第18話
というわけで早速登録。ベルさんはパーティーリーダーとして、パーティー名の登録。シータさんは酒場で紅茶でも飲むと言っていた。私は迷ったがベルさんについて行った。受付が混んでいたのでしばし並ぶ。
「『白夜の太陽』になっちゃったらちょっと恥ずかしいですね。」
そのパーティー名はシータさんの一推しなんだが、微妙に格好良い感じがそこはかとなく恥ずかしい。「ふっ。私たちが『白夜の太陽』だ。」…………ないな。やっぱり恥ずかしい。私とベルさんは難色を示していたのだが、熱心に推されて拒否できなかったのだ。被ってますように。
「そうねえ。もし他のが重複してなかったらパーティーリーダー権限で他のにしちゃうわ。」
ベルさんも苦笑いである。
因みに『○○の太陽』の名前の候補を出す時、シータさんは『白夜の太陽』か『漆黒の太陽』で悩んでいた。私としてはどちらもなしなんだけど。『○○の太陽』って何気に難しいお題だよね。『真夏の太陽』とかだととってもご機嫌なパーティー名になっちゃうし。熱血野郎が在籍してそう。
「リエッタちゃん、パーティー名の登録をお願いしたいんだけど。いいかしら?」
「ええ。お承り致します。どんなものでしょう。」
「『銀の月』か『金の明星』か『白夜の太陽』のどれか、重複していないもの…あるかしら?」
「重複がないか確認して参ります。」
リエッタさんは奥の部屋へと引っ込んだ。ギルドでは謎の魔道具により瞬時に各ギルドの最新情報が閲覧できるらしい。どんな魔道具なのかは秘匿されている。魔術師ギルド、商業ギルド、ギルドと名のつくところはどこでもこの魔道具が常備されているらしい。
しばらくして戻って来たリエッタさんが微笑んだ。
「他二つは重複していましたが『銀の月』は重複がありませんでした。登録なさいますか?」
「お願いす…「ふざけるな!」
シータさんの声が響いた。何やらお怒りのようだが…
「リエッタちゃん、とりあえずそれで登録しておいてちょうだい。説明は後で聞きに来るわ。」
私とベルさんは慌ててシータさんの元へと駆け付けた。
「貴様は恥ずかしくないのか!高々体型ごときで他人を貶めて!彼はきちんと自分一人の能力でEランクまで上り詰めている!努力している彼を嘲笑うのか!真昼間から酒を飲み、管を巻いて新人いびりをしている連中の分際で!」
どうやらシータさんは酒場で知り合った太った…それはもう太った男性を庇って、他の冒険者と口論をしているようだ。
「ふん。女に庇われて、情けない。お前みたいな太った盾剣士がまともな動きをできるわけがないだろう。どうせ収集品で細々ランクを稼いだクチだろ。」
冒険者が毒を吐く。
「口だけ野郎はこれだから困るのよ。アナタこそ『カツアゲのビリー』でしょ?新人冒険者に上手いこと言ってダンジョンに連れて行って、『授業料』とか言って大金巻きあげて生計立ててる。ランクもFなくせして。」
ベルさんが口論に参戦した。
「う、うるせー。どうせそんなやつじゃ、まともなパーティー組めないだろうから親切に声をかけてやっただけだ。」
カツアゲのビリーは有名なので、名前を知られているとあってばつの悪そうな顔だ。
「そんなことお前にはわからんだろう!彼とパーティーを組んで冒険したいと思う人間だっているはずだ!」
「いるわけねえ。お前ら、あいつとパーティー組みたい奴はいるか?」
ビリーが周囲にいる冒険者たちに問いかけた。周囲は沈黙した。彼は本当に人気がないらしい。見た目が鈍重そうだものなあ。竜人族みたいだからパワーはありそうだけど。
「良かろう。彼が拒否しなければ、彼はボクたちのパーティーに入れる。」
シータさんが断言した。
「ははっ。お笑い草だな。そんなゴミ拾って。」
「やかましい。もうボクたちに関わるな。」
シータさんが太った男性を連れて酒場の隅に行った。
「兄殿、ジゼル、すまないな。勝手に決めてしまって。でも彼は話した感じ中々感じがいいし、ボクの勘ではいい人材だと思うんだ。」
「別に構わないわよ。シータが見込んだ相手なら。」
「私も大丈夫です。」
互いに自己紹介をした。まだ完全に信用したわけではないので、私のジョブとスキルについてはしばらく明かさないつもりだが。折を見て信用できそうなら明かす方針で。
彼の名前はイシュタル。Eランクの盾剣士だそうだ。見た目はでっぷりと太っていて、髪は灰色、肉で埋もれた細い瞳は青。鼻は低く上向きで、たらこ唇の二重顎。身体のボリュームはすごいという一言に尽きる。竜人族らしく二本の真っ直ぐな白い角が頭の両サイドから伸び、後ろには銀の鱗に覆われた尾があった。
「宜しくね。イシュタル君。」
「宜しくお願い致します。イシュタルさん。」
「イシュでいいっす。あの…本当に自分なんかがパーティーに入ってもいいんっすか?」
「勿論。イシュはサテライトシティに来たばかりだったか。良ければ同じ宿を取ろう。」
「その前にパーティー登録しちゃいましょう。説明聞きに行くところだったから丁度いいわ。」
