第20話
1ヶ月もするとイシュさんはパーティーに馴染み切った。
私の秘密も明かしたが、「すごいっすね!」と言われただけだった。「パーティーメンバーからのアイテムの代理購入は受け入れるよ」と言ってあるので、まあ、好きにやってほしい。スキルで購入したアイテムを売る際は注意してほしいが。
「ベルの兄貴。この依頼どうっすか?」
イシュさんはベルさんのことを『ベルの兄貴』と呼ぶ。男同士で積もる話でもあったのだろうというのがシータさんの見解だ。
イシュさんが指さした依頼を見てみる。
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【ゴールデンスライムの捕獲】
ダンジョンの20階層に現れるというゴールデンスライムを捕獲してきて欲しい。
成功報酬:1200万ギル
期限:藍狼歴6017年6月4日まで
※Dランクパーティー以上推奨
※ゴールデンスライムは無傷でなければ依頼達成になりません。
※依頼失敗の場合、成功報酬の半額の罰金。
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「ゴールデンスライムの捕獲?止めておいた方が無難ね。確かに成功報酬はまずまず高いけれど、ゴールデンスライム自体が5年に1度お目にかかると幸運っていうレベルだし、すごく臆病で素早いの。生き物だから運搬途中に傷付く場合もあるし、依頼失敗の場合のペナルティが大きいわ。こういう依頼は一応頭の隅にメモしておいて、探索中万が一幸運にも捕獲できたら、捕獲した後から依頼を受けて提出するものなのよ。」
「そうなんっすかー。」
イシュさんはがっかりしたようだ。
「ボクはこれがいいと思うな。」
シータさんが指さした依頼は…
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【ソーダフルーツの採取】
ダンジョンの20階層に生えているソーダフルーツを採取してきて欲しい。
成功報酬:1個/1万ギル
期限:藍狼歴6017年5月22日まで
※最低でも5個は採取してきて欲しい。買取上限は30個まで。
※状態の悪いものは買取拒否する場合がある。
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ソーダフルーツはシュワシュワした炭酸のような舌触りのフルーツだ。味はメロンに近い。形は大きめのキウイだが。その独特の舌触りにファンが多くて慢性的に需要がある。この依頼のように失敗のペナルティが書かれていない依頼は、特にペナルティは用意されていない。勿論続けて失敗するとギルド評価に響いてランクが下がったりするから、闇雲に手出しするのはお勧めしない。ただ、イシュさんが入った、今のパーティーの実力だと25階層くらいまでは行けるので、手頃な依頼ではある。
「別に構わないけど、シータが食べたかっただけじゃない?」
「そうともいう。あのシュワシュワ感が堪らないんだ。」
「自分は別にその依頼で構わないっす。」
「私もそれでいいです。」
意見の一致を見たので、今日は20階層の探索である。
「あれっ?シータさんその髪紐おニューっすか?可愛いっすね。」
「う、うむ…そうか?」
「すっごく似合ってるっす。」
「あ、有難う…」
シータさんがテレテレしている。今日は幅広の布地に細い赤と白と紺のストライプという中々可愛い感じのリボンなのである。シータさんは最近こういう乙女な変化を微妙に取り入れてくるんだよねえ。どうやらイシュさんを意識しているようなのだけれど、イシュさんは『自分が異性に好意を寄せられる』状況を全く想定していないらしく、変化に気付けど、真意には気付かない。のんびり「可愛いっすね」なんて言っているイシュさんを見てベルさんは溜息。中々前途多難である。
***
「ダブルヘッドセンチピートだわ!ワイルドキャットと群れてるわね。」
「ジゼルさんとベルの兄貴の前には【多重盾】展開しとくっす。」
「ジゼル、【エンチャント・火】と【スピードUP】頼む!」
「はい!」
私は【エンチャント・火】を全員に、【スピードUP】をシータさんとイシュさんにかけた。
数十匹単位のワイルドキャットが盾にバンバンガンガン当たってくる。シータさんとイシュさんは攻撃に走っている。元が盾剣士なイシュさんはあまり攻撃を食らっていないが、シータさんはところどころ引っ掻かれているようだ。
ダブルヘッドセンチピードが歯をガチガチ言わせながら襲い掛かってきたので、ファイヤーアローをお見舞いした。
がすん!という音で振り向くとベルさんが後ろから奇襲をかけてきたグリーングラスホッパーをメイスで潰していた。ベルさんが後ろにいてくれる安心感が半端ない。
周囲の敵を全滅させると結構なドロップ品が湧いていた。
まずはベルさんがシータさんを治療して、ワイルドキャットに引っ掻かれた傷を全部消した。その後、全員でドロップ品をかき集めてベルさんが収納バッグに収納した。
