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第30話

衣類店でシータさんと水着を選び、海辺の更衣室で着替えた。ベルさんとイシュ君も着替えているようだ。


「水着って初めて着ますけど、本当にこんな格好で人前に出ていいんですか?」


ビキニ?随分布地が少ないように思うんだが。ほぼ下着と同じ面積しか覆ってない。私はピンク色の、胸元に沢山フリルのついたビキニである。フリルで微乳が誤魔化せないものかと思ったが…ちょっと無理があったかも。シータさんは黒のシンプルな水着だった。スタイルが抜群なので、とてもセクシーに見える。いいなあ…


「勿論大丈夫だ。ジゼルは華奢だから良く似合っているし。兄殿もメロメロだな。」

「そんなことはないと思いますけど…シータさんこそ…そのボリュームが羨ましい…」

「ははは。ちっちゃいのも可愛いから大丈夫だ。」


うう…本当にささやかなんだよ。

更衣室を出て、待ち合わせ場所に行くと…ベルさんとイシュさんがいた。

ベルさんはカーキのインナーパンツにハーフパンツ型の黒い水着を着ているが、上半身はグレーのカーディガンのようなものを羽織っている。露出少なめなのね…それでも胸板と割れた腹筋はお目見えしてるけど。服の上からでも均整の取れた体つきというのは見て取れたが、実際は若干筋肉質な感じだ。まあ、迷宮でメイスぶん回して戦闘参加もしてるしね。

イシュ君のは一瞬マッパ!?と誤認してしまいそうなラクダ色の水着。インナーパンツは黒だけど。


「ジゼルちゃん。とっても可愛いわ。」

「有難うございます。ベルさんも素敵ですよ。」

「イシュの水着、それしかなかったのか?」

「これしかなかったっす。太ってる上に尻尾を通す穴がないと履けないんで、選択する余地がなかったっす。シータさんは綺麗っすよ。スタイル良いっすね。流石っす。」

「有難う。」


シータさんがテレテレしている。

イシュさんはブヨンブヨンだけど、惚れ切ってるシータさんは気にならないみたいだ。

海の風景は素晴らしかった。澄んだ青い海。白い砂浜。美しい。ただ海水浴客も結構いて、レジャー感はあるけど、絶景とまでは呼べない。まあ楽しそうではある。


「じゃあ、アタシはジゼルちゃんに泳ぎを教えてくるから、シータとイシュ君は遊んでらっしゃい。あんまり危ないとこ行っちゃダメよ?」

「わかった!行こうイシュ。あっちに穴場があるんだ。」

「はいっす。」

「ジゼルちゃんはこっち。人少なめの浅瀬で泳ぐ練習しましょう?」


ベルさんに手を引かれた。

不安だったがちゃんと海に浮いた。顔を海につけるところから始めて、バタ足、クロールを習った。ベルさん教えるのが上手すぎる。


「筋が良いわ。動きはかなりいいから、後は息継ぎがもう少し上達すれば、胸を張って『泳げる』って言えるわよ。でももうかなり長時間海に浸かったから、体が冷えているでしょう?少し上がりましょう。昼食も取らなくちゃいけないし。」

「わかりました。」


ベルさんは飛び切りの美男子で、目を引いているので、すれ違う女の子たちが羨ましそうに見ている。私が隣にいるのであからさまに声かけてくるようなことはないが。良いでしょう?私のものじゃないんですよ?所有権など主張できるはずもない。

海辺のくせして、海産物はほぼ100%ダンジョン産なので、食事は海の幸ではなかった。むしろ肉だった。ピタサンド?辛めのソースが美味しいけど。


「おお!ベルじゃねーか。」


声がかかった。30代くらいの短命種の男性だ。褐色の肌に胸毛を生やしている。男くさい感じの男性だ。


「あらあ。ソール?久しぶりじゃない。」

「おお。3年ぶりくらいじゃねーか?」

「そうね。シータを引き取りに来て以来だから、それくらいかしら?随分老けたわねえ。」

「うっせえ。短命種では普通だ。彼女か?前の女と違うな。」


ベルさんが苦笑した。


「まだ彼女じゃないわよ。前の子とはあの後すぐに別れちゃったから。」

「まあ、そういうこともあるわな。タンジも嫁さんに捨てられたぞ。あいつの場合自業自得だが。どうだ?しばらく滞在するならみんなに声かけるから、明日あたり飲みに行かねえか?」

