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第26話

「あら、何此処?」


いつもは素通りしている、23階層でベルさんが足を止めた。


「どうしたんですか?ベルさん?」

「この下の地層、沢山ルビーやサファイアがあるみたいよ。鑑定眼鏡にはそう表示されてるわ。ちょっと掘ってみる?」

「どうやってだ?」

「そういう鉱石の類は熱を加えると色が変わってしまうから、火と雷は禁止ね。アクアカッターでいいんじゃないかしら?ジゼルちゃん、指定する通りに切り出してみてくれる?」

「はい。」


言われた通りに切ってベルさんとイシュさんが引き上げてくれた。


「なんか思ったよりデカいな。」


大人の拳ほどはあるルビーなんだけど。


「宝石として使用できるのはこれのごく一部じゃないかしら?売れるかわからないけど、いくつか切って持っていきましょう。」


まだ手付かずの大地なので鑑定しながらやったらごろごろ取れた。

途中何度かポイズンビーの襲撃を受けたが、シータさんが片っ端からドロップに変えていった。

ベルさんは難しい顔だ。


「何か心配事でも?」

「どうも鑑定結果からすると中々良い石なのよ。これが知られれば多分しばらくこの辺は採掘ラッシュね。混みあうのは少し面倒くさいと思って。ジゼルちゃんの能力もあるし。魔術とバフとエンチャントを使える術者なんて引き抜けるものなら引き抜きたいはずでしょう?知られればジゼルちゃんを欲するパーティーも出るかもしれないわ。芋づる式にジゼルちゃんの能力が露見しちゃったりしたら、目も当てられないし。」

「それなら、みんな!しばらく海に行かないか?」


シータさんが切り出した。


「海…?」

「もう7月も末だぞ8月は海に行きたい。そして泳ぎたい。海産物も食べたい。2ヶ月もストレスフルダンジョン攻略したんだから、ご褒美があってしかるべきだ。」

「そうねえ。アタシとシータの実家に行ってみる?弟の顔も見たいし。温泉にも入れるわよ。れっきとした温泉宿だから泊まりの際には宿代は徴収されるけどね。本当は温泉なら冬場が良いんだけど。冷えた身体に温泉で雪見酒なんて堪らないんだけど。」


マリーアネットシティは温泉街にして海辺の街らしい。


「夏と冬、どっちも行けばいいのだ。青のダンジョンも近いし、趣向を変えて青のダンジョンに潜るのもいいだろう。」

「自分『温泉』って入ったことないっす。海も。」

「入ってみるべきだ。」

「私、泳ぎ方知らないです。」

「兄殿が教えてくれるから大丈夫だ。」

「まあ、良いけどね。イシュ君は泳げるの?」

「波のない湖でなら泳いだことあるっす。」


泳げなかったらどうしよう。私の不安をよそに海に行く方向で話がまとまっている。とりあえず、海に行く前に今日は緑のダンジョンを満喫する…ということで23階層からじっくり潜った。


「はっ!」


【エンチャント・火】のかかったスローイングナイフが飛んでいき、サイレントスネークという私が未だに気配を掴みかねている蛇に刺さった。一撃じゃ仕留められなかったようなのでファイヤーアローを放っておいた。こんがり焼かれてドロップに変わる。


「ベルの兄貴~。自分やっぱりサイレントスネークの気配掴むの苦手なんすけど。」

「私もです。」

「サイレントスネークは隠密行動の得意な蛇だからね。これは本当に慣れよ。そのうちなんとなく掴めるようになるわ。イシュ君は前衛やってるとき、後ろの気配察知するのが少しお留守気味だから、気をつけなさい。今はアタシがいるからいいけど、いつはぐれるかなんてわかんないんだし。」

「すいませんっす。」

「ジゼルちゃんはもうちょっと広範囲見られると良いんだけどね。」

「はい…」


頑張らなきゃなー。


「逆にアタシは慣れから少し油断してるとこあるかもしれないから、ダメなところあったら遠慮なく指摘してちょうだいね?」

「なんかあれば言うっす。でも今のところそつがないというか隙が見当たらないっす。」

「うふふ。有難う。ほら、フォレストスコーピオンが来たわよ。」


カサコソと音を立てながらフォレストスコーピオンが数匹出てきた。イシュさんが多重盾を展開しつつ、シータさんと前衛。私は時々魔術撃つ。


「ほら、ジゼルちゃん。」


ベルさんが私の足元にスローイングナイフを放った。シータさんたちが戦っている数mあるタイプのフォレストスコーピオンでなく、小さな通常のサソリ大のサソリが足元に忍び寄っていた。


