第19話
ギルドで素材を売り払って、飲み屋に入った。
「かんぱーい!」
ベルさんは葡萄酒、シータさんとイシュさんはエール、私はオレンジジュースだ。料理も色々頼んである。みんなでワイワイだ。
「イシュさんはおいくつなんですか?」
見た目では年齢が察しにくい。流石に15ということはないだろうが、いくつにでも見えてしまいそうな容姿をしている。そもそもが竜人族も長命種なので見た目はあまり参考にならないし。
「18っす。」
「ボクと同い年だな。今までどこに居たんだ?」
「ボルルックシティを拠点に森の探索が主っす。というか出身がボルルックシティなんす。実家住まいの冒険者でした。ボルルックシティって結構辺境で、今度都会で一旗あげようって自分を含む3人の竜人族がサテライトシティに出てきたっす。」
私は無学な方なので、ボルルックシティがどの辺にあるのか知らない。辺境…竜人族の多い地域なのかな?
「あら、後の二人はどうしたの?」
「来て、ギルドでパーティーメンバー募集してたら、それぞれ別のパーティーに貰われてったっす。自分売れ残りなんで。」
「その割には随分優秀そうでしたけど…」
今日見てたけど、随分動きが良かったように思う。ランディと比べると格段に優秀な感じだ。私?私はただの金喰虫です。……察しろ。
「有難うっす。でも見た目が目に優しくないし、『冒険者?嘘だろ?』的な脂肪がついてるんで。優秀そうには見えないんっす。」
「確かにぷにぷにだな。」
シータさんがイシュさんの二重顎を手でタプタプと触った。
「く、くすぐったいっす…」
イシュさんはちょっと赤くなっていた。
「サテライトシティまで、旅してるときの乗合馬車では、一人で二人分の運賃取られたっす。切ないっす。」
「ははは。まあ食え。これ旨いぞ。」
シータさんが骨付き肉を豪快にがぶりっとしている。
「あー…自分結構食が細い方なんで、あんま食えないっす。」
「まあ、無理にとは言わないけれど、適量は食べた方が良いわよ。いざって時にスタミナないときついから。」
「が、頑張るっす。」
イシュさんはちまちま食事していた。ちょっとずつ食べて沢山噛む、太りにくそうな食事の仕方である。なんか食生活とも実力とも、見た目がちぐはぐな感じなんだが。
「ベルさん、ステルスカメレオンってどうやって見つけたんっすか?」
「あー…それねえ…」
ベルさんが索敵講義をしている。むう…後から来たイシュさんの方が先に広範囲索敵覚えちゃったらどうしよう。私の無能ぶりが浮き彫りに…頑張ろう。
「ジゼル。見ろ!このゆで卵!黄身が双子だ!」
「珍しいですねえ。」
「しかし『白夜の太陽』が被っているとは…やっぱり格好良いパーティー名はみんな使っているんだな。」
「アハハ~…」
使われてて良かった。
「『白夜の太陽』…なんか格好良いっすね!『魂の輪舞』とかも良くないっすか?」
「おお!カッコイイ!兄殿…今からでも…」
「イ・ヤ・よ・!!」
そう!ベルさん、そこは断固とした姿勢で行きましょう!!ぎゅっとベルさんの手を握りしめてウンウン頷いた。「こんにちは。『魂の輪舞』のジゼルです。」……うん。無い。
「ほら、ジゼルちゃんだって嫌だって言ってるじゃない。」
「何故だ!ジゼル!」
平たく言うと……なんかキモイ。言えない…純粋に格好良いと思ってるシータさんやイシュさんには言えない…けど、そんなパーティー名を名乗ったら数十年後思い返して死にたくなりそうな気がする。私はそっと目をそらした。
「あっ。イシュ。良かった。パーティー組めたみたいだね。」
竜人族の男性がイシュさんに話しかけている。金髪に碧眼の爽やかな感じの美男子だ。数人の女性冒険者たちに囲まれている。
「ツィーツェ…ダンジョンはどうっす?」
「中々厳しいね。僕が如何に生ぬるい戦闘をしていたのか自覚させられたよ。今、この『薔薇の妖精』のみんなにこってり絞られてたんだ。」
笑顔で快活に喋る。
『薔薇の妖精』は有名な女性だけのパーティーだったと思うけど、遂に男性加入か…『薔薇の妖精』の面々はうっとりとツィーツェと呼ばれた男性を見つめている。泥沼の予感。『薔薇の妖精』の面々が一種の病気から目覚めなければそのうち仲違いしそう。
「そうっすか。自分も『銀の匙』の皆さんに勉強になってるっす。」
「へー…え。」
ツィーツェと呼ばれた男性と目が合った。
「可憐だ…」
ぎろっと『薔薇の妖精』の女性たちに睨まれる。
こ、怖い…思わずビクッと硬直してしまう。ベルさんが私をさり気なく背に庇って座りなおした。
「ぼ、僕、ツィーツェルタっていうんだ。君はなんていうの?」
ツィーツェルタさんがずずいっと私に迫ってきた。
怖いから!『薔薇の妖精』の皆さんの視線が怖いから!!
