第31話
水着は干しているので、今日は街に出てきた。マリーアネット饅頭やら、魚の干物やらが売っている。お父さんとお母さんへのお土産に干物を数点購入してベルさんの収納リングに収納してもらった。収納リングって便利だなあ。味見させてもらったが、するめというのは噛めば噛むほど味がして、中々癖になる味わいだった。勿論ご購入。
みんなそれぞれ見て楽しんでいるようだ。
昼食は海鮮丼。
メニューを見たが色々あり過ぎて選べない。熟考の上、ウニいくら丼というのを頼んだ。ベルさんは貝尽くし丼、シータさんは海の幸が色々載っているという大漁丼、イシュさんは鮪ステーキ丼。
どれも美味しそうだ。私はウニいくら丼を口にした。勿論どちらも食べたことがない食べ物だ。ウニは濃厚でクリーミーでありながらほんのりと海の香りがする。舌に絡まるような味わいが堪らない。いくらはプチプチと弾けて甘じょっぱい液体が染み出る新食感。両方とも丼ぶりにこれでもかというくらい山盛りで載せられている。素敵なお値段なだけある。みんなの丼ぶりのどれも中々美味しそうだった。
午後は個別に自由探索だった。正直有り難い。ベルさんの誕生日プレゼントを購入しようと思ってたから。
何がいいだろう。色んなお店を見て回った。ブローチは前に一緒にお出かけした時ひとつ贈ったし……でも此処ベルさんにとっては『地元』なんだよなあ…つまりこの街の特産品の類はベルさんにとって大して新鮮味がないもの。色々見て回ったが……うん。普通のお店で、ベルさんの誕生日プレゼントを仕入れようと思ってた私が馬鹿だった。素直にスキルに頼ろう。公園のベンチに腰掛けてタブレットを取り出し、【アイテム購入】で購入できるアイテムのリストを見た。うーん…何がいいだろう。ベルさんが欲しがるようなものが良いけど…何が欲しいかな?お予算的な問題もあるし。そりゃあベルさんが喜んでくれるなら財布を空にすることだって厭わないけど、普通に考えて恋人未満のパーティーメンバーから数千万ギルする誕生日プレゼント贈られるのなんて重いよね。節度あるご予算で行きましょう。まあ月収1千万くらいだし、ご予算50万くらい?…………私にとっては日給だけど、平商人にとって2ヶ月分の月給くらい?ううむ…人間には生きるステージがあるのよね。
ご予算50万もあれば宝飾品も色々買えるんだけど、マジックアイテムみたいなのを買うにはちょっと足りない。少し待ってもらって私の誕生日に買うとして、その日なら半額になるから通常価格100万ギルのものを選べるね。何に使うのかよくわからないマジックアイテムなら買えるけど…装備者の右腕がなんとなく疼くようになる眼帯とか。なんかのネタのアイテムなのかもしれないけれど、私にはよくわからないし、きっとベルさんも欲しくないと思う。
うーん…
気になってるのはすごくある。贈ったら楽しんでもらえるとは思う。ただし元がきちんと取れるかどうかはよくわからないアイテムが。
『5連アイテムガチャ/100万ギル』……どうやらタブレットをタップするとランダムでアイテムを得られるものらしい。100万ギルで5回回せる。中には通常【アイテム購入】で購入できない品が混入される場合もあるらしい。何が出てくるか全くわからないから元を取れない可能性もあるけど、ドキドキワクワクは楽しめると思う。
