第1話
先だってUSBメモリが破損したことによって、「安全な保存先なんてないんや…」と骨身に染みたので、完結してないし、先の見通し立ってないけどUPします。書きあがったら書きあがった分だけUPしていくので不定期連載です。初めのうちはストックがあるので毎日更新。すぐストックきれて不定期になりますが。恋愛なのかファンタジーなのか、微妙なラインで進みます。戦闘シーンはあんまりないけど。
恋愛において初めからワンルートしか用意されておりませぬ。ご了承ください。
成人…15歳になると、この世界では『ジョブ』と言うものを授かる。『剣士』なら【スラッシュ】など、『農耕士』なら【土壌改良】など、そのジョブに付随するスキルを覚えたりもする。その人物の一生を左右する重要な儀式なのだ。
「あなたのジョブは『金喰虫』です。」
神官が私のジョブを告げた。あまりに不吉な響きのジョブに周囲が凍る。儀式を行うと皆ハッと自分のジョブの本質、スキルの詳細などを魔法のように自覚する。儀式を行った直後に私は自分の能力を自覚したけれど、正直「これはちょっと…」と思った。
『金喰虫』の本質は『ショッピング』。スキルは【スキル購入】が一つだけ。この【スキル購入】では自由に手元に出せる『タブレット』を操作して、自分の好きなスキルを好きなだけ取得できる。どう?夢のようなジョブでしょう?ただし、『お金があれば』という但し書きがつく。購入したいスキルがレアであればレアであるほど、購入金額はつり上がる。私が一国の姫ならこんなにありがたいジョブはないだろう。お金を出せばそれだけで、どんな有能な人物にもなれるのだから。しかし貧農の家に生まれた私にこれ以上無駄なジョブもない。「お金を出す」ただそれだけのことが如何に難しいか。私は肩を落とした。
案の定私は『無能』の烙印を押された。
両親は優しかったけれど、腫れ物に触れるかのような扱い。
農夫が普通持つとされている【土壌改良】でさえ、購入しようとすると50万ギルかかる。王都の平商人の月給が22万ギルだというのに。我が家では30万もあれば1年は食べていける。我が家における1年以上の蓄えを費やして、やっと私は農夫の初歩。しかも農耕士ならジョブレベルが上がれば農耕士のスキルを新たに覚えるだろうけど、私のジョブは金喰虫なので、多分ジョブレベルが上がっても、増えるのは購入関連のスキルだ。私はエルフで無駄に寿命が長いから、時間さえあれば使い物になると思うけど。
「なあ、ジゼル。俺と一緒に冒険者にならないか?」
誘ってきたのは幼馴染のランディだった。
「でも私、『金喰虫』だし…」
「ほら、あれだ。とりあえず稼いでいいスキル買って、そのスキル使ってもっと稼ぎゃあいいんだよ。俺『剣士』だし、使えるようになるまで、俺が守ってやるよ。」
「ランディ……」
正直感動した。私みたいな金喰虫とパーティー組んでくれるだなんて……ただの幼馴染だと思ってたけど、ぐっと来た。
***
というわけでパーティーを組んだ私たち。とんとん拍子に付き合って熱々のバカップルパーティー!!
…………にはならなかった。2年間パーティーで共に働いた。サテライトシティの緑のダンジョンでちまちま一緒に働いた。分け前はランディ8割の私2割。実際活躍してないから仕方ない。別にスキルを持ってなくても普通に攻撃判定はつくが、スキルを持っているのと持っていないのでは威力が格段に違う。2年間で70万と少し稼いで私は【スラッシュ】のスキルを買った。『剣士』として最も初歩な【スラッシュ】のスキルは50万ギルした。ランディは280万以上稼いでいるはずだが、奴はそれで可愛い奴隷を購入していた。戦闘にも使える奴隷だとかで『槍士』で【刺突】を持っている奴隷だ。しかし見た目の方を重視したのはあからさま。綺麗な金髪にぱっちりした青い瞳のボンキュッボンバディの16歳。吐く吐息すら甘そうな薔薇色の頬の美少女である。勿論毎晩隣室ではギシギシアンアン。とてもうんざりします。私はスキル購入の為に爪に火を灯すような生活をしているが、奴も一応節約している。理由が…
「パーティーメンバーの増強は必要だぜ?」
「まあ、確かにね。」
奴隷のシンシアちゃんを合わせても私たちは3人パーティー。迷宮を潜るにはいささか心もとない人数である。
「だからと言って、奴隷だけで埋める必要はないんじゃない?」
奴は新たな奴隷を買おうとしているのだ。勿論美少女。アドリアーナと言ったか……所持金だけでは買えず3ヶ月取り置きしてもらう約束を奴隷商としているらしい。今の奴の所持金が40万ギル強。アドリアーナちゃんは210万ギルだそうだ。3ヶ月で170万稼ぐとか絶対に無理だと思う。考えてもみろよ。お前は2年で280万ちょっとしか稼げなかったんだぞ?
