第45話
「にー」
ハイン君が喋った。ベルさんを指さして。
「そうよー。ハイン、良い子ねえ。アタシが『にー』よ。」
「あ、ちょっとベル!僕だってまだパパって呼ばれてないのに!!ずるいぞ!」
サクヤさん涙目である。
「ボクが『ねー』だぞ!ハイン!」
シータさんが一生懸命アピールしている。
「私も、妹か弟が生まれたらあれをやるんでしょうか…」
「別にいち早く呼ばれなくても成長したらそのうち認識されるにゃ。」
ミーニャさんは割とドライだ。
「早く呼ばれたいっていう気持ちはわかるっす。赤ちゃん可愛いっすから。それに自分らは一回旅立っちゃうと年単位で帰らなかったりするっすから、呼ばれておきたい気持ちはわかるっす。」
イシュさんは微笑ましげに様子を見ている。
まったりモードである。真・青のダンジョンは稼げるし、お魚牧場の方も色んなお魚が取れるし、温泉は気持ち良い。私はすっかりここの生活に馴染んでいる。真・青のダンジョンが思ったより稼げるので、仕送りもちゃんとできてるし。
極楽ですなあ。
「ジゼルさんのお母さんは出産いつごろの予定っすか?」
「えーと…10月に2ヶ月だから妊娠したのは8月頃?10ヶ月くらいで出産なら6月頃出産予定ではないでしょうか。」
「楽しみだにゃ。」
「はい。」
弟かな?妹かな?いいお姉ちゃん出来ると良いけど。楽しみ。
私もハイン君を抱っこさせてもらった。とても可愛い。
「あー…あー…」
ハイン君はイシュさんやミーニャさんの尻尾に興味ありげだ。一生懸命触ろうと手を伸ばしてる。イシュさんは触らせてくれるがミーニャさんは気安くは触らせてくれない。パタパタと動かして誘惑している。焦らし上手ですね。
「あらあら。ハイン、いっぱい遊んでもらってるのね。」
テルマさんがやってきた。
「ふふ。レイラの所のシャルマンも今日里帰りしたみたいよ。」
「またお金の無心かしら?」
ベルさんが首を傾げた。
「多分ね。1,2年に一回はレイラにお小遣いねだりに来てるみたいだから。」
「レイラ叔母様も『母さん、なんかまた綺麗になりましたね!?』って言われるとお財布開いちゃうから良くないのよねえ。」
「あの子は、乗せられやすいというか、ちょっと気まぐれだからね。」
ベルさんとテルマさんがお喋りしている。
「シャルマンさんはレイラさんに似てますか?」
レイラさんに似てたらベルさんたちとも似てるってことだと思うけど。
「いいえ。シャルマンはレイラ叔母様の当時の旦那さん似よ。金髪碧眼の優男ね。まあ、中々美形だとは思うわ。性格はちょっとちゃらんぽらんだけれど。」
「へえ…」
「因みに叔母様は恋多き女性だから、今まで6人の男性と結婚して離婚してるわ。」
「そ、そうなんですか…」
多いよ!年齢が何歳か聞けてないから微妙だけど…
「子供はシャルマンと、ロキシーっていう男の子二人ね。ロキシーの方はまだ14歳よ。来年ジョブを授かる予定。本人は役者になりたがってるみたいだけど。」
「芸術家タイプのジョブって、余程成功しないと食べていくの難しくないですか?」
うちのお父さん『吟遊詩人』でお母さん『役者』だけど、二人とも本職では食べられなくて農民になったって聞いた。二人とも貧弱だから農民もあんまり向いてなさそうなんだけど。
「そうねえ…でも『役者』は接客業に適正ありだから、マリーアネットシティではまあまあ生きやすいと思うわ。」
「そうですか…」
***
「シータ!3年ぶり!綺麗になったね!」
シータさんとミーニャさんとお風呂上りに廊下を歩いていると、金髪碧眼のキラキラしい美男子がシータさんに声をかけてきた。
「久しぶりだな、シャルマン。金なら貸さんぞ。」
この人がシャルマンさんか。確かに見た目は優男風の美形だ。勿論ベルさんの方が格好いいけど。
「そういわず。200万だけ。ね?今度こそ倍にして返すから。」
「イヤダ。兄殿に言いつけるぞ。」
「うっ…ベルには…」
シャルマンさんは顔に『ベルは苦手』と書いてある。
「今度は博打か?女か?」
「両方?愛しのトアラを身請けするために資産を増やそうと思って、賭博で1千万ほどすってしまって…はっはっは。流石に母さんも怒ってたよ。500万しかくれなかった。」
「バカ息子に500万も与えている叔母君も大概だと思うがな。」
結構成功している画家だって聞いたけど怒ってても500万はくれたんだ。私だったらその理由では絶対にお金は与えないけどね。
「真・青のダンジョンって今話題だよね。稼げる?」
「割と稼げるが、お前の実力じゃ無理だと思うぞ。少なくとも状態異常の対策していないとな。盗賊の方は仲間にいるらしいから、罠は何とかなるかもしれんが。」
セイレーンが曲者だよね。昏睡している間にご臨終パターンは最近増えているらしいから。昏睡防御のアミュレットとかかなり高騰してるって聞く。
「うーん…お金は欲しいけど、命は大事にだよね。ああ、でもどうしよう…あと500万…年が明ける前に稼がないと借金奴隷になっちゃうんだけど。」
「知らん。自分で工面しろ。法には触れるなよ。」
シータさんはつれない返事を返す。シャルマンさんは私とミーニャさんに目を留めた。
「おや、綺麗なお嬢さん方だね。僕にひと口投資してみませんか?」
「こら、ボクの仲間に手を出すな。あとジゼルは兄殿の女だぞ。金を毟り取ろうとしてたのがバレたら…」
「おっと、用事を思い出したよ。それでは失礼するね。バイバイ、シータ。」
シャルマンさんはそそくさと去って行った。本当にベルさんが苦手なのだろう。
「すまんな。根はそんなに悪い奴ではないのだが、結構いい加減な奴でな。」
ホントに根は悪くないの?かなりいい加減な人に見えたけど。年が明けるまでに500万って…あと2ヶ月もないけど。
「お金大丈夫なんですか?」
「何時もなんだかんだ言って工面してるから大丈夫だろう。馬鹿ではないから、なんとか真・青のダンジョンで稼ぐと思う。本当にダメな時はもっと恥も外聞もなく泣きつくしな。兄殿も1度だけ泣きつかれて金をやったことがある。返ってはこなかったらしいが。」
「そうなんですか…」
付き合い方の難しそうな人だ。
中々アクが強いというか。




