表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

廃墟の遊園地でのコスプレイベントにバイトとして参加してみた。

作者: 西東京英

挿絵(By みてみん)


廃墟の遊園地でのコスプレイベントに参加してみた。バイトとして。

時給1,500円。こんな田舎じゃ珍しい。

でもこんな田舎だからコスプレがバイトとして募集されるんだなと思った。

東京じゃバイトなんかじゃなくて自発的にみんなやって来るだろう。


コスプレには正直憧れがあった。

もちろん女の子のコスプレは大好物。

じゃなくて自分がする方は、本当に憧れ。


バイトだから、という言い訳と

モンスターの着ぐるみだから、恥ずかしくないと思ったからだ。


面接も着ぐるみを着たまま行なわれた。

もし素体だったら、採用されなかったかも。


面接会場から着ぐるみ着たままバスに乗り、遊園地へ


遊園地の駐車場はガラガラだった。

まぁ深夜12時スタートのイベント。あと2時間あるから。


表の駐車場を通りすぎて裏のゲートからバスは遊園地に入り

のろのろとバックヤードの暗い道を進んでいく。


微笑みが固定されたスーツの男がマイクを持ち説明する。

面接の時の男のようでもあるし違うかもしれない。

覚える気は初めからないのだけど。


「このイベントの説明をいたします。

みなさんはいわゆる鬼ごっこの鬼です。

来園者はみな逃げ回りますので捕まえてください。

また来園者の中にはコスプレの一環として武装している方もいます。

その方達は武器による攻撃が許可されています。

とはいえゲーム用の銃で、当たれば微弱な電流が流れる弾を使用していますので

電流を感じたら、その場で復帰タイマーがなるまで倒れていてください。

タイマーが鳴れば、また鬼ごっこを開始してください」


バスを降りて建物に入る。

ここはミラーハウスだったらしい。

鏡が割れずに残っているのが不思議だ。

鏡に映し出されて増殖したモンスター軍団は数千の大群だ。

賞味の人数は60人くらい。

でも、田舎でよくこんなに集めたなと思う。

もしかして都会から来てる人もいるのか


みんなぬいぐるみを着てるので会話もない。

かといって気にならないのはBGMのせいか。

どっかで聞いたことのあるクラシック?

戦争映画のテーマ曲だったかもしれない。


スーツの男が台車にダンボールを積んでやってきた。

「開始時刻までここで待機して

スタートのサイレンがなったら外に出て行動を開始してください。

あとは流れでおねがいします。


これから配るものがあります。

みなさんの健康を考えて

水分塩分を補う補給剤をお渡しします。

疲れや異常を感じた場合はこれを服用後

ドリームキャッスルの城内の運営テーブルまで来てください。」


プラスチック入りの液体が全員に配られた。

小学校で朝顔の鉢植えを育てたときに地面に刺したようなアンプルだった。

ごていねいに着ぐるみの腰のところにポケットがあった。

手馴れたようすでそこにアンプルを入れるほかのモンスターを見てまねた。


「開始まであと30分です」



トイレを探してたらミラーハウスの外に出てしまった。

まぁまだ時間はあるから散歩でもするか


メリーゴーランドの前まで来たんで馬にまたがってみる。

ちゃちいと思ってた建物だが

ナチュラル老朽化で趣が出てる。

観覧車が見える。

ゆっくりと周っているように見えた

錯覚か?

目を凝らしていると

「何をしてる?!」

後ろからの声に飛び上がる

スーツの男だった。

「まだ開始の時間ではないぞ

控えに戻って舞っているようにお願いします。」

最後には冷静に敬語にもどったのが逆に気味が悪い。

とっとと退散した。


観覧車はやはり回っていた。

こうなりゃちょっと乗ってやろう

と周りに誰もいないのを確認して、やって来たゴンドラのドアを開けた


本日一番の驚き!


上半身が人間で下半身が獣の女の子が乗っていた。


声を上げる間もなくその女の子に引っ張り込まれる。


よく見たら、よく見れたので見たのだが

モンスターの着ぐるみの上を脱いでブラ?スポーツブラ

だけになった女の人。推定年齢18~22歳だった。


「え、っとお、お疲れ様です」

挨拶をしてみた。


女の人、以後ブラと呼称 が聞いてきた。

