもらって、皆で座った。
「えっと、私の左から時計回りに、ベルファーレさん、シータさん、イシュタルさん、ミーニャさん、ボナ、ミミィ、ジェーン、ブレンダです。それぞれ宜しく。」
「宜しく。」
『銀の匙』の皆はにこっと笑ったけど、ボナとミミィとジェーンとブレンダはイシュさんとベルさんを見てうっとり。
「何?都会ってこんなに格好良い男の人いるの?」
「あたし結婚早まったかもー。」
村のみんなが嘆いている。
「えーと…都会でもこんなに格好良い人たちは珍しい方だよ。因みに私はベルファーレさんとお付き合いしてる。」
照れ照れ打ち明けた。
「ジゼルずっるーい!!」
きゃらきゃら笑いながらブーイングが飛ぶ。因みに私の友達はほとんどエルフだ。ブレンダだけ兎獣人だ。この中で既婚者もブレンダだ。
スコーンと紅茶が来たのでみんなでお茶。ブルーベリーのジャムでスコーンを頂く。
「なんかさ、『冒険者』って聞いてたからもっと『荒くれ者!』みたいなのを想像してたよ。」
「そういう冒険者もいっぱいいるわ。うちのパーティーはそういうタイプじゃないだけよ。」
ベルさんが微笑んだ。皆ベルさんの口調に目を白黒させている。
「なんかジゼルちょっと綺麗になった?」
「うんうん。お肌もすべすべだし、なんか色白になった気がする。」
クリアスキンスクロールだねえ…みんなの分ないから言えないけど。
「アハハー。ちゃんと手入れしてるから。」
「え?冒険者って肌の手入れ必須?」
「いやいや、必須じゃないよ?」
「にゃーは手入れしてないにゃ。」
「ボクは最近は頑張ってる。」
シータさんは見せたい人がいればこそだね。
「シータさんも美人だよねー。」
「ありがとう。」
シータさんがはにかんだ。
「ジゼルは、なんか『鶴亀亭』の紅茶セットなんてポーンと人数分奢っちゃって…出世したねえ。」
「ランディどうなったの?」
「奴のことは知らん。」
今何してるか全然わかんないし。知る気もない。
「はいはーい。ベルファーレさんとの馴れ初めが聞きたーい!」
私とベルさんが馴れ初めを話した。シータさんがしきりに私たちをくっつけようと嗾けた話も。私がベルさんのこういうとこが格好良くて…と惚気ると舌打ちされた。冗談なんだけどね。
「アタシはジゼルちゃんの子供時代の話が聞きたいわ。」
「ジゼル小麦畑の中で迷子事件!」
「ちょっと!その話は…!!」
私は幼いころ、他所の小麦畑に入って、でも小麦は小さな私よりうんと背が高くて、周囲が見えなくて迷子になってしまったのだ。そして帰れずに心細くなってわあーんわあーん!と声を上げて泣いていたところを村人に救出された。恥かしい思い出話だ。
「ジゼルランディに野イチゴを奪われビンタ事件!」
「やめてって!」
小さな頃、こんな極貧の村じゃ甘いものなんて超貴重で、森に分け入り、野イチゴをいっぱい摘んでほくほくしてたら、ランディに籠ごと奪われた。返してって言ってるのに返してくれなくて、私の前で野イチゴを食べ始めたので腹が立って、思いっきりビンタをかました。ランディのぐらぐらしてた乳歯が抜けて口の中を切ってランディは口から出血。血が止まらなくて大騒ぎになった。
「ジゼルヤマブドウの真っ赤な頬紅事件!!」
「やー!」
子供のころ綺麗な奥様に憧れて、真っ赤なヤマブドウを潰して汁をほっぺに塗りたくったことがある。自分では綺麗になったつもりで村中を練り歩いて、村人の笑いを誘った。両親に「そんなに顔汚して!みっともない。」ってダメだしされてわんわん泣いた。私はすご――――く悲しかったけど、頬をヤマブドウで染めたちっちゃな女の子がわんわん泣いてるのは村人的にはまた笑いを誘う光景であったようだ。
「ジゼルの柿は…」
私はジェーンの口を塞いだ。
「今はお淑やかなジゼルにも、子供時代はあったんだな。」
シータさんが微笑ましそうに笑った。
「ジゼルちゃん可愛い。」
ベルさんに抱きしめて撫でられた。
「ベルファーレさん、ジゼルにちゅーしてください!」
「ふふ。」
ベルさんは私の頬に手を当てると唇に唇をトンと押し当てた。キャー!!と声が上がる。私は頬が熱くなる。うあ…友達の前でちゅーしちゃった…
「ジゼルいいなあ!格好良い彼氏いいなあ!」
「ラブラブちゅっちゅかコノヤロー!」
「あーん、あたしも都会に行きたいー!!」
「兄貴ノリノリっすね。」
「兄殿は適度に余裕ぶっこいてるからな。」
ベルさんの余裕が恨めしいです。パーティーに入ってからの冒険の話とかいっぱいしたけど友人の近況もちょっと聞けた。ブレンダは幼馴染のデレクと結婚して新婚生活。早くも尻に敷いているらしい。ジェーンとミミィとボナは長命種なのでまったり構えているようだ。「都会いいなー」と言ってるが三人のジョブは『農耕士』なので農民やってるときが最も輝いてると思うんだけど。でも『都会で一旗』はみんなの憧れであるらしい。それを成し遂げている私には羨望の瞳が向けられる。まだまだ冒険頑張るんだけどね。
みんなでお茶とスコーンを食べてたっぷり話し込んだ後解散した。




