第48話
季節は変わり、冬になった。11月末、今日はマリーアネットシティでは初雪が降った。流石に雪の中いそいそとダンジョンに出かけるほどワーカーホリックではない私たちはまったり温泉に浸かっている。シータさんとミーニャさんは雪見酒なんかを楽しんでいるようだ。
「極楽だにゃ。」
「同感です。…小さな頃は家にお金も薪もなくって、冬は森で小枝を拾ってきて、薪代わりに火をつけて小さな火で手足を炙ってました。冬でも基本井戸水で身体を拭ってましたし。」
「わかるにゃ。小さな火をつけて手足を炙るだけじゃ火が勿体無いからお湯も沸かしてその後湯たんぽにして暖を取るんだにゃ。」
「そうです!湯たんぽが作れない日の夜の睡眠は地獄ですよね。」
「わかるにゃ~。湯たんぽが作れない日は孤児院のみんなで団子状態で寝てたにゃ。『みんなで身を寄せ合って暖を取る』って字面にすると微笑ましいけど、ぶっちゃけやってらんないくらい寒いにゃ。」
ベルさんやシータさんやイシュさんとは幼少期の生活観が噛み合わないことがままあるが、ミーニャさんの言うことはすっごいよくわかる。
「寒いと息が白くなるってよく言いますけど、極限まで寒くなると体の方も相応に冷たくなって、息も白くなくなるんですよね。」
「わかるにゃ。『このまま死ぬかもにゃー…』って思うことがままあるにゃ。」
「わかります。……極楽ですね。温泉って天国なんですか?」
「極楽にゃ。にゃーも出世したにゃ。この前初めて孤児院に仕送りしたにゃ。お金がかかるからにゃーに手紙は書かなくていいって書いたけど、この冬は少しは薪が買えたかにゃ?」
「……やめろ、お前ら。幼少期を想像すると痛々しいから…。幸せに生活してて申し訳ない気持ちでなんかいっぱいだ。居た堪れない。」
シータさんが微妙な顔で耳を塞いでいる。
「大丈夫にゃ。今は幸せにゃ。優しい仲間とたっぷりの収入。美味しい食事と温かい温泉。ああ、極楽にゃ。」
「本当に…思うにパーティーメンバーに恵まれると生活変わりますよね。」
「それにゃ!『シェリナ守護隊』は殆どのメンバーEランカーだったけど結構貧乏だったにゃ。シェリナはいい暮らししてたけど、それ以外のメンバーはかなり切り詰めてたにゃ。実力もあんまりないし、稼ぎもそんなに良くなくて。今の生活からすると想像できないくらいにゃ。」
「わかります。わかります。私このパーティーに入る前は幼馴染と2人パーティーだったんですけど、年収35万ギルでした。しかも2年で70万のうち20万は生活費で、50万でスキル買って、ほぼ素寒貧でした。」
「……わかるにゃ。それ貢献度で収入変えてるパターンにゃ。『お前、あんま役にたってないし』って最低賃金で働かせられるにゃ。ジゼルの場合お金がないとジリ貧だから余計にやるせないパターンにゃ。『幼馴染は信用出来る』なんて幻想にゃ。にゃーも貢献度で収入変えられてたにゃ。ダンジョンでは結構罠あるけど、普通にダンジョンの外では罠なんてないし、宝箱も滅多にないし、罠設置が苦手なにゃーは役立たず扱いだったにゃ。最低賃金で働かせられてたにゃ。しかも『役立ってないから』って雑用押し付けられてたにゃ。」
「……やめろ、お前ら。想像すると痛々しいから。最初のスタートからパーティー内で発言力のある兄殿の庇護の元のびのび冒険者やってて、なんか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。」
「シータは恵まれてるにゃ。」
「なんかすまん…」
「別に責めてませんよ。」
「居た堪れない…」
「あー、今は幸せだにゃ。」
「そうですねえ…」
私とミーニャさんは過去の自分と今の自分を比較して「今、スゲー幸せになった!!」と内心物凄く喜んでいるだけである。
「ジゼルも佃煮食べるにゃ?美味しいにゃ。」
「じゃあ、少し頂きます。」
小魚の佃煮だが、すごく美味しい。海苔の佃煮もいただいたが、如何にもお酒に合いそう。ミーニャさんは美味しそうにお酒を飲んでいる。
「雪見酒だなんて風流だにゃ。」
「小さい頃は雪、大嫌いでしたけどね。寒いし雪かきしないと家が倒壊の危険性があるので。」
「わかるにゃ。柱がミシッていうたび『今、屋根が落ちてきたら死ぬにゃ…』って思うにゃ。」
「……やめろ、お前ら。もう止めてくれ…」
私とミーニャさんは雪の中の温泉を満喫したが、シータさんはあんまり楽しめなかったみたいだ。「あんなに居た堪れない温泉は初めてだ。」と言っていた。なんかすいません。ミーニャさんとは過去の生活レベルが概ね一致してるので話が盛り上がってしまうのだ。私たちは今幸せなので過去の不幸も「あんなこともあったよね。」って笑えるけど、聞いている方は相当居た堪れないらしい。
「兄殿…どうやったら、恵まれない子供たちが幸せに生活できる世界になるんだ?」
温泉を出たシータさんがベルさんに泣きついた。
「そんな世界規模の悩み事、ちょっとアタシは受け止めきれないわねえ…」
「…………兄殿、温泉は楽しかったか?」
「?ええ。イシュ君と雪見酒を満喫したわ。ひらひら白い雪の結晶が空から舞い降りて、風景は本当に幻想的。空気は身を切るように冷たいけれど、温泉はじんわり温かくて…熱燗がきゅっと五臓六腑に染みわたる。冬の醍醐味よね。」
「キィィィィエエエエエエエエッ!!裏切り者おおおおおおおおおおおお!!!!」
シータさんが枕でベルさんを叩きまくっている。
「シータさんどうしたっす!?なにゆえ突然の乱心!!?」
「湯冷めしないうちに寝るにゃ。」
「はい。身体がぽかぽかでいい夢が見られそうです。」
シータさんは荒れているが、私とミーニャさんは幸せで、お布団にごろりだ。
幸せ過ぎてこわーいわー。
シータさんをこれ以上ないくらい居た堪れない気持ちに突き落としておいて、幸せにぽかぽか睡眠を楽しむジゼルちゃんとミーニャちゃん。
ベルさんとイシュ君はごく真っ当な雪見酒を楽しんでました。