「それはポイズンスコーピオンよ。小さいから探知しにくいの。気付かなかったでしょう?気が付いたら毒にやられてる…なんてこともあるから気をつけてね。」

「はい。」

「ふふ。因みにアタシも昔、気付かず毒食らったことあるわ。結構な猛毒なのよ。【アンチポイズン】が間に合わなければ危うかったわ。」

「ベルさんにもそんな時代があったんですね。」

「アタシだって、最初から、何もかも完璧にできるわけじゃないのよ?色々失敗して、学んで、生きてきたの。」


ベテランレベルだものなあ…経験値が違うよね。短命種で言えば34の冒険者とか脂が乗り切ってる頃だろうしね。ポイズンスコーピオンのドロップは魔石と解毒薬だった。毒サソリから解毒薬が取れるとはこれいかに?

大きい方のフォレストスコーピオンも流れてきたので、私は剣と魔術で、ベルさんはメイスで応戦した。


「兄殿、前から気になってたのだが、この実は食用なのか?」


シータさんが26階層の森に生えていた赤いプチプチの小さな実を指さした。


「食用みたいよ。毒はないわ。美味しいかどうかはわからないけど。」


洗って食べてみる。


「すっぱいっ。」


シータさんがぺってしちゃってる。こっちは?こっちは?と毒のないのを手当たり次第に食べ比べしてみた。


「シータさん、これは美味しいっす。」

「どれどれ?」


緑色の皮を剥くと中の色は紫という如何にも毒のありそうな実だが、鑑定眼鏡曰く食用であるらしい。『トルブチェ』という名の果実らしいが、聞いたことも見たこともない。鑑定眼鏡曰く整腸作用のある、体に良さそうな果実らしい。食べてみるとちょっと食感は堅めだが、林檎のようにシャクシャクしているのにジューシーで甘くておいしい。


「これはいい。兄殿。収穫するから少し収納してくれ。」

「はいはい。」


ベルさんは果実を食べるより、フォレストビートルをメイスでドロップに変えるのに忙しそうだが。イシュさんもシールドバッシュで叩いている。

ダンジョンで『稼ぐ』より『満喫』する方に夢中だったので今日の探索は26階層までとなった。



***

ベルさんはダンジョンを出て、眼鏡をはずし、目頭を揉んでいる。


「目が疲れますか?」

「そうねえ。色んな情報出てくるからやっぱり見てると疲れるわね。鑑定眼鏡の鑑定はアクティブスタイルの機能だからかけたまんまオフにすることもできるけど…やっぱりまだ入手したばかりだし、興味深くて色々見ちゃうのよね。因みにこの『ウリリィ』っていうサクランボみたいな実は味は美味しくもまずくもないけど、眼精疲労に効果があるらしいのよ。ちょっと取ってきちゃった。」


なるほど。ベルさんが熱心に摘んでると思ったら味じゃなくて効能重視だったか。


「あんまり無理はなさらないでくださいね。」

「ええ。でも新しい玩具を手に入れて、アタシも年甲斐なくはしゃいでいるところなの。」


ベルさんが笑った。楽しんでいるようでなによりだ。

ギルドでルビーやらサファイアやらを売却すると案の定注目された。


「ベルファーレさん…こんな色も純度も高品質の宝石どこで…ダンジョンですか?」


リエッタさんが眼鏡をかけて、宝石を鑑定している。


「ええ。まあ。ただでお宝の在りかを吐くのは癪だから、どこにあったかは自分たちで探索してほしいところだけど、まだ結構あるみたいだったわ。」

「これはビッグウェーブですね。この大きさ、純度なら上手に加工したらすごい値段が付きます。来ましたよ。緑のダンジョンの時代が来ましたよ。」

「ええ。これから緑のダンジョンはちょっと混み合うでしょうね。というわけで暫くサテライトシティを離れるわ。押しあいへし合いのダンジョン探索なんて疲れちゃうから。」

「ええー!?折角ビッグウェーブの先陣を切ったのに!?」

「アタシたちは自分たちのペースを大切にするパーティーなのよ。」


私は実家にしばらくサテライトシティを離れる旨の手紙を書いた。目的地はマリーアネットシティだが、何ヶ月滞在するかは未定だし、真っ直ぐサテライトシティまで帰ってくるかも未定。もしかしたら別の土地に腰を落ち着ける可能性もある。手紙はそのうち書くが、どこに所在するかは未定なので、こっちに手紙が届く期待はしないで欲しいと綴っておいた。ついでにクリアスキンスクロールを送っておいた。イシュさんも似たような手紙を書いて、クリアスキンスクロールを送る手配をしている。ベルさんとシータさんはスクロールは手渡しする予定っぽい。



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