第6話
貯蓄額が9000万を超えた。相談した結果、広域の敵を殲滅できる【サンダーバースト】1500万ギルと、風の刃で敵を斬る【ウィンドスラッシュ】800万ギルと、かねてから欲しかった飲み水確保の【クリエイトウォーター】300万ギルと、身体や衣服の汚れをまるっと洗浄の【クリーン】300万ギルを購入することにした。合計2900万ギルのお買い物。残り6100万ギルはあるけど一度に全部使う必要もなかろう。他の魔術はまだどれを買うのか決めてないし。お金も無制限にあるわけではないし、少しセーブ。タブレットにお金を吸わせてスキルを購入してから気付いた。
「あれ?『金喰虫』の新しいスキルが増えてます。」
「本当?」
「次はどんなだい?」
「【アイテム購入】ってやつみたいです。」
【アイテム購入】は至ってシンプル。欲しいアイテムをお金を出して購入できるスキルだ。嬉しいっちゃ嬉しいけど、店で買えば良くね?とがっかりしていたらベルさんがタブレットを覗き込んで「これはすごいわ!」と言い始めた。
「例えば見て。この『鋼の剣』。店売り価格だったら10万前後よ。それがおよそ半額の5万!新品の剣を武器屋へ売る場合、店売り価格の8割で買い取ってくれるのが相場だから純粋に3割。3万の利益が出ることになるわ。もし購入してみた鋼の剣が一般のものより高品質だったり低品質だったりした場合はその限りではないけれど。」
「あ?おお?」
いきなり計算されて頭が追い付かなかった。ベルさんの頭の回転は速い。
「と言うことは鋼の剣100本買って武器屋で売れば300万の儲け?」
「ふふ。流石に普通の武器屋だったら100本も買い取ってくれないわよ。それは例えばの話。」
ああ、需要と供給が釣り合わないからか。
「それにしたって伝説のアイテムまで売ってるじゃない。聖剣、魔剣、エリクサー、なんでもござれね。高いけど。収納リングなんて指輪型の収納。品質が6段階に分かれていて、収納容量が5トン、10トン、50トン、100トン、500トン、1000トン。中に入れたものの時間経過は0。明らかに収納バッグの上位互換。1番下のランクの5トンでも国宝級よ?それがたったの1億で買えるだなんてちょっとあり得ないわ。これってオークションで、『最低価格2億から』とかの半額ってことよね?」
ベルさんやシータさんの貯蓄額は知らないが腕利きの冒険者をやってきたわけだし、特にベルさんなんてCランクまで功績が溜まるような冒険をしてきたわけだから資産は多いんじゃないかと推定される。1億なんて手が届かない!!…………って額じゃないんだよね。今の私達ならば。
「いよいよジゼルちゃんが国家に身を狙われる存在になったわね。エリクサーなんてあらゆる病気や怪我を治し、不老不死になる霊薬じゃない?効能にもそう書いてあるし。不老不死を望む人間は多いし、これはちょっと人には絶対言えない秘密ね。値段も素敵だけど。」
100兆ギルするもんね。私たちは絶対に買えないと思う。大国の王様が国を傾ける覚悟で国家予算つぎ込んだら買えるかもしれないけど。国に身を狙われるとかちょっと怖いです。
「でも普通に便利でもあるわ。どんなに遠出してもお金がある限り食料もポーションも買い続けられるのよ?しかも半額で!」
確かに便利かも…しかもこのアイテム、使用者刻印と言うのを100万ギルで行ってくれる。万が一聖剣が盗まれても使用者刻印されていれば盗んだ者にはその聖剣が使用できない。逆に刻印をしなければ後のアイテムを誰が使ってもいいわけで、いくらでも店に売れる。寧ろ商人向きのスキルではないだろうか。今は素敵な仲間が出来たので、冒険者を続けていたいが、いずれ冒険者を引退したら商人になるのもいいかもしれない。夢膨らみまくりんぐ。
パーティーメンバーを増やす以上誰にも秘密というわけにはいかないだろうが、ベルさんには絶対に信頼できる人にしか明かしてはならない。使用する場所は人目のないところを選ぶことと、固く、固ーく約束させられた。
