第47話
気付け薬の匂いで目を覚ました。
「すいません、イシュさん!」
「大丈夫っす。セイレーンをシールドバッシュで叩いたっすけど、まだ死んでないっす。あの辺魔物だまりが出来てるんで、ドレイン後殲滅お願いするっす。」
「はい。」
まずは【マナドレイン】で魔物の魔力をいくつか吸い上げて自分の回復に回し、その後【サンダーバースト】で一気に殲滅した。
注意深く【アンチマジック】を使って、通路を進み、ドロップを拾う。
「ジゼルさん。また宝箱があったっす。」
「嬉しいですけど、私達じゃ開けられないから収納ですね。」
「はいっす。」
収納リング5トンのありがたみよ。
「地図どうっすか?」
「随分埋まってきてると思いますけど…あ、一周してる!あそこの角…私がチョークでつけた印が入っます。」
チョーク、紙、ペン、インクは【アイテム購入】で購入したのだ。R12とあるので12番目に曲がった右角という表示である。地図を埋めていく。
「じゃあ、今度は左回りで行くっすね。」
L8と地図と通路に記入。
「気付け薬も追加購入しますね。」
「そうっすね。無くなったら致命的っす。ジゼルさんが【混乱】受けた時は死ぬかと思ったっすよ。」
「すいません…」
「お互いさまっす。」
確かに。イシュさんのシールドバッシュ食らいそうになった時は焦った。因みにイシュさんに応急手当キットを全て預け、私は【キュア】800万ギルを購入している。ほんと洒落にならないから。ベルさんの有難みがよくわかったよ。
「一番多く食らう状態異常は【昏睡】っすけど、洒落にならないのは【混乱】の方っすね。」
「混乱防御のアミュレット買いますか?500万しますけど。状態異常防御リングが欲しいですけど、あれタブレットでも通常価格2億しますからね。」
「2億はきついっす。混乱防御の方は買うっす。長い目で見たらお得と信じて。」
「じゃあ、私も。」
1000万タブレットに吸わせてアミュレットを2人分購入した。
小さなボタンのようなブローチを身に着けた。
「じゃあ、引き続き探索行きましょう。」
「はいっす。」
***
「もう7日っすか…シータさんたちは大丈夫っすかね。水とかランタンとか。」
「ランタンは蝋の関係とかもありますしね…」
真っ暗闇の中の探索はしんどいよね。ミーニャさん何本くらい蝋燭持ってったんだろう。
⦅ジゼルちゃん、聞こえる?⦆
共鳴のイヤリングにベルさんから連絡があった。私は立ち止まって、イシュさんにイヤリングに連絡がきているジェスチャーをした。今までも何度か、ベルさんとは連絡を取っていて、その度に会話に集中するのでイシュさんには周囲の警戒をお願いしているのだ。
⦅はい。⦆
⦅アタシは特殊区画を抜けて、転移石が使えるようになったから、今、真・青のダンジョン1階層の登録石の前にいるわ。このままここでみんなを待つつもり。⦆
⦅そうですか!良かったです!⦆
私達が助からなくてもベルさんだけは生きて出られるんだな。
⦅そっちはどう?⦆
⦅マッピングはしてるんですけど…なんか同じところぐるぐる回ってるみたいなんです。でももうどこにも道がなくて…⦆
⦅こっちと同じ造りだったら…海神の加護のペンダント取りに入った時のこと覚えてる?あれの一番初めの扉。赤か青の石が壁に嵌まってて、魔力を流すと扉が現れる構造。そういう魔力を込めるための石があるか探してみてちょうだい。色はわからないけど。アタシはそこから出たのよ。⦆
⦅わかりました!探してみます。⦆
⦅じゃあ、待ってるわ。気をつけてね。⦆
⦅はい。⦆
私はイシュさんにベルさんから聞いたヒントのことを話してみた。2人で壁を注意深く観察しながら歩いた。
***
「ジゼルさん!あったっす!!」
ベルさんから遅れること2日。壁に魔力を流すための石を発見した。オレンジ色の小さな石だ。見過ごすのも無理はない。
「じゃあ、魔力流してみるので…罠じゃありませんように。」
そっと触れて魔力を流してみると、扉が現れた。
「入りましょう。」