うん。やっぱりこれにしよう。夢を買うんだ。
あとは街中をうろうろ探索して楽しんだ。観光地なだけあってカップル、夫婦、親子等々、旅行に来た人々が財布の紐を緩めている。真珠や珊瑚などが取れるらしい(これはダンジョン産ではない)。こんなに近くで見るのは初めてだけどうっとりするほどきれい。美しさに相応しいお値段するけど。お店の人の話では真珠なんて広い海からわざわざ貝を探して、中にある真珠を取るんだそうだ。中にどれくらいの真珠が蓄えられているかなんてわからないし、粒を揃えたネックレスなんて目ん玉が飛び出るお値段がするらしい。綺麗だけどねえ。珊瑚も元がどういう形をしているかは知らないが、美しい形に削られている。素敵だなあ。
服はリゾート風のワンピースなんかが売られていて、結構可愛かったので何着か購入してみた。
ついでにマリーアネットシティの冒険者ギルドで両親への手紙の配送を依頼した。観光をたっぷり楽しんでいて、すごく楽しい旨伝えておいた。お魚がとても美味しいことも。人生を満喫している。いつまでマリーアネットシティに留まるかは未定だし、手紙は一方通行になると思うが、折を見ては手紙を書くと綴っておいた。
タコ焼きというお好み焼きの親戚みたいな食べ物もおやつに食べた。外はカリカリ中はドロドロの熱々のボール。中にタコという海の生き物(ダンジョン産だけど)が入っている。船盛でも食べたけど、私は結構タコは好きだ。あんまり味はしないけど食感が面白い。
夕方宿に戻ってきた。
「ジゼル。街は楽しめたか?」
「はい。此処は明るい街ですね。」
「観光地だからな。楽しそうな人がいっぱいいたろ?」
「はい。皆さんも楽しまれましたか?」
「勿論。」
「ばっちりっすよ。」
「アタシも。」
そうこうしている間に、ベルさんの友人がベルさんを迎えに来た。ベルさんは「ちょっと旧交を温めてくるわ。」と言って出て行った。と、思ったらシータさんの友人が「近くの飲み屋で飲もうぜ。」と誘いに来た。シータさんが「早めに戻る。」と言って出て行った。
私とイシュさんが残された。とりあえず温泉に入ってきた。なんだかとてもお肌の調子がいい。テルマさんが美肌な理由もわかる気がするなあ。ピッカピカに磨いてから部屋に戻るとイシュさんがぽつねんとしていた。
「お帰りっす、ジゼルさん。なんかシータさんとベルの兄貴がいないと寂しいっすね。」
「そうですね。イシュさんと二人というのも中々ないですし、ちょっと楽しくもあるんですけどね。」
「そう言っていただけると有り難いっす。」
宿のお食事は今日もお刺身だった。シータさん曰く注文すれば別の料理も食べられるが、指定が無ければ基本お刺身らしい。
イシュさんは冷酒を飲むようなので、お酌してあげた。
「お刺身最高っすねえ。」
「そうですね。この味は堪りません。私はまだ青のダンジョン潜ったことないんですけれど、どんな感じなんでしょう?」
「ベルの兄貴に聞いたら『銛を構えた魚人が襲ってくるの。中々シュールよ。』って言ってたっす。そんなに強くないらしいっすけど、代わりにドロップはお魚と、こーんなちっちゃな魔石だけらしいっす。」
イシュさんが親指と人差し指で小さな輪を作った。ちっちぇえ…その大きさの魔石で動かせる魔道具はないと思う。薬品素材かな?