「なあ、折角水魔術を覚えたのだから、ちょっと旅行してみないか?」
「旅行……」
「たまには、こう、いい景色を見たり、美味しいものを食べたり。」
「散財しそう…」
私は渋い顔だ。
「たまには散財すべきだよ。幾らお金が必要だからといって、ずっと働き詰めで、戦ってスキルを買って、そのスキルでまた戦う日々の繰り返し。そんなんじゃ何が楽しくて生きてるんだかわからないよ。」
「シータ、良いこと言った。お金が全くないならいざ知らず、余裕があるなら人生を楽しむべきね。」
ベルさんもシータさんに同調した。人生を楽しむ……生きることに精一杯で、そんなこと考えたこともなかった。確かに『生きる為に』生きるのはちょっと味気なさすぎるかもしれない。とはいえ、趣味らしい趣味もないし…旅行は丁度良いのかも…
「ねえ。数十年後振り返って、『あの頃は楽しかったなあ』って思える思い出作ってみたくない?冒険だったり、恋だったり、旅行だったり、胸に輝く思い出は欲しくない?」
ベルさんが甘く誘う。
「旅行…行ってみたいです…」
「この時期ならフローリアシティの『花祭り』に間に合うかもしれないわね。」
ベルさんがにっこり微笑んだ。
「花祭り…?」
私が人生のうちで行ったことのある街はかなり限られている。フローリアシティには行ったことがないし、花祭りも知らない。
「アタシたちも1度しか行ったことがないけれど、『花祭り』は1週間続くお祭りで、1週間の間は毎日大通りに屋台が出るのよ。もうごった返し。脇道に『桜』っていう花の木がずーっと先まで植えられていて、その桜の花びらがひらひら舞う素敵な光景なの。」
「楽しそう…」
桜の花が上手く想像できなかったけど、きっと綺麗な花なのだろう。
「楽しいわよ。」
「どこの屋台の飯も旨かったよ。ボクは『お好み焼き』と言う食べ物が気に入った。ソースが甘辛くて堪らないんだ。ただ宿はどこも満室御礼状態だったね。」
シータさんが言う。
「ええ。アタシたちは他のメンバーと広場にテントを張って寝たし、そうする人は多かったけれど、後から聞いた話によると、西地区にバンガローがいっぱいあって、借りられるみたいだから、そこが借りられたらなって思っているのだけれどね……無理そうだったら今回も野宿のつもりでお願いね。因みに湯屋もあるけど、かなり混むわよ。」
旅行には旅行の苦労があるのね。
でも折角便利な魔術も覚えたし!
「まずは道中の為の旅行道具を用意しましょう。アタシたちもテントとか例の3人に譲っちゃったから持ってないのよ。」
私はタブレットでテントの項目を見た。
「私のスキルがあればそれも半額ですしね。何人用のテントを購入されますか?今に合わせて3〜4人用?それとも将来に合わせて多人数用のテントにしますか?」
「どうしましょうねえ…これから先、パーティーメンバーが増えるとは思うけど…とりあえず6人用くらいにしてみましょうか。」
「6人用ですね。テントと一口に言っても色んな形があるので、一緒に選んでもらえませんか?」
私とベルさんはタブレットを覗き込みながら、これはちょっと脆そうとか、これは雨が降った時は良さそうな構造とか言い合いながらテントを選んだ。
「鍋とかお皿とかも必要ですか?」
「そうね。小物はとりあえず3人分あればいいかしら。道中の食料も買いましょうね。」
食料だけは収納バッグに入れっぱなしと言うわけにはいかないんだよねー。一応60分の1の速度で時間が経過してるから。と言っても1時間が1分。1日が24分。1年は336日だから60分の1だと割り切れないけど、概ね6日。1年経つごとに鞄の中では23℃で6日経ってる。基本生肉とかはあまり保存しない方が良さそう。
収納リングがあればその心配は一切なくなるのだけれど、収納リングは魅力的ではあるけれど、今のところ収納バッグさんで事足りるし、一番下のランクでも1億するので、私の所持金だと購入できない。ベルさんたちは多分1億以上持っているだろうが、今は購入するつもりはないっぽい。しばらくは収納バッグさんに頑張ってもらおう。