「はいっす!」
二人で扉に入る。今までとは別の場所に出た。同じダンジョンだが、何となく雰囲気が違う。
「転移石を使ってみましょうか。」
「はいっす。」
2人で転移石を割ると目の前にベルさんがいた。
「ジゼルちゃん!イシュ君!良かった。出られたのね!」
「はいっす!ベルの兄貴のヒントのおかげっす!!」
「二人とも、怪我は!?」
「私は大丈夫ですが、イシュさんは少し…」
ハイポーションで治りきらなかった深い傷跡が残っているのだ。イシュさんは強がって「大丈夫っす。」って言ってたけど…
ベルさんはイシュさんの傷口を見て、【オーバーヒール】で丸ごと癒していた。
「有難うっす。兄貴。シータさんたちはまだ…?」
「ええ。まだシータたちには会ってないの。まさかと思うけど、先に宿に戻ってることも考えて、共鳴のイヤリングをイシュ君に預けるから、宿に戻って確かめてきてくれないかしら?アタシは万が一のことがあった際に回復要員がいないと致命的だから、ここに残るわ。」
「私はどうしましょう?」
「何かあった時の補助の為に、ここに残って。ランプはイシュ君に貸すし、お魚牧場に入ったら1階層だし、そのままダンジョンを出て、宿まで聞きに戻るだけだから大丈夫よね?」
「はいっす!ちょっと宿の方見てくるっす。」
イシュさんがイヤリングとランプを受け取ってひとっ走り宿に戻った。
「ジゼルちゃん…悪いんだけど【クリーン】かけてくれる?もうどこもかしこも痒いのよ。」
「はい。」
ベルさんに【クリーン】をかけた。ベルさんは無精髭を生やして、衣服もくたびれていた。妙にワイルドな感じになってしまっている。
「シータ…ミーニャちゃん…」
ベルさんは物凄く物憂げな顔だ。ぎゅっと何かを握りしめている…と思ったら、私の誕生日に買った『ラッキーアミュレット』を握りしめていた。もう藁にも縋る気持ちなのだろう。
しばらくするとイシュさんから連絡があった。
⦅ジゼルさん、聞こえるっすか?⦆
⦅はい!⦆
⦅シータさんたちは戻ってないっす。テルマさんたちにシータさんたちが戻った際の伝言を頼んだので、自分もそっちに戻るっす。⦆
⦅わかりました。⦆
「ベルさん…」
「戻ってないのね…」
ベルさんは私の顔色を見てすぐに事態を察知したらしい。
「はい。」
「待ちましょう。」
数時間後イシュさんが戻ってきた。3人交代で仮眠をとる。
ベルさんはずっとラッキーアミュレットを握りしめて祈っている。
「あ…」
ベルさんが声を上げたので見るとラッキーアミュレットがさらさらした砂となった。
突然、シータさんを抱えたミーニャさんが転移してきた。ミーニャさんは半泣きである。
「みんにゃっ!!シータがっ!!」
「シータさんっ!!」
シータさんは左腕を失って血が流れ過ぎて意識が朦朧としているらしい。イシュさんがシータさんを抱きしめて狼狽えた。
「大丈夫よ。生きてるならまだ何とかなるわ。」
一番動揺しているはずのベルさんが一番落ち着いていて、慌てることなくシータさんに【オーバーヒール】をかけて傷を癒した。ぬるっと失ったはずの腕が再生された。
「みん…な…」
シータさんが意識を失った。ベルさんは脈を確かめた。
「大丈夫よ。気絶しているだけ。ミーニャちゃんは怪我は?」
「お腹が刺されて、尻尾が千切れたにゃ。」
「今生やすわ。」
ベルさんはミーニャちゃんに【オーバーヒール】を使った。
「みゃっ!すごいにゃ…元通りにゃ…」
ミーニャさんは吃驚しているようだ。
「他の人には内緒よ。」
「わかったにゃっ。」
とりあえず、シータさんはイシュさんが背負って、みんなで宿に戻った。私はシータさんとミーニャさんにも【クリーン】をかけた。
