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第12話

翌日はまた屋台で朝食をとった。『筍肉うどん』という筍と肉が具で入っている温かなうどんだ。木の器にたっぷりよそられている。食べた後木の器をお店に返却すると50ギル返却してもらえる。肉も筍も麺も美味しい。おつゆもお出汁がたっぷり利いている。


「おいしいですね~。」

「これは堪らない!!」

「旬の味覚を満喫って感じね。」


たっぷりうどんを味わった後、湯屋でお風呂。


「ジゼル、ボクは今日も食べ歩きする予定だから、ジゼルは兄殿とデートしてくると良い。」


お湯に浸かりながらシータさんが言う。


「え…いや、そういうのはやっぱり…」


私は怖気づいた。美男子で優しくて有能なベルさんに私如きが粉をかけるなんて…無理。自分に自信がない。隣に立つなんておこがましくて無理だ。


「そんなにビクビクしなくても大丈夫だぞ?兄殿は紳士だから急に襲い掛かったりなどしないと思うし。」

「そういう心配をしているわけでは…」


寧ろ私になんて食指が動かないんじゃないかと。


「ではどういう心配だ?」

「わ、私なんかがおいそれと近寄るのは恐れ多いなー…と。」

「?兄殿は別に高貴な家柄ではないぞ?多分ジゼルに好感を持っていると思うし。それともジゼルはさほど兄殿が好みではないのか?それなら無理強いはしないが…」

「いえ…」


赤くなる。好みだよ。滅茶苦茶好みだよ。だから安易に近づくと深みにはまりそうな気がして困る。シータさんたちだって元のパーティーが解散しちゃった理由は男女関係のもつれだったじゃないですか。繰り返すのはどうかと思います。


「ジゼル。同じパーティーメンバーだというのは狙うとしたら大きなアドバンテージなんだぞ?もし兄殿がジゼルに全く『異性としての関心がない』なら、ボクもこんなことは勧めない。ただ、多分兄殿はジゼルのことを『一人の女の子として』それなりに好意を持っているぞ?」


そう……なのかなあ?だとしたら嬉しいけど…


「二人きりになって相性を確かめて今後の方針を決める…ということもできる。お試しデートはしてみたらどうだ?」

「お試し…」


なら、ひとつ当たって砕けてみるか。


「わかりました。行ってみます。」


念入りに全身ぴかぴかにしてお風呂を出た。ベルさんとデート…緊張する。ベルさんは昨日と同じくベンチに座ってレモン水を飲んでいた。


「兄殿。」


ベルさんがにこりと微笑んだ。


「今日も二人とも可愛いわよ。」

「有難うございます…」


照れて赤くなってしまう。


「ボクが可愛いかはさておき、ボクは今日も食べ歩きをする予定だから、兄殿はジゼルと観光でもしてきてくれ。別行動だ。」

「そう?わかったわ。ジゼルちゃん、行きたいところある?」

「えっと…」


適当に露店を見て歩くことにした。昨日はシータさんの『食べ歩き』がメインの屋台巡りだったけど、今日はちょっとした細工物なんかを見ながら露店を冷かす、ウィンドウショッピングだ。


「綺麗ですね。」


私は花のブローチを手に取って言った。


「そうね。華やかだわ。薔薇かしら?それとも牡丹?」

「どっちでしょう?明確なモデルのない花かもしれませんね。」


色々見て回る。服なんかも売っている。


「綺麗だけれど、ストールは今の時期じゃないわねえ…」

「でもこのボレロとかは春っぽくて可愛いですね。」

「これから先の季節に良さそうね。今日のジゼルちゃんの服は可愛いわねえ。良く似合ってるわ。」


やった!褒められた!!シータさんに連れられて服飾店のお姉さんと相談して購入した服なんだよね。黒のシルエットがはっきりした肩だしトップスに、ふんわりしたすごく淡いグレーのシフォンスカート。スッキリ+ふんわりの乙女ライン。華奢な肩がちらりと目を引く渾身のデート服なのだ。