「夜ならいいわよ。みんなの近況も聞きたいし。」

「おし。じゃあ明日夕方くらいに黒曜屋に迎えに行くぜ。」

「ええ。待ってるわ。」


男性は去って行った。


「お友達ですか?」

「ええ。ソールっていうの。幼馴染ね。職業は漁師で、今は子煩悩なパパやってるみたい。」

「へえ。」


漁師ってことは青のダンジョンの探索者ってことか。


「明日は夜は空けるわ。もしかしたら帰ってこないかもしれないけど。」

「里帰りの醍醐味ですね。」

「ふふ。そうね。ジゼルちゃんも里帰りしたい?」

「うーん…したいような、したくないような…」


友人は勿論いたけど、あの気の滅入るような極貧の農村に郷愁を感じるかといえば…あんまり。普通に良いところじゃなかったからね。でもまあ、会いたい人がいないと言えば嘘になるかな。

ベルさんに頭を撫でられた。


「そのうちお土産いーっぱい持って、ジゼルちゃんのお家に行ってみましょうね。」

「うちの村には宿がなかったので、みんなでテントで眠ることになりますが…」

「構わないわよ。野営もそれなりに楽しいし。」


まあ、私も友人に素敵な仲間を自慢したい気持ちはある。ランディの行方は聞かれると思うけど。奴もそれなりに美形で、「ちょっといいな」って思ってた女の子もいたから、気にされるだろうなあ。ランディも里帰りとかするのかな?あの後楽しそうにしている様子は見かけないけど。シンシアちゃんなんて姿すら見てないし。ランディに売られたという可能性もあるけど、冒険者だったし、シンシアちゃんの戦闘力だとダンジョンの肥やしになってしまったという可能性も…あんまり考えないようにしよう。

午後も泳ぐ練習をした。もう息継ぎも殆ど問題ないと思う。平泳ぎも教えてくれたが、なんだかカエルみたいで変な泳ぎ方だと思った。


「ジゼルちゃん、随分泳げるようになったわねえ。」

「有難うございます。1日面倒見てもらっちゃってすいません。」

「いいのよ。ジゼルちゃんと一緒にいられるのは嬉しいし。」


優しいなあ。くすぐったいような気持がする。

夕刻待ち合わせ場所で待っているとぷりぷり怒っているイシュさんとご機嫌なシータさんがやってきた。


「海は楽しめた?」

「遠泳で競泳してちょっと離れた島に行ったりして、楽しかったっす。最後以外は。」


イシュさんはぷんすかしてる。


「何かあったの?」


ベルさんが気遣わしげに尋ねた。


「ボクの幼馴染たちと鉢合わせたんだ。」

「ああ…」


ベルさんはそれだけで全てを悟ったようだ。私はよくわからなかったが。


「シータさんの事見て『まあまあ、見れるようになったじゃないか。海猿。どうせ嫁の貰い手なんてないだろうから俺が貰ってやってもいいぞ。』って言ったっす。シータさんみたいな美少女欲しがる男性なんてごまんといるっす。性格もいいし。少しボーイッシュなところも可愛いし。貰えるというなら拝み倒してお嫁に貰うのが筋っす。なのに…!」


本当に腹が立ったのだろう。イシュ君がギリギリしている。


「まあまあ。イシュ君、18歳なんて、まだまだ素直になれないお年頃よ。幼馴染でシータの海猿的な悪ガキぶりを知ってる上で、3年ぶりくらいに再会してみたら思いの外女性らしく、綺麗に育っちゃってて、ドキドキするけど、昔を知ってるだけに素直になれない……っていう微妙な男心よ。」

「ベルの兄貴がそう言うのならそうかもしれないっすけど…若さゆえのデリカシーのなさかもしれないっすけど…やっぱり腹立つっす。シータさんはこんなに可愛いのに上から目線で余り者扱いして。」


イシュ君がシータさんのために怒れば怒るほどシータさんの機嫌は鰻登りである。「可愛い、可愛い」と連呼されてるしな。


「実のところボクはそんなに気にしてない。あいつらがどう言おうと特に気にならない。その…イシュが『可愛い』と思ってくれてたらそれでいい。」


シータさんが恥ずかしそうに微笑んだ。


「そ、そっすか…」


イシュさんは照れているようだ。甘酸っぱいです。

【クリーン】をかけて塩っ気を落とし、更衣室で着替えた。


「【クリーン】じゃ、水着の湿り気は取れないんだなあ。」

「そうですねえ。【ドライ】という、物を乾かす魔術はあるらしいですけど。」


お洋服に着替えて、水着はバッグに仕舞った。

待ち合わせ場所ではベルさんとイシュさんが待っていた。その日も魚介類をたらふく食べて、温泉を満喫した。生の岩ガキをつるりと食べて、その凝縮された旨味に身悶えしたり、アワビのお刺身を肝醤油で楽しんだ。美味しすぎる―!!



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