「ダブルヘッドセンチピートの外殻は結構いい値段で売れそうね。」
「そうっすね。随分丈夫ですし、持ってみるとかなり軽いっす。」
「みんな、ソーダフルーツの木が見えてきたぞ。」
イシュさんとベルさんが周囲の見張りをして、その間に私とシータさんで収穫した。42個収穫した。30個分は納品分で、12個分は私達が食べる分だ。
「ジゼルはソーダフルーツ好きか?」
「割と好きです。」
ソーダフルーツは市場価格が高いので、自分たちで20階層に降りれるようになって初めて食した。不思議な果物だけどすごく美味しいと思う。
「冷えてればもっと美味しいのに!と思うことはありますが。」
「確かに。魔術で何とかならないか?」
「【クリエイトアイス】ですか?あとは【フリーズ】という対象を凍らせる魔術があります。どっちも300万するので、果物食べる為だけに購入するのはちょっとお高いです。」
「【アイスウォール】で何とかならないか?」
「うーん…」
頭を捻ってしまった。【アイスウォール】の氷を使って氷水とか作れたら冷やせるかもしれないが、ウォール系の魔術だけあってかなり硬いので、削るのは容易ではないと思う。
「兄殿、どう思う?」
シータさんが果実を収納しているベルさんに水を向けた。
「そうねえ。アタシなら果物ナイフの刃の部分に【エンチャント・氷】をかけて、それでソーダフルーツを切ってみるけど?全身にエンチャントをかけちゃうと、もしかしたら冷たさを感じない可能性もあるから、果物ナイフの刃だけに対象を絞って。刃に限定しないと、手が冷たくなると思うけど。」
なるほどー。
「それはいいですね。後で試してみましょう。」
「ワクワクするな。」
それから採取したりドロップ品を収集したりしつつ、25階層まで降りた。
「あー…もう収納バッグがいっぱいみたい…」
ベルさんが呟いた。
「もうですか?」
「800キロって成人女性16人分の体重くらいだから、すごく容量が沢山ってわけでもないのよね。今日は鉱石の類も沢山収集してるし。それ以外にもテントとか日用品とかを仕舞ってあるし。」
「自分だったら6人以下っす。」
イシュさんは何キロくらいあるんだろ?134キロ以上?150キロくらいかな?シータさんがイシュさんの顎の肉をタプタプしている。
「……収納リングを買うわ。」
ベルさんが少し悩んだ後言った。
「どの重量のを?」
5トン、10トン、50トン、100トン、500トン、1000トンとあるけど、5トンが1億、10トンが2億、50トンが4億、100トンが6億、500トンが8億、1000トンが10億する。
「そうね…とりあえず10トンの1つ。タブレットを使ってるところを他人に見られると厄介だから、ダンジョンの中で処理しちゃいましょう。」
因みに私の能力が能力なので、みんな手元に割と多めに金銭を残している。有事の場合はそれで乗り切ろうという腹だ。
「ジゼルちゃん。これで10トンの収納リング1個買ってちょうだい?」
ベルさんに王金貨2枚渡された。
「使用者刻印しますか?」
するならもう100万ギル必要なんだが。
「しないでいいわ。」
「はい。」
私はベルさんから受け取ったお金をタブレットに吸わせて、容量10トンの収納リングを購入した。どうやらこの収納リング、指のサイズは自動調整でフィットするようになっているらしい。便利だ。ベルさんに渡した。ベルさんは指にはめてみたり外してみたり、物を収納してみたり排出してみたり、確認した後、自分の指にはめた。
全員で転移石で戻った。まずは依頼品を提出。
「リエッタちゃん依頼品の確認をお願いね。」
「はい。」
ソーダフルーツ30個。30万ギルである。しっかり確認されて報酬を貰った。それから20階層から25階層までの間のドロップ品を提出した。中々良いお値段した。
何か1日1人頭50万は確実に稼げてるんだけど。いやあ、普通に商人やるより冒険者やる方が儲かるわ。週5日くらい潜ってて1週間は4週だから、月給1千万以上?実家にはいくらくらい仕送りしよう?月50万くらい送れば悠々生活できるかな?お父さんとお母さんにもっといい生活させてあげたいし。はっはっは。スラッシュ(50万)買うのに涙していた自分が遠い過去だよ。
「リエッタちゃん。確か冒険者ギルド主催のオークションってあったわよね?」
「ええ。ありますよ。」
「出品したいものがあるんだけど。」
「なんですか?」
「収納リング。容量10トンで中の時間経過が0のものよ。」
「あはは。ベルファーレさん、流石にそんな国宝級のものがあるわけないじゃないですか~。」
「鑑定してみたら?」
ベルさんが指輪を差し出した。リエッタさんは鑑定眼鏡を取ってきて、指輪を鑑定した。そしてリエッタさんの顔が驚愕に彩られる。
「容量10トン!?中の時間経過ナシ!?自動フィット機能付き!?ここここ、これどうしたんですか!?ダンジョンで出たんですか!?」
「声が大きいわよ。」