「でも魚人の身長は人間と同じくらいあるし、武器を持って襲ってくるので、素人は入らない方がいいみたいっす。調子に乗った若者が飛び込んでいってダンジョンの肥やしになることは結構多いって聞いたっす。」
「へえ。」
お刺身は脂が乗っててすごく美味しい。脂の甘みが口の中でぶわあっと暴走している。
「ベルさんとはいつもそういう話をなさっているんですか?」
「色々喋るっす。ベルの兄貴は若いのになかなか人生経験が豊富っていうか、色んな経験してるんで。」
「例えば?」
「自分は盗賊の方と組んだことないっすから知らなかったっすけど、ダンジョンの宝箱ってそれ自体がマジックアイテムらしいっす。一度罠を解除してしまうとただの箱になる、スクロールみたいな使い捨てのマジックアイテムっす。【罠解除】はかなりの特殊技能みたいで、スキルを持っているだけでは十全に使いこなせないらしいっす。熟練の技が必要になってくるっす。自分の持ってる【シールドバッシュ】は使い方はどうあれ発動に失敗することはないっすけど、【罠解除】は使用者が未熟だと失敗する可能性があるらしいっす。一度罠の解除に失敗した宝箱はもう一度罠の解除にチャレンジするのは無理みたいっす。罠を承知で開けるか、すっぱり諦めるかの2択っす。因みに罠の解除に失敗した宝箱は『無機物』と認識されてダンジョンに飲まれるらしいっす。ベルの兄貴はパーティーメンバーの盗賊が罠解除に失敗してお宝を諦めたことも何回かあるって言ってたっす。罠解除をしてくれる技師のいるお店でもお店の隅に『当店では罠解除に失敗した際、解除料を返金いたしますが、それ以上の補償を行いません。』って書いてあるのが普通らしいっす。エイミィさんは本人も自信があるみたいというか、腕がいいっぽいっすね。」
「へえ。」
「色んな話が聞けて結構面白いっす。」
二人でたっぷりお刺身を堪能した。でもいつものペースでもりもり食べるシータさんがいないので食のペースはゆっくり。
「ジゼルさんも少し飲むっすか?」
「うーん。私、お酒はホント弱くて…」
「グラス一杯だけ。お刺身おつまみにするとおいしいっすよ。」
「…では少しだけいただきます。」
たまにはお酒もいいだろう。少しだけだし。イシュさんが言うようにお刺身をおつまみにしたお酒は最高に美味しかった。
だが少しすると酩酊感と、なんだか愉快な気持ちに襲われた。
「イシュさーん、イシュさんはシータさんのことどう思ってるのぉ?」
「どう…?良い仲間と思ってるっす。すごく性格が良くて明るくて、ムードメーカーっすね。自分をパーティーに招いてくれた恩人でもあるっす。」
「ぶーぶー。ちがーう。女の子として!」
「ジゼルさん酔うの早いっすね。」
「どうなのさ。」
「女の子としては…ちょっと苦手っす。」
シータさん失恋確定ー?まじかあ…他人事ながらすごいがっかり。
「なんかシータさんは気を持たせがちというか…昨日の朝みたいな悪戯するし、可愛く潤んだ瞳で見つめてきたり、海では自分の腕に絡まってきたり…ボーイッシュなのに妙に女の子らしいというか、誤解させる行動取るっす。まるで自分のこと好きなんじゃないか……って豚の分際で自意識過剰っすよね。」
なんだよー。全然アタック効いてるじゃんー。
「でー?イシュさんの本心は~?」
「シータさん超可愛いっす。スキンシップとられるとドキドキして死んじゃいそうっす。でもそんなこと本人に言って『気持ち悪い』とか言われたらものすごいショック受けるから秘密っすよ、ジゼルさん。」
「いーじゃん、アタックしちゃえよ~。脈あるって~。」
晴れて両想いになってしまえ。
「ないっすよ。ちっちゃい頃故郷で自分にも優しくしてくれる女の子がいたっすよ。それで『パンナちゃんのこと好きっす。』って言ったらすごく怯えた顔されて、泣かれたっす。ちょっと優しくされたからって調子に乗っちゃいけないっていう教訓っす。」
パンナちゃん死すべし。
まーアタックが効いてることをシータさんに伝えて、告白させてしまおう。うふふ。
「そういうジゼルさんはベルの兄貴のことどう思ってるっす?」
「ベルさん好きだー。超好きだー。身の程知らずで御免なさいだよ~。」
「相思相愛なんっすね。」
「う?」
「ベルの兄貴は前の彼女さんと結婚の約束までしてたらしいんっすよ。でも結局振られてしまって、恋愛事にはちょっとナイーブになってるらしいっす。」
「そっか~。愛してたんだね~。羨ましい~妬ましい~。」
「ジゼルさんは心変わりしないで欲しいっす。」
「うん…」
ベルさんと万が一結ばれるようなことがあればねー…そんな夢は見ないけどぉ…あー…眠くなってきたー…




