第22話
今日も23階層から潜った。
「ジゼルちゃん、イシュ君、索敵は慣れた?」
「えっと…半径50mくらいなら。」
「自分は半径100mくらいっす。」
くっ。見事に追い抜かれた…イシュさんって基本的に優秀なんだよなあ。真面目で手を抜かない性格してるし。
「二人とも結構慣れてきたみたいね。でも慣れが出始めた頃が一番気を抜きやすい時期だから気をつけてね。魔物の中には索敵に全く引っかからないものもいるから。」
「はい。」
「はいっす。因みにそういう魔物はどうやって察知したらいいんっすか?」
「ごめんなさいね。アタシはそれを教えられる立場にはないわ。極論『勘』って話になってしまうから。もっとしっかり理論的に感じ取れる人はいるのかもしれないけれど、アタシには説明できないわ。」
「そうなんっすか。」
ベルさんにも上手に説明できないことはあるんだね。『説明できない』とは言ったけど『感じ取れない』とは言わなかったから、きっと察知は出来るのだろうけれど。流石Cランク。格が違うよね。
順調に探索を続けて26階層目。フォレストスコーピオン数匹と戦闘中、急にベルさんが叫んだ。
「転移石を出して!!」
何階層の…とは言わなかったがこんな急に叫ぶくらいだから1階層へのに決まっている。
慌てて転移石を出す。イシュさんが慌てすぎて転移石を転がしてしまった。
「イシュ!」
私達はまさかイシュさんを置いて逃げるわけにもいかず、立ち止まった。イシュさんが別の転移石を出そうとポケットに手を入れる。ぶわっと全身の毛穴が開く。
景色が一転した。真っ赤に燃え盛るマグマが流れている灼熱の世界。端的に言ってすごく暑い。
「あ、兄殿…ここは?」
幸い4人とも一緒だが、流石のシータさんも戸惑っているようだった。
「……アタシの予想が間違っていなければ『ダンジョナー』の体内ね。」
「ダンジョナー?」
「体内に小型ダンジョンを持つ特殊生物よ。ダンジョンコアを壊さない限り体内から出ることはできないわ。シータ、試しに転移石を使ってごらんなさい。」
シータさんは言われて転移石を割ってみたが、転移しなかった。
「……みんな、今、いくら持ってる?」
ベルさんが尋ねた。
「白金貨3枚と金貨8枚と小金貨2枚と銀貨2枚と小銀貨7枚です。白金貨3枚はベルさんに預けてありますけど。」
「自分は白金貨3枚ベルの兄貴に預けてあるっすけど、それ以外だと金貨5枚に小金貨8枚に銀貨1枚と小銀貨4枚っす。」
「ボクも兄殿に王金貨1枚預けてあるが、それ以外だと金貨2枚と銀貨6枚と小銀貨4枚と銅貨5枚だ。」
ベルさんは収納リングを使ってみたらしい。
「セーフ。収納リングは使えるわ。収納リングが使用不可だったら確実に死んでた。」
「どういうことっす?」
「ダンジョナーがどれくらい成長してるかはわからないけど、ダンジョンコアを壊しに行くのは多分1日2日じゃ無理よ。そうなるとぶち当たる問題があるでしょう?」
「食糧問題か!」
シータさんはピンと来たらしい。私たちはそれぞれ自分のリュックに水筒と3日分くらいの食料を持っているが、基本日帰りのつもりで来ているので、そんなに多くの食料を持ってない。
「そういうこと。ジゼルちゃんの【アイテム購入】があるから、お金の続く限りはアタシたちは食べていけるわ。水もジゼルちゃんの【クリエイトウォーター】があるし、テントはアタシが持ってるから。此処でジゼルちゃんとはぐれてしまったり、ジゼルちゃんを失うのは死を意味するからそのつもりでね。アタシとはぐれたり、アタシが死んでも大丈夫なように皆にお金返しておくけど、まずはみんな募金で初期投資よ。」
「初期投資?」