シータさんは布団に寝かされ、意識を失っている。ミーニャさんがこれまでの経緯を説明してくれた。シータさんとミーニャさんは一緒に飛ばされて、シータさんのスイーツボックスに予備の水、ミーニャさんのランタンで暫く行動していたらしい。私とイシュさんと同じく交代で眠ったりしながら。しかし水も残り少なくなり、ランタンの蝋は切れ、お互いが注意力散漫に。そこに襲ってきたのが【混乱】の状態異常である。シータさんとミーニャさんはお互いに殺し合っていたらしい。剣技は断然シータさんの方が上。あわや…という展開になったようだが、シータさんが直前に正気を取り戻して己の左腕を切断し、意識を覚醒させ、ミーニャさんに気付け薬をぶっかけたそうだ。ミーニャさんも刺されたり切られたりすると痛みで中途半端に意識が覚醒していて、シータさんの動きが見えていたらしい。気付け薬で完全に意識を取り戻して、シータさんを抱え、途方に暮れ、もうここまでか…と諦めて壁に寄りかかった時、例の石を発見。魔力を流し、特殊区画から脱出し、転移石を割って私たちの前に登場という流れだ。
「幸運だったにゃ。」
「良かった…」
ベルさんは呟くとぽろっと一粒涙を流した。
私もイシュさんも号泣している。ありえないほどの幸運が重なった奇跡の物語だ。
良かった…本当にシータさんとミーニャさんが無事で良かった…
「ふ。ふふ…ごめんなさいね、ミーニャちゃん…」
ベルさんが目尻を拭った。
「シータが起きたらちゃんと反省させるから。」
にっこりと微笑んだ。
「え!?」
「ひ、必要ないにゃ!」
「うふふ。みんながこんな目にあったのは誰のせい?」
微笑むベルさんの背後に鬼神が見える…
「シータ…かにゃ…?」
ミーニャさんが顔をひきつらせた。怖いよね!私も怖いよ!イシュさんも怯えてるし!
***
シータさんは翌日4時間に渡るお説教を受けていた。
ものすごく怖かったけど、みんなでベルさんに「その辺で勘弁してあげて欲しい…」とお願いして怒りを鎮めてもらった。
シータさんはみんなに土下座で詫びてお礼を言っていた。
***
「ベルさん…」
お風呂上りに部屋で寛いでいるベルさんに呼びかけると、振り向いて微笑んだ。ちょっとビクッとしてしまう。
「ふふ。もう怒ってないわよ?最初からジゼルちゃんには怒ってないし。」
そうなんだけど、なんか怖かったから。シャルマンさんが怯える気持ちもなんとなくわかってしまう。
実はみんなに根回ししてベルさんと二人っきりになれる時間を作ってもらったのだ。
「どうかしたの?」
「え、えーと…」
なんて切り出していいものか…もだもだしている私をベルさんが抱き寄せた。
「怯えさせちゃったならごめんなさい。…でもアタシは嬉しいのよ。みーんな無事で、ちゃんとシータにお説教できちゃうなんて言う当たり前の状況が。嬉しくて…」
ベルさんがまたぽろっと涙を流した。
「ふふ。年取ると涙もろくなるのかしら…?」
「それはあんまり関係ないと思います…」
私もイシュさんも号泣してたし。
「えっとですね…これ…受け取ってください…」
私はベルさんにさっき買ったばかりのラッキーアミュレットを渡した。
「……。」
「前の…砂になっちゃったから。」
ベルさんがそっとラッキーアミュレットを受け取った。
「ありがとう…。本当はあのお守りのおかげなのかしら…って今でも思ってるわ。ジゼルちゃん…アタシに無事に仲間を返してくれてありがとう…」
「わ、私はそんな…」
ラッキーアミュレットの効果だったとしても、それを購入することを選んだのはベルさんだし。
「これだけじゃなくて、【オーバーヒール】も…何が欠けても妹は戻ってこなかった。困ったわ。アタシ、ジゼルちゃんの事を飛び切り幸せな女の子にしてあげたいのに、アタシの方が貰ってばっかりね。」
「そんなことないです。」
ベルさんを抱きしめた。
「私の方こそ、ベルさんたちに貰ってばっかりなんです。ベルさんにあの日声をかけてもらってから、ずっと幸福で…私の幸福は全部貰ったようなものだから、少しでもお返ししたくて…」
ベルさんも私の事を抱きしめた。
「ずっとずっと幸せでいましょうね。愛しい人。」
「はい。」
ドアの外にシータさんたちがいるのはわかってたけど、思う存分いちゃいちゃした。
さ、最終回ちゃうで?