「シンシアもパーティーメンバーになったし、ジゼルだって【スラッシュ】買ったろ。行けるって!20階層まで潜ろうぜ。」
「無理だって。まだ買ったばかりなのよ?今まで最高でも8階層までしか潜れてないじゃない。」
守銭奴の私が言うことじゃないけど、命はお金では買えないのよ?怪我したらうちには治癒術師がいないからポーション頼りになって、逆に出費する可能性だってあるし。
「なぁんか、面白そうな話してるわね?アタシも混ぜてちょうだいな。」
声をかけてきたのは隣で飲んでいたお兄さん。私の思考は一時停止した。お兄さんがものすごい美男子だったからだ。艶やかで色っぽい黒髪にとろりとした蜂蜜色の瞳。悪戯に微笑む左の目尻には泣き黒子。鼻はすっと鼻筋が通って高く、唇は形が良い。顔のパーツの配置が絶妙だ。機嫌よさげにグラスを傾ける。すごく色っぽくて凛々しい顔立ち…体つきもムキムキでもガリガリでもなく、均整がとれていて凛々しい。黒の巻き角が頭の両サイドから生えている、恐らく魔族。魔族もエルフと同じく長命種だから、見た目で年齢は判断できないが、見た目の年齢は26,7歳と言ったところだろうか。そんな美男子のお兄さんがよりにもよってオネェ言葉で喋ったのだ。声は男らしく、それでいて柔らかで耳当たりがいいけど。
「ふふ。アタシはベルファーレ。ベルって呼んでちょうだい。見ての通りの治癒術師よ。」
確かにベルさんは治癒術師のケープのついたローブを纏っている。肘くらいまでのショートケープで、シャープな三角の襟がついている。襟の三角の下点から裾に向けて4つ縦にボタンがついている。襟の中心は白いフリフリとしたクラバットがついている。因みにケープとローブの色は黒。ところどころ金糸で縁取られ、ちょっとお洒落でドレッシーな感じだ。
「私はジゼルです。『金喰虫』というジョブです。」
「ランディ。『剣士』だ。こっちはシンシア、『槍士』だ。」
シンシアちゃんがぺこりと頭を下げた。
「『金喰虫』……聞いたことのないジョブね。」
「結構珍しいみたいです。お金でスキルを買えます。スキルは高価なので、まだ1個しか持ってないですけれど。」
「どうやって買うの?」
私はベルさんにタブレットを見せた。タブレット自体は他人にも見える。操作は私にしかできないけれど。
「あら、面白い。触って操作するのね。へえ、結構色々なスキルが買えるじゃない。あら、300万ギルで魔術も覚えられるのね。」
「ええ。でも300万ギルで覚えられるのは、ファイアとかクリエイトウォーターとかで、そんなに強くないんですけれど。それに結構高いし…」
実家なら慎ましやかに10年食べていける額だ。他のスキルを買うのを一切我慢して貯蓄しても8〜9年かけないとファイアが取れない。ファイアなんて着火にしか使えないし、そんなの買うくらいなら火打石を使えばよくね?って感じであんまり意味ないし。ファイヤーボールくらい使えたら役に立つかもしれないけど。でも『魔術師』のジョブに就く人はかなりのレアで、魔術は使えればかなり好待遇なのもわかっているので、いつかは取りたいと思っている。
「でもジョブの熟練度とは関係なしに好きなスキルを買えるのでしょう?すごいわ。」
「あはは。お金があれば…ですけどね。」
役に立つスキルは軒並み高い。魔法はレアスキルだから数百万は当たり前。
「それぞれのスキルの『できること』も説明文として書かれているのね。ねえ、こっちのちょっと読ませてくれないかしら?」