「ジゼルちゃんの魔術買っておかないと多分碌に戦えないわ。此処は緑のダンジョンとは違って、多分属性的には『火』。火属性の攻撃魔術は効果がないでしょうね。雷と風は多分多少通ると思うけど。弱点属性は『水』。【クリエイトウォーター】つまり水属性を既に所持してるから【エンチャント・水】は使えるはずだけど、まず【エアクール】を300万でとってもらわないと体おかしくしちゃうわ。それと【エアクール】を常時展開してもらう関係上魔力の減りが早いはずだから【マナドレイン】5000万は必要。あとは【アクアカッター】か【ウォーターシュトローム】とかの魔術がちょっと欲しいけど、そっちにお金注ぎ込み過ぎて食費がとろけるのだけは避けたいわね。」
ベルさんが頼りになりすぎる件。
【エアクール】…私が完全にスルーしていた魔術だ。属性は水と氷と風の混合属性という珍しい属性。効果は身の回りの空気を涼しく保つ。それだけの魔術。『それだけ』が如何に重要なことか、今ならわかる。1度使うと効果持続時間は2時間である。
【マナドレイン】は魔力を持つ生命体から魔力を奪うことができる。奪える魔力は半分。魔力が数値化された例など聞いたことがないが、例えば1000の魔力を持つ魔物がいたら最初にそいつから奪える魔力は500。同じ魔物に2度目のマナドレインを使うと次に奪えるのは更に半分の250、その次に同じ魔物にマナドレインを使うと次は125と減っていくわけである。
とりあえず上記2つと【アクアカッター】600万ギルを購入した。早速【エアクール】を使うと適温か、やや涼しいくらいの気温に保たれた。
「これは良いな!ジゼルがパーティーにいてくれて良かった。」
「お役にたてて良かったです。」
「というか自分のせいで申し訳ないっす。自分さえへまこかなければ皆は逃げられたのに…」
イシュさんはションボリした。
「良いのよ。失敗は誰にでもあるわ。アタシだって慌てて失敗することはあるわ。」
「そうです。みんなで協力すればきっと危機も乗り切れますし。」
「そうだぞ。今回のことはいい経験になった。ボクも自分がまだまだ未熟だとわかった。兄殿が察知できた魔物が全然わからなかったんだからな。はっはっは。」
「ダンジョナーは魔力も気配も感じない魔物だからね。アタシも『どうしてわかったの?』って聞かれても答えようがないわ。経験則とか、勘とか、そういうものの集大成ね。」
とりあえずみんなに【エンチャント・水】をかけて周囲を探索した。便利な転移石はない。行って、行き詰っては元の道に戻ってくような地道で時間のかかる探索だ。【アイテム購入】で紙とペンとインクを購入して、ベルさんがマッピングしてくれる。何だか頭脳労働の殆どを押し付けてるみたいで申し訳ない。敵はやっぱりフレアウルフとかファイヤーホークとかの火属性の敵だ。ものすごい高温で、【エンチャント・水】をかけてなかったら、多分武器が変形すると思われる。イシュさんは相変わらずシールドバッシュ無双。イシュさんは名誉挽回とばかりに張り切っている。【スピードUP】をかけたシータさんの動きにも目を見張るものがある。更にシータさんとイシュさんの連携が取れているので、シータさんがいくら勢いよく飛び込んでも、危ない!というときには必ず多重盾が展開されている。
私はベルさんに言われて、ダンジョナーの魔力をドレインしてみた。魔力過剰で身体が燃えるかと思った。一番魔力消費の高いサンダーバーストを乱発して難を逃れたけど。私に魔力を奪われたせいか、魔物の出没割合が少し鈍くなった。【アイテム購入】で食事をとり、テントで眠る。私は2時間ごとに1度起きなくてはならない代わりに、見張りの割合を減らされ、少し眠る時間を優遇された。お風呂はないので【クリーン】。トイレは【アイテム購入】で懐紙を購入して衝立の向こう。ベルさんが申し訳なさそうに「髭を剃らせてほしい。」と言っていたので、剃刀とクリームのような消耗品を購入して剃らせてあげた。イシュさんも剃っていた。




