第4話
「ジゼルの『金喰虫』って今レベルいくつなんだい?」
一緒に夕食を楽しみながらシータさんが聞いてきた。相変わらずシータさんはよく食べる。
「今Lv4です。ジョブを得てから2年しか経ってないので。」
「ほうほう。ジゼルは今17歳と言うことだね。」
「シータさんはおいくつですか?」
「ボクは永遠の18歳だよ。」
「……。」
「ふふふ。本当に18歳さ。ボクは少女っぽい見た目の方が好きだから、このまま成長は止まってほしいけど。」
エルフや魔族と言った長命種は10代後半から20代後半の見た目のまま、成長が止まり、寿命を終える。
「兄殿はいくつだと思う?」
「20代後半に見えますけれど…おいくつなのですか?」
「今は34だよ。でも兄殿に年齢は聞かないであげて欲しい。彼もまた『永遠の26歳』なのさ。」
「ふふ。」
ベルさんは色んな冒険者のお客さんの元へ行き、お喋りに興じている。今ならわかる。ベルさんはああして、パーティーメンバーを物色しているのだ。私に話しかけてきたときと同じように。
しばらくするとベルさんが戻ってきた。
「今日の成果はいかがです?」
「空振りね。やっぱりそう何度もうまい話は転がってないわ。」
3人だとぎりぎり18階層行くくらいしか潜れないんだよね。私は8階層で伸び悩んでいた自分を知っているので、「スゲー!!」と思うのだが、ベルさんやシータさんがまともなメンバーを揃えれば20階層越えは余裕っぽいので、些か物足りないようだ。
「そう言えば元のパーティーメンバーの解散って何が理由だったんです?」
「ちょっとつまらない話題よ?」
「ええ。」
「2人はカップルで、片方が妊娠したから寿な感じで2人で田舎に帰ったの。」
「それは素敵ですね!」
カップルで冒険!しかもベルさんたちと潜ってたってことは20階層以上の実力者。稼ぎも大きい、資産家。将来子供には「パパとママは若い頃冒険者だったのよ。」なんて言っちゃって。
「そうね。その2人は良いのよ。問題は残る3人で、男2人に女1人だったんだけど、女の子が二股かけちゃって、もうドロッドロ。嫌気がさして解散したの。」
男女の関係が絡むと面倒くさくなりますよね。特に二股とか。
「その3人は今は?」
「さあ?どっかのパーティーにもぐりこんでるんじゃないかしら?剣士に盾槍士に魔術師でバランスは良かったのよね。能力的なバランスは。因みに結婚した2人は盗賊とバッファーだったのよ。」
「そうなんですか。随分バランスの良いパーティーだったんですね。」
盗賊は斥候や罠解除、罠設置などを得意とするジョブ。罠が出てくるタイプのダンジョンだと必須のメンバーだ。緑のダンジョンでは罠は32階層かららしいけど。バッファーは、バフやデバフの魔術を対象にかけられるジョブ。心強い後衛。
「そう言えば800万ギルに到達したんですけど、なんか買いますか?」
すごいよねー。70万稼ぐのにひいひい言ってた私が、あっという間に800万稼いじゃって。
「悩むわねえ。あらゆる生き物にダメージ浸透の【雷】もいいけど、アンデット対策に【光】もいいのよね。飲み水対策に【水】と言う手もあるわね。悩ましいわ~。」
ベルさんはしばらく悩んでいた。
「同じ属性になっちゃうけど【ファイヤーアロー】にしてちょうだい。緑のダンジョンは基本的に火を弱点とする魔物が多いし、飛んでるタイプの魔物に【フレアボム】は効率が悪いわ。弓矢を使うパーティーメンバーもいないし。」
「わかりました。」
私はタブレットにお金を吸わせて【ファイヤーアロー】を購入した。800万ギルである。【ファイヤーアロー】は読んで字のごとく火の矢を飛ばすスキル。ファイヤーボールより効果範囲は若干狭いが、威力、速度共にファイヤーボールより優れている。
「あと、今でなくてもいいけど【クリエイトウォーター】は絶対に欲しいわね。今はダンジョン都市に住んでるし、転移石で戻ればいつでも井戸から水を汲めるけど、旅なんかしてしまったら、すぐに水が手に入らない状況の方が多いし。川が流れていても、生水飲んでお腹壊すこともあるから、一度煮沸しないと飲めないし。」
「そうですね。サテライトシティを離れる前までに【クリエイトウォーター】は購入しておきます。」
クリエイトウォーターは300万なので結構すぐ買えると思う。ああ。金銭感覚麻痺してきた。30万あれば我が家では1年暮らしていけたのに。300万は意外とすぐだと感じてしまう。