「有難うございます。」

「ふふ。おにーさんとデートするために選んでくれたのかしら?」


図星をつかれて赤くなった。


「ホント…かわいいわね。」


頬を撫でられた。優しい手つきと、温かな体温を感じてドキドキする。


「ジゼルちゃん。これプレゼントするわ。」


ベルさんが差し出したのは桜の髪飾り。ローズクォーツを削りだしたのだろうか?小さな桜の花がたくさんついた綺麗な髪飾りだ。


「ボギーさんが売る商品、見せてもらったらジゼルちゃんに似合いそうだと思って、つい買っちゃったのよね。」

「素敵です…」

「気に入った?」

「はい。」

「じゃあ、付けてあげるわ。」


ベルさんが私のサイドの髪を少しだけ持ち上げて髪飾りを装着した。


「すごくよく似合ってるわ。可愛い。」

「有難うございます…わ、私もベルさんに何かお返し…」

「気にしなくていいわよ。」


ベルさんは笑ったが、私がベルさんに何かお返ししたいのだ。色々見て回った結果、小鳥が木の実をくわえている意匠の小さな銀のブローチを購入した。


「これ、プレゼントです。」

「有難う。ジゼルちゃん。」


ベルさんは首に巻いてるクラバットにブローチを刺した。

お昼ご飯はベルさんのお勧め『お蕎麦』だそうだ。私のいた村では蕎麦の実が栽培されていなかったので、私は食べたことがない。ベルさんに手を引かれてお蕎麦屋さんに入った。二人で席に座る。


「ジゼルちゃん、どれ食べる?基本の冷たいざるそばも、温かいおつゆに入ったお蕎麦も美味しいわ。山菜蕎麦も、鴨南蛮も美味しいのよ。」

「では基本から。」


冷たいお蕎麦と、温かいお蕎麦、両方を注文した。蕎麦は茹でたてを食べて欲しい、という店主の要望から、1食食べてから次の1食を茹でるそうだ。ベルさんは1食目はざるそば。2食目は鴨南蛮にするそうだ。

ざるそばが来た。


「このおつゆにつけて食べるのよ。」


ベルさんが教えてくれたので、そばつゆにお蕎麦を浸して食べた。しっかりとしたお蕎麦のコシと、ふわあっと薫るお蕎麦の風味がなんとも美味しい。


「おいしいです!」

「ふふ。良かった。アタシも好きなのよ。香りが良いのよねえ。」


夢中でおそばを食べた。つるつる食べられたので、あっという間になくなってしまった。店主が蕎麦湯を運んできてくれた。


「それはそのまま飲んでもいいし、そばつゆで割って飲んでも良いのよ。」


ベルさんが教えてくれたので、まずはそのまま。蕎麦のいい香りがする。冷たいお蕎麦で冷えた身体に温かさが染みわたる。次のほんの少しだけそばつゆを足して飲んでみた。しっかりしたお味が美味しい。


「おいしいです。」

「冷たいお蕎麦の後の蕎麦湯は堪んないわよねえ…」


店主が茹でてくれた、温かいお蕎麦も美味しい。ざるそばに比べてちょっとコシが弱い感じだが、ポカポカ温まるようないい味だ。出汁が美味しい。ベルさんを見ると鴨南蛮というのを食べているようだ。温かいお蕎麦に鴨のお肉とネギが入っている。おつゆにきらきらと鴨の脂が浮いていて、なんとも美味しそう。


「半分まで食べたら交換しましょうか?こっちも美味しいわよ?」

「……はい。」


食いしん坊みたいで恥ずかしいが、そちらも食べてみたい。

熱々のお蕎麦を半分まで食べたところでベルさんの鴨南蛮と交換した。


「お…おいしいっ!!」


お出汁も美味しいけど鴨の脂が甘くて絶品。焦げ目のついた長ネギも噛むと香ばしい香りとねっとりとしたねぎの繊維がにゅるっと舌に伝わる。鴨肉もキュッと身が締まっていて美味。


「わよね。アタシもすっごく好きなの。此処の店は鴨なのに、臭みがほとんどないし。」

「これ購入品に追加されてたらいいな。」

「そうね…」


ちょっと期待している。たっぷりお蕎麦を味わって店を出た。


「はー…美味しかったー…」

「喜んでもらえて何よりよ。午後は何かしたいことある?」

「特に思い浮かびません…」

「それじゃあ…」


ベルさんに連れられてきたのは公園。桜の木がたくさん植えられている美しい公園。二人でベンチに腰掛けて桜を見た。風にそよいで花びらが舞う。綺麗…


「綺麗よねー。午後はゆったり花見を楽しんじゃいましょう。」

「はいっ。」


まったりお花見した。


「なんかいいわね。シータはちょっと落ち着きない子だから、こういうとこ連れてきてもすぐソワソワしちゃうのよ。」

「ふふ。」


シータさん、鑑賞とか楽しめないんだね。


「それもシータさんらしくて微笑ましい気がします。」

「まあ、元気な証拠よね。」


私は桜の花なんて花祭りに来るまで見たこともなかったし、いつもせかせか守銭奴やってて生活に余裕なかったから、こんなにじっくり花を見るのなんて初めてかも。目が幸せです。