リエッタさんが大声で喋ったので周りの冒険者がざわざわし始めた。
「勿論ダンジョンの中で入手したのよ。とりあえずこれをオークションにかけたいの。いいわよね?」
聞いてるととてもベルさんの「言い方」がズルいのがわかる。「勿論ダンジョンの中で(ジゼルから)入手したのよ。」である。肝心な部分を言ってない。聞いた方は絶対誤解すると思う。
「も、勿論ですっ!過去最高の盛り上がりのオークションになるはずです。早速告知しなくては。証文を作ってアイテムをお預かりしていいですか?」
「ええ。」
ベルさんとリエッタさんは証文を作って、リエッタさんが収納リングを預かった。
「ベルさん、あれ、売るんですか?」
小声で語りかけた。ベルさんもコソコソと小声で耳打ちしてきた。
「勿論。最低価格が4億になるってわかってるんだから、あれを売って、お金を得て、もっと容量の大きいリングを買うのよ。」
なるほど。それが正しいお金の運用法か。なんかベルさんの方が私よりずっと上手に私の能力を使っている。
「ジゼル、ジゼル、早く宿に帰ってソーダフルーツを食べよう!【エンチャント・氷】に期待。」
「そうですね。」
「ジゼルさんと言うお名前なのですね!」
ツィーツェルタさんがにょきっと湧いて出て、爽やかな笑顔を見せた。きらっと白い歯が光る。うわあー出たあ!ひぃぃぃぃぃぃいいいい!!と顔が青褪める。
ツィーツェルタさん自体もちょっと苦手なタイプではあるが、ツィーツェルタさんが連れているハーレムがとても怖いのです。薔薇の妖精の皆さんや他パーティーの女性たちの視線がグサグサと刺さる。
「素敵なお名前ですね!」
「どうも…」
「ジゼルさん、今度僕とデートしていただけませんか?」
「嫌です…お断りします。」
「もしかして探索がお忙しい?適度に休まないとダメですよ?」
ベルさんが私を引き寄せて腕の中に囲った。
「どういう耳してるの?『無理』じゃなくて『嫌』って言ったじゃない。嫌がってるのよ?ジゼルちゃんが可哀想だから、無理に誘わないでちょうだい。」
ツィーツェルタさんはムッとしたようだった。
「あなたはジゼルさんのなんなんですか?」
「少なくともアナタよりジゼルちゃんと親しい男よ。ほら、あっち行って。アナタの背後のお嬢さん方が怖いから。」
ツィーツェルタさんは悔しそうな顔だ。ベルさんたちは私の周囲を囲うようにして宿まで帰って行った。
「有難うございました。」
「いいのよ。アタシも可愛いジゼルちゃんを盗られるのは嫌だから。」
「ツィーツェは『自分を嫌う女の子がいるはずない』って信じてるっす。気をつけるっすよ?」
「ツィーツェとかいう男も鬱陶しいが、周囲の女の子が怖かったな。またハーレムが増えたんじゃないか?」
「拡大の一途を辿ってるっす。」
「どこが良いんだかなあ?」
「顔じゃないっすか?」
「見た目だけ良くても仕方ないと思うが。」
シータさんとイシュさんが言い合っている。本当に見た目だけ良くても仕方ないよね。性格もあんまり良くなさそうだし、実力的にはイシュさん曰くうんこで、どうも探索はハーレムメンバーに護衛されながら戦っているふりをしているだけみたいだから。
とりあえず…
「皆さん有難うございました。ソーダフルーツを食べてみましょうか?」
「そうだ。それが大事だ。自信過剰気味の執着男のことは忘れよう!」
まず果物ナイフの刃にだけ対象を絞って【エンチャント・氷】をかける。それからそのナイフを使ってキウイのような外側の皮をつるりと剥いた。切ってみると、断面が程よく凍っているようだ。中のメロンのような種の塊を切って捨てて、ひと口大にカットして食べてみる。
しゃりっと凍り付いた断面。中側は果肉が程よく冷えている。シュワっとした炭酸のような独特の舌触り。
「うまい!」
シータさんが歓声を上げる。
「うまいっす。」
「炭酸はさほど好きな訳じゃないけどこれは美味しい…というか色んな果実で試したくなるわね。」
「おお!兄殿、ナイスアイディア!色んな果実を試してみよう。」
「市場にレッツゴーっす。」
シータさんとイシュさんはフットワークが軽い。
「アタシは荷物持ちとして行かなきゃならないだろうけど、どうするジゼルちゃん?」
ベルさんが苦笑した。
「勿論行きます!」
そんなに口数の多い性質ではないけど、みんなとわいわいするのは好きだ。そんな楽しそうなイベント是非とも参加だ。
***
冒険者ギルド主催のオークションは大変な盛り上がりを見せたらしい。最低価格4億から始まって、6億2千万にまで跳ね上がったらしい。Sランクパーティー数組が激しく競り合って、とあるSランクパーティーが競り落としたとのこと。ベルさんは6億で容量100トンの収納リングを購入した。収納バッグはベルさんが持ってる収納リングのカモフラージュとしてそのまま所持。容量が大きいことになってしまうが、収納バッグの容量など自パーティー以外ではエイミィさんしか知らないので、情報が漏洩する可能性は低い。一流技師は口が堅いらしいし。