「はい。」
ベルさんは夢中でスキルと金額を計算しているようだ。自分が取得できるわけでもないのに楽しそうに。酒の肴にでも楽しんでもらえればありがたいけどね。因みに此処は宿屋の1階の食堂で、今は夕食時で、ベルさんの隣にはベルさんのパーティーメンバーであろう、ストレートの黒髪をポニーテールにした、美しい女性がもりもりご飯を掻きこんでいる。よく食べるなあ。
「ねえ、よかったら、アタシたちと組んで潜ってみない?とりあえずお試しで。」
「ベルさんもパーティーメンバーを探されているんですか?」
「そうなのよ。今まで7人で潜ってたんだけど、丁度解散しちゃったところで…今のパーティーメンバーはアタシと妹のシータだけなの。」
「よろひく!」
シータさんがご飯を口に頬張ったまま挨拶した。ものすごーい美男子のベルさんの妹さんだけあって、シータさんもものすごい美少女である。なるほど、面立ちは結構似てるかも。シータさんは17,8歳くらいの見た目の超美少女だ。前髪はぱっつんと揃えられている。髪型はポニテ。頭の両サイドには黒の巻き角。パッチリした瞳の色も蜂蜜色で、ベルさんと同じ。服装はベルさんとは打って変わって装飾のない実用一辺倒な感じだ。ベージュのシャツに黒いズボン。革鎧を身につけ、帯剣している。多分『剣士』。
「私は今の所持スキルは【スラッシュ】だけなので、足手まといにしかならないと思いますよ?基本荷物持ちポジションですし。」
「兄殿はキミの将来性に期待しているのだ!キミのジョブは面白い。金さえあれば化ける。組んでみたいと思うのも無理はない。ならばあとは一緒に組んでみて、人格や相性を確認してみたいと思うのは道理だろう?」
シータさんがこちらを見た。その『金さえあれば』が一番高いハードルなんですけどね。
「私はいいですけど、ランディとシンシアちゃんはどう思う?」
「そうだなあ…」
ランディはシータさんのことを舐めるように見ている。ランディは女体の味を知ってからすごくスケベになったと思う。元から女好きの素養はあったと思うけど。多分私に声をかけてくれたのも、私がまあまあ可愛い女の子だったからだと思うし。私は淡いブラウンの髪に黒々と濡れた大きな瞳。肌は白絹のように滑らか。鼻はツンと小ぶりで、ぽってりとした唇は桃色。エルフ特有のとんがり耳と華奢な体。ええ。微乳ですよ?戦闘中邪魔になると困るので、髪は編んで後頭部でお団子にしている。髪は下ろしている時は緩く波打っているけど。
「良いぜ。お試しな。ダメそうなら組まねえぞ。」
「ええ。結構よ。」
「明日、朝8時に食堂な。」
「ええ。」
朝8時って遅いと思うでしょ?でもそうでもないんだよ。ダンジョンに入るための物資を仕入れなくちゃならないから。その役目は主に私が担っているけどね。安く仕入れて、明細を帳簿につけて、後でランディと割り勘するのだ。
シンシアちゃんは200万でした。安いと思うでしょうが、安いんです。
奴隷もピンキリあって、能力に優れてる奴隷はお高いです。
シンシアちゃんやアドリアーナちゃんは美しくて若い女性だという以外何の取り柄もない奴隷なのです。スキルは一応持ってるけど戦闘能力皆無。読み書きが怪しい、算数はむりぽ。礼儀作法?なにそれおいしいの?って感じです。
能力充実させると軽く3〜5倍くらいのお値段します。
ランディの懐では到底手が出ません。
生活費考えると稼ぎがちょっとおかしかったので修正しました(´-ω-`)