公園では他のカップル客や、近所の子供なんかもちらほらみられる。


「おにいちゃーん!待ってー!」


小さな女の子がお兄ちゃんを追いかけて走っている。ずしゃっとこける。


「うわーん!」


泣いてしまったようだ。前を走っていたお兄ちゃんが慌てて女の子のところまでやってくる。女の子は膝を擦り剥いてしまったようだ。

ベルさんが立ち上がった。


「大丈夫?お兄さんが治してあげるわ。」


ヒールをかけて擦り剥いた傷を一瞬で消してしまった。


「うわあ!治っちゃった!すごーい!もう痛くないよ!ありがとー。おにーさん。」

「良いのよ。気をつけてね。」


ベルさんは女の子とお兄ちゃんの頭を撫でた。


「ありがとー」


二人はベルさんにお礼を言うとまた元気に駆け出した。ベルさんは再びベンチに戻ってきた。


「子供って可愛いわね。シータも昔はあんなだったわ。」

「ベルさんの子供の頃ってどんなでした?」

「……笑わないでちょうだいね?小さな頃は随分と中性的というか…割と可愛い子供だったのよ。それで母の玩具にされて…スカートとか穿かされてたわ。毎日女の子の格好をさせられていて、幼馴染の男の子はアタシのこと女の子だと思ってたみたいでね。彼らの初恋はアタシだったらしいの。流石に10,11歳くらいになるとズボンを穿かせてもらったけど、幼馴染の男の子たちはアタシが男と分かってハートブレイク。すっごく恨まれたわ。」

「初恋泥棒ですね。」


アレ?私って初恋いつだっけ?記憶にないや。今?流石にそれは遅い気が…


「ふふ。泥棒しちゃった。母は女の子が欲しかったみたいだけど、次に生まれたシータは小さい頃から男の子に混じって野山を駆け巡って、スカート穿かせてもすぐにびりびりの泥だらけにしちゃって母は嘆いてたわ。」

「小さな頃のベルさんを見てみたかったです。」


今これだけの美貌を誇るベルさんなら、きっと小さな頃はものすごく可愛かったろう。見てみたい。


「ふふ。自分で言うのもなんだけど、結構可愛かったのよ?ジゼルちゃんは?」

「うちは貧しい農夫だったので、あんまり凝った衣装は着せてもらえませんでした。15歳の頃は『小さな頃からあんまり顔が変わらないな』って周りに言われてました。冒険者になってからは、ランディは何も言わなかったのでわからないですけど、多分あんまり変わってないと思います。」

「小さな頃から可愛かったのね。」


私は微妙な顔になった。可愛いと言えば可愛いんだけど…飛びぬけて可愛いかと言われればそんなこともなくて…称号的には『村で3番目に可愛い子』くらいのレベルだったと思う。17歳になった今、どう見てもシンシアちゃんとかの方が可愛いし。スタイルは言うまでもなく。微乳ですし?お尻も小さいけど。


「兄弟はいなかったの?」

「はい。でも父も母もまだ若いエルフですし、もう一人か二人くらい頑張れば産めるかも…ただ、財政状況的に子供を産んでしまうと困ったことになってしまうかも…本当に貧しい家なので。安定して稼げるようになったら仕送りとかも考えてみたいと思います。」

「そう。いい子ね。」


ベルさんが微笑んだ。最近は宝箱とかの臨時収入で懐が潤ってるけど、毎月どれくらい安定して稼げるかはまだ未知数だ。沢山稼げたら少し仕送りしよう。両親は私の収入にはあまり期待してないみたいだったから、仕送りしたら驚くかも。そういえば家を出てから一度も手紙を送ってないや。ちょっと前までは「手紙を届けてもらうのもお金がかかるから…」と出し渋っていたけど、今はちょっと余裕あるし、ちゃんと手紙書いてみよう。ランディのパーティー抜けたことも伝えないといけないし。


「いい天気…気持ち良いわ。」


ベルさんが桜を見上げて目を細めた。


「そうですね…」


私もうっとりと桜を眺める。

そっと私の手をベルさんの手が包んだ。

うう…こんなに甘く接せられて、本気になっちゃったらどうしよう…



初心者が詐欺られそうなワード、『お試し』頂きました。

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