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第24話

ダンジョンを出た翌日、私は泥のように眠った。どうやらシータさん、イシュさんもずっと寝ていたらしい。ベルさんだけ睡眠をとる他に散髪に行くなんていうことをしていたようだ。身嗜み…こんな時まで身嗜みを気にするベルさんになんだかとっても負けた気がする。ベルさんは精神的にも肉体的にもやたらタフだし。

疲れを癒す1日を挟んで2日目。朝から私たちは食堂へ集まった。


「今日はギルドに報告に行かなくちゃね。」

「結局、自分らは助かりましたけど、他の未帰還パーティーってどうなったんっすかね?」

「それ、私も気になりました。私達がダンジョンコアを討伐したってことは、私達より前にダンジョンコアと戦って勝利した方はいなかったってことですよね?」

「アタシたちが吐き出された位置に出てこなかったってことは死んでるんじゃないかしら?ダンジョンコアがものすごく強かった…って気はしないけれど、滞在するだけで命に関わる気温に転移石無しの18階構造だもの。ジゼルちゃんみたいな反則が出来なければ普通死ぬわよ?」


うん。今回ばかりは流石に金喰虫のジョブを授かってて良かったって思ったよ。


「せめて遺品とか持ち帰れれば良かったんっすけどねえ。」

「仕方ないわ。ダンジョンは死体や無機物は基本的に吸収してしまうから。」


普通のダンジョン内で死亡した時と同じ扱いになるんだね。因みに生きた人間が入っている服やテントは吸収されない不思議構造だ。テントも中に人が居なくて一定時間放置すると吸収されてしまうが。中に人がいると吸収されない。


「でも生存者が私達だけということで、『ダンジョナーが出た』と言って信じてもらえるでしょうか?」

「別に信じてもらう必要はないのよ。アタシたちが生還して5つの宝箱を得たっていう結果が全てなのだから。ギルドが嘘つき呼ばわりしてきたってアタシたちが困ることなんて1つもないわ。何か犯罪を犯したわけでなし。」


そういうもんなのかな?みんなで朝食を頂いた後、冒険者ギルドへ行った。スイングドアの向こう側の冒険者ギルドカウンターも、その隣にあるむわっとした人気の溢れる酒場も、どこか懐かしい。2ヶ月ぶりだもんなあ…


「リエッタちゃん~。お久し振りぃ。」


ベルさんが至って気楽にリエッタさんに声をかけた。リエッタさんは幽霊でも見たような顔をしている。


「ベ、ベルファーレさん!?『銀の匙』の皆さんも!!生きていらっしゃったのですか!?いつも通りダンジョンへ向かったはずなのに2ヶ月間も音沙汰ないので、皆さんてっきり…」

「死んだと思ってた?」

「リエッタはボクらが死んでた方が嬉しかったのか?」


シータさんがリエッタさんをからかった。


「そ、そういうつもりじゃ……それより、今まで何をされてたんです?」


リエッタさんが方向修正して問い詰めてきた。


「ちょっと『ダンジョナー』に飲み込まれてたのよ。緑のダンジョンの26階層で遭遇してね。あっという間に飲み込まれたわ。それでコアを壊して帰還できたのが一昨日。あんまりにも疲れてて、昨日は1日休ませてもらったの。25階層付近での未帰還パーティーって多分ダンジョナーのせいじゃないかしら?」

「だ、ダンジョナー!?そんなのが出たんですか!?まさか、いえ、でも…」

「まあ証拠はないし、信じても信じなくてもどっちでもいいんだけど。とりあえず今日はその報告をしに来ただけ。」


ベルさんは軽く肩を竦めた。


「因みに何階層くらいの…?」

「18よ。」

「ど、どうやって攻略されたんですか!?」

「勿論地道にマッピングしてよ。紙とペンでね。原始的でしょ。」


食料問題には触れていないが、ベルさんは収納バッグを持っていることがリエッタさんには知られているので、その中に入れていたと言い張れば問題ないはずだ。


「紙とペンを常に持ち歩いていらっしゃるんですか?」

「リエッタちゃんは知らないと思うけど、アタシ、昔、別のダンジョナーに飲み込まれたことがあるのよ。それ以来持ち歩いてるの。」


ベルさんは呼吸でもするかのように淀みなく嘘を吐いた。これも私を守る為ってわかってるけどね。【アイテム購入】の能力が他人にバレたら、私は間違いなく権力者に拘束される。そしていいように利用されて生きる以外の生き方は出来ないだろう。ベルさんは私を庇う為に嘘をついてくれているのだ。