***
今日も今日とて迷宮探索。緑のダンジョンは虫系の魔物も豊富。どれもこれもばかみたいにデカい。フォレストワームと言う森タイプのエリアに出るミミズがとても大きい。全長が10mくらいあって、直径1mくらいある。丸い口の中にギザギザの牙を備えた凶悪仕様。突然足元からがぶりとやられる。前兆として軽い振動があるので、注意していれば丸呑みされるなんて言う事態にはならないけど。因みに17階層。私たちが今、何をしているかと言うと、『ゴールデンアップル』という金ぴかの林檎の収穫だ。ギルドの依頼にあったのでそれを受けている。因みにDランクの依頼ではあるが、パーティーメンバーの半数がそのランクに達していれば依頼を受けられる。ベルさんとシータさんがDランクなのでこの依頼でも構わないのだ。傷の少ないものを10個以上と言う指定だったので頑張って林檎狩りに励んでいる。
「ゴールデンアップルって美味しいのでしょうか?市場価値が高すぎて食べたことがありません…」
「そのままでも毒はないらしいから、余分に取って後で食べてみよう。ボクも興味がある。」
「トンボが来たわよ。ジゼルちゃん、撃ち落として!」
「わかりました。」
レッドドラゴンフライというそのまんまな名前の魔物が飛んできた。案の定デカい。ファイヤーアローで羽を焼くと墜落してきた。
シータさんが剣でザクザク切り刻んでいる。ドロップに変わった。トンボは何故か知らんが魔石の他に翡翠や瑪瑙をドロップする。
「綺麗ねえ。加工してアナタたちも着飾ってみたらいいのに。」
「ボクは興味ない。」
「お金が必要なので。」
自分が着飾るくらいならスキルの足しにしたいのです。ベルさんはとても残念そうな顔をした。
軽い振動。
「来たわよ!木に登って!」
私たちが木に登ると足元から飛び出すようにワームが上がってきた。私は【エンチャント・火】をシータさんと私にかけた。八つ裂きタイムである。大きさと長さに多少苦戦する。切っても切ってもうにょうにょ動く生命力の強い魔物なので、念入りに殺す。振動…二匹目!?
「シータ!右に避けなさい!」
ベルさんの指示が飛んでシータさんは間一髪避けた。しかし足を捻ったようで、よろめいている。木から飛び降りたベルさんがメイスを振るう。私はベルさんにも【エンチャント・火】をかけた。メイスを使い、危険な口元を粉砕している。私は剣を振るい体を切断する。とにかく大きいので苦労する。ベルさんはシータさんに【ヒール】をかけて回復させたようだ。3人でワーム2体を倒した。ドロップは魔石と銀。割に合わない…
それから木の上でまったりと林檎を齧る。ゴールデンアップルは実全体に甘く濃厚で、しかししつこくない蜜がたっぷり含まれている。
「すっごく甘いです!」
「それなのに味がボケてないな。」
「濃厚で甘くありながら林檎本来の爽やかな酸味と瑞々しさは失っていない…贅沢な林檎ね。市場価値はちょっと高すぎるような気がするけど。」
とても美味しかったが、割と大ぶりなので、2個も食べればお腹がいっぱいになってしまうのが切なかった。
林檎の余韻に浸っているとベルさんが「あら。」と声を上げた。
「どうしました?」
「今一瞬変わった魔力の気配を感じたわ。」
ベルさんは治癒術師としてずっと魔力を扱ってきたし、本人が割と気の細かいタイプなので、些細な変化に敏感だ。
「行こう!兄殿!ボクの勘が行くべきだと告げている!」
「じゃあ、行ってみる?ジゼルちゃんは大丈夫?」
「はい、大丈夫です。私もちょっと興味があります。」
「ふふ。面白いことだといいわね?」
私たちはベルさんが変わった魔力を感じたと言う辺りに来てみた。滝だ。下に湖が出来ていて、そこから何本もの川に発展しているようだ。
魔物も特にいない。至って平和な感じだ。
「ホントにここなのか?」
「さあ?感覚的なものだから、余り自信はないわ。」
「とりあえず探索!」
ベルさんが湖の中を覗き込んだ。
「湖にいるのはギリンフィッシュね。小さいけれど肉食で、牙を持ってるから気をつけてちょうだい。湖に落ちて集団でこられたら、あっという間に肉を食われて骨にされるわ。」
怖いです。生きながら全身を鋭い歯で啄まれるとか。ガクブル。
湖の周りを3人で探索。20分くらい探索した辺りでシータさんが声を上げた。
「兄殿!ジゼル!宝箱があった。」
滝の裏側にポツンと宝箱があったらしい。箱の大きさはベルさんが両手でやっと抱え込めるぐらい。木製の質素な宝箱だ。
「どうしましょうねえ…」
「私たちが開けるのは難しいんですよね?」
「ええ。罠解除のスキルを持ってないと難しいわ。持って帰って、罠解除スキルを持つ技師にお金を払ってやってもらうのが一番かしらね。」
ベルさんが両手で宝箱を抱えた。
「かなり重いわね。何が入っているのかしら?」
私たちは転移石を持った。ベルさんは歯の間に挟んだ転移石を歯で割った。私たちもそれぞれ転移石を割った。