「はい。だぁーめ。この子はおにーさんが唾つけてるんだから。『薔薇の妖精』の子も逆恨みしちゃやぁよ?」
ベルさんがツィーツェルタさんを追い払って、私を抱き寄せて頬にキスした。ツィーツェルタさんがショックを受けた顔をした。
「な、名前だけでも…」
私はぷるぷる首を振ってベルさんに抱きついた。
「ツィーツェ…無理言うと嫌われるっすよ?」
「紹介くらいしてくれたって…」
「嫌がってるみたいだから無理っす。」
ツィーツェルタさんがションボリしながら去って行った。
「あの子は同郷の子?」
ベルさんが私の背中をなでなでしながらイシュさんに聞いている。
「はい。ツィーツェルタは同郷で、見ての通りの竜人族っす。18歳。自分らくらいの年頃の女の子がまず想像する王子様はツィーツェルタだ、っていうほど女性には人気があったっす。自覚してるのか無自覚なのか、常にハーレム築いてて。性格もいいって評判なんっすけど『イシュが醜いのはイシュのせいではないよ』っていう微妙な庇い方してくるっす。『見た目が醜いからって心も醜いとは限らない』とか。」
「それって、かなりイシュさんに失礼なんじゃないですか?」
寧ろ性格悪いと思うんだけど。
「はは。自分もちょっと苦手っす。『そういう言い方は止めて欲しい』って言うと女の子に『ツィーツェ君が庇ってくれてるのにヒドーイ!』とか言われるんっす。」
「全然庇ってないと思うが。」
シータさんも突っ込んでいる。
「まあ、そんな感じっす。ツィーツェは実力的にはうんこっすけど。」
「うんこか?」
「動きの鈍さがヤバいっす。『槍士』で槍は畑違いなんで詳しく表現できないっすけど、トロいっす。森でも危ないシーンは何度かあったっすけど、大抵取り巻きの女の子が身を挺して庇ってくれてるっす。」
「愛されてるな。」
「そうっすね。でも自分だったら、大切だと思う女の子には怪我して欲しくないので、身を挺してまで庇ってほしくないっす。ツィーツェとは価値観が合わないんっす。」
イシュさんっていい人だなあ…。
ツィーツェルタさんとはあまり関わり合いになりたくない。どうか私のことは記憶から消去しておいてほしい。
ベルさんの腕の中にいるのは気持ち良いけど、ちょっとドキドキしすぎるかも。ちらっと目線を上げたら、ベルさんが微笑んで私の瞼にキスしてきた。うう…
イシュさんがちらちらもの言いたげにしているが、ベルさんもシータさんもスルーしている。
「おお!豚がいるぞ!」
もじゃもじゃ赤毛の竜人族の男性がイシュさんを指さした。
「ジャン。ダンジョン探索は上手くいったっすか?」
ジャンと呼ばれた男性はふふんと胸を張った。
「聞いて驚け。僕は今日だけで7階層に潜ったんだぞ。」
「……そうっすか。良かったっすね。」
ジャンさんの周りには如何にも歴戦の猛者というような見た目のおっさんたちがいる。彼らは『我が頭上に栄光を』というパーティー。確か殆どの者がFランカーだったはずだ。見た目はベテランに見えるのにね、っていう話題になるパーティーだ。
「死闘に次ぐ死闘…豚には拝むことすら許されないような激しい戦いだったんだ。」
「そうっすか。」
イシュさんが生暖かい視線を送っている。ジャンさんが私とベルさんに目を留める。
「お、お前たち!こんな公衆の場で抱き合うだなんて…は、破廉恥だっ…!」
顔を赤くしている。ピュアボーイなんですね。
「あらあ…ごめんなさいねえ?」
ベルさんが私を解放した。
「ふ、ふん。豚にはお似合いの軟弱そうなパーティーだな。」
「仲間のことは悪く言わないで欲しいっすよ。テュバルエ子爵家9男さん。」
「う、うるさい!家のことは言うな!不愉快だ。別の店で飲むぞ。」
ジャンさんは『我が頭上に栄光を』の皆さんと共に去って行った。
「なんか自分のせいで悪く言われてしまったみたいで申し訳ないっす。」
「気にしてないからいいわよ。どう見ても偉ぶりたいだけの子供にしか見えないし。」
「あれでも122歳なんすよ。ジャン・テュバルエっていう子で、テュバルエ子爵家っていう、あんまり栄えてない貴族の9男なんっす。嫡男どころか9男っていうのがコンプレックスで。基本的には何言われても流してあげるのが優しさっす。あの通りお子様なので、あんまり弄ると泣きます。」
「泣くの?」
「泣きます。『豚め!』とよく馬鹿にされるので、ちょっと腹が立って、1対1で決闘もどきをやって、けちょんけちょんにした後、『あれあれ豚さんに負けちゃうんでちゅねー。流石テュバルエ家のご子息は育ちが良いだけありまちゅねー。ねえねえ、今どんな気持ち?どんな気持ち?』って弄ったら『ママ~!!』って泣きながら帰って行きました。テュバルエ家から『ちゃんと子供には配慮してほしい』って苦情が届いたっす。自分はもう『子供の言うことだから…』って大概のことは流してるっす。」
「まあ、そこそこ無害だとは思うぞ?」
シータさんの評。
「そうっすね。多分サテライトシティでもちょっと嫌なことがあったらお家に帰ると思いますし。前から『そろそろ自立する!』って言って色んな所に行っては、すぐに帰ってきちゃってるみたいなんで。『自立する詐欺』っす。多分生涯自立はしないっす。流石に栄えていないとはいえ子爵家なんで、親の脛齧って生きていけるでしょうし。」
というようなことを喋りながら飲んで食べた。