リエッタさんにイシュさんを『銀の月』に入れてもらった。説明は特にないそうだ。今までもパーティー組んでたし、わかるよね?って感じだった。「お金の分配方法は予め決めておいた方が後から揉めないです。」って言われた。貢献度で分配金額を変えるか、頭割にするかってことだ。因みにランディのパーティーが貢献度で、ベルさんたちのパーティーは頭割である。ベルさんが「お金は頭割に分配するけど、サボっちゃイヤよ?」とイシュさんに笑って説明していた。
全員が自分のギルドカードを見た。
「兄殿…目の錯覚でなければ『銀の月』ではなく『銀の匙』に見えるのだが。」
「そうねえ…アタシにも『銀の匙』に見えるわ。」
私にも『銀の匙』に見える。『月』と『匙』…スペルにするとmoonとspoonで微妙に似てるよね。
「いいじゃないですか。『銀の匙』。なんかユニークですし。」
「そうねえ。アタシ的にもこれはこれでアリね。」
「ボクはそんなカッコ良くないパーティー名嫌だ。リエッタさんに苦情を…」
シータさんがリエッタさんに苦情を申し立てた。
「も、申し訳ありません…私、見間違っちゃったみたいで…」
確認してみたら『銀の月』は既に使われているそうだ。
「諦めなさい。アタシたちは『銀の匙』よ。天体シリーズは今思えば、アタシたちにはスケールが大きすぎたわ。匙くらいで丁度良いのよ。」
シータさんは不満そうにブツブツ言っていたが、それ以上ダダは捏ねなかった。
イシュさんの宿を取りに行った。
それからイシュさんの為に緑のダンジョンの1階層目から潜りなおした。意外なことにイシュさんはかなり俊敏に動ける。盾スキルも【シールドバッシュ】【多重盾】【ビッグシールド】を覚えていた。シールドバッシュはシールドを対象に叩きつける攻撃、多重盾は盾(武具の盾ではなくスキルで構成された謎物質で出来た盾)を任意の場所に複数展開させて守るスキル、ビッグシールドはシールドの守れる範囲を拡大するスキルだ。多重盾で複数展開した盾全てでシールドバッシュを行う…なんていう組み合わせもできるらしい。上手に使いこなして後衛を守りつつ巧みな剣術を繰り出している。実力的にはかなりのものだ。恐らく見た目で損するタイプなのだろう。
「とりあえず初日だし、無理せず10階層くらいまででいいんじゃないかしら。」
ベルさんが提案した。
「ベルさんたちはいつもどれくらいまで潜ってるんっすか?」
「アタシたちは普段は18階層くらいまで潜ってるわ。ちょっと3週間ほど旅行に行ってて、今は勘を取り戻すためのリハビリで、昨日は16階層目だったけれど。」
「へえ。」
「潜り始めだからピンとこないだろ?イシュが加われば前衛が充実するから20階層目は超えるだろうな。」
因みにダンジョンは10階層おきにセイフティゾーンのあるエリアがある。きっかり10階層ずつ潜ってくのは難しいので、セイフティゾーン以外の所でも普通に休息するが、見張りと交代なのは言うまでもない。
イシュさんの盾はマッドボアの全力の突撃を受けてもびくともしなかった。私はみんなに【エンチャント・火】をかけて攻撃力UP。というか【エンチャント・火】をかけると、イシュさんの多重盾にも火の属性が宿るらしく【エンチャント・火】+【多重盾】+【シールドバッシュ】の物量攻撃は中々凶悪だった。【スピードUP】のバフも中々使い勝手が良いようだ。シータさんは身が軽いタイプの剣士なので、動きが加速されると、目にも止まらぬ剣戟を繰り出す。
「これはいいな!身体が軽い!」
「すごい!サクサク切れるっす!」
「調子に乗っちゃダメよ?浅い階層でも命の危険はあるのだから。イシュ君、右側にステルスカメレオンがいるから注意してちょうだい。」
「えっ!?」
ステルスカメレオンは10階層に出る、姿をまるっと消せるカメレオンだ。索敵技術が無ければ見つけることは困難だが、攻撃自体はさほど強いダメージはない割と弱い魔物だ。
シータさんがイシュさんの右側で剣を振る。ぽたっとカメレオンの伸びた舌が落ちてきた。舌を切り落とされてもがくカメレオンが今度は視認できた。
「ジゼルちゃんは索敵できた?」
「はい。25m以内だったのでなんとか。まだ広範囲索敵は難しいです。」
「ふふ。頑張ってね。」
頑張る!
無事10階層の登録石に転移石をくっつけて登録を行う。
「じゃあ、帰って素材を売り払って、飲みに行きましょう。」
「賛成っ!」
こちらの世界の言語はアルファベットに似た全く別物の言語を使っていますが、パソコンでは決まった文字しか入力できないので、ふわっとイメージを伝えるためにアルファベットで表現してあります。言語英語なん?というわけではないです。
シータさんの趣味は中二的ですが、こちらの世界に中二病という概念は存在しません。
文字は幼少期教会で教えてもらうのが一般的です。ボランティアですが「お礼に…」と農家なら野菜を、薬師なら手慰みの薬品を寄付するお家も多いようです。