「今日も潜られるのですか?」

「いいえ。まずはダンジョナー内部で得たドロップ品を売り払って、罠解除をお願いしに行くの。」

「なるほど。ダンジョナーを討伐されたのなら…」

「ええ。ちょっと期待しているのだけれど。」


まずはドロップ品を買い取ってもらった。赤のタンジョンでは珍しくない素材だが、この辺ではちょっと珍しい素材なので喜ばれた。特に緑のダンジョンの魔物は火属性に弱いので有効活用されるだろうとのこと。


「そう言えば皆さんに手紙が届いてますよ。」


リエッタさんが告げてきた。私には3通手紙が来ていた。1通目は普通に前回の手紙の返事。「ランディがそんなやつだったとは…」と嘆き悲しむ文面。実家はランディの実家と仲違いしたようだ。申し訳ない。50万は本当に助かったとか、たまには帰ってこないのか?とか、誰それが結婚しただとか。普通の内容。2通目は返事がないようだがどうしたんだ?手紙が届いていないのか?というちょっと不安げな手紙。3通目は半狂乱だった。仕送りなどしなくていい、生きているだけでいいから、何か元気だとわかる証拠を示してほしい!と。神よ!ジゼルをお救い下さい!と祈るような言葉が散乱している。私は慌てて事情説明の手紙を書いて、何とかなったから心配しなくていい、私は元気で怪我一つないと手紙を綴った。それからダンジョナー内ドロップ素材の分け前から100万ギル送金しておいた。ついでに、ダンジョナー内でベルさんが如何に頼りになったか、格好良かったか綴ってしまった。私の頭は若干ピンク色。

ああ、こんな手紙送っちゃっていいのかな…


「どうしたの?ジゼルちゃん。顔が赤いわ。」


ベルさんに突っ込まれてしまった。


「な、何でもないです。」


ぶんぶん顔を振った。


「2ヶ月間手紙を1通も送らなかったから家族が半狂乱っす。」


イシュさんは困った顔だ。イシュさんのご両親、心配性だって言ってたもんね。今頃さぞや心配していることだろう。


「私の家でも両親がすごく心配しているみたいです。」

「やっぱりジゼルさんも可愛い一人娘っすからねえ。シータさんのお家はどうっす?」

「うちはのんびりだな。『返事がないようだが、冒険してれば色々あるのだろう。便りがないのは元気な証拠だと思っている』って父殿からコメントが書かれていた。」

「うふふ。今はアタシから数えて19年は冒険者やってるものねえ。アタシが15,6の頃は2ヶ月も手紙を送らなければ、やっぱり大騒ぎだったわよ?」

「兄殿で耐性がついて、慣れたんだな。」


シータさんがうんうん言っている。まあ、心配してくれるのは有り難いことなんだけどね。それぞれ手紙を送る算段をつけた。

それから全員で罠解除をお願いするために『ワナワナしちゃう♡』へ行った。


「お久し振りです♡」

「久しぶりねえ。エイミィ君。罠解除をお願いしたいんだけどいいかしら?」

「はい♡」


ベルさんはエイミィさんの作業台の上に宝箱を1つ載せた。これがとても大きいのだ。しっとりと黒く濡れたような艶やかな宝箱。


「それと同じくらいの大きさの宝箱があと4つあるわ。」

「腕が鳴りますね♡」


エイミィさんは宝箱の罠解除の難易度に応じて値段を設定しているらしい。5つの宝箱はそれぞれ解除の値段が違った。

エイミィさんが鮮やかな手つきで罠解除を行う。何をしてるかは全然わからないんだけど、全然動きに迷いがない。淀みない動作だ。シータさんは相変わらず興味なさげだが、ベルさんとイシュさんと私は作業風景を眺めている。


「解除できました♡」

「有難う。」

「仕事ですから♡中の物の鑑定も致しますか?1つにつき一律10万ギルです♡」

「そうね……鑑定はいいわ。」

「未鑑定の品を手に取るのは危険ですよ?」

「ええ。わかってるわ。」

「何か策がおありなのですね?なら私は口を挟みません♡またのご来店をお待ちしております♡」


ベルさんは箱を回収して、私達を連れて店を出た。


「ベルさん、鑑定してもらわなくていいんですか?」


ベルさんに尋ねる。


「ええ。もうこの際だから『鑑定眼鏡』買っちゃいましょう。確か500万ギルで購入できたはずだし。今回の宝箱の中身だけならエイミィさんに鑑定してもらった方がお安いかもしれないけれど、今後何か入手したりする予定があるなら、長い目で見れば鑑定眼鏡はお得だわ。それに、掛けて入ればダンジョンでの採取が効率アップよ。アタシが書籍で読んだり、教えてもらった薬草も、鉱石もたかが知れてるし。それを思えば実物を見て鑑定できる眼鏡を身につけておくのはプラスだわ。不要になれば売ってもいいしね。アタシが自腹で購入するから、アタシが掛けてもいいかしら?」

「どうぞ。」


勿論だ。冷静で適切な判断のできるベルさんが持つべきだと思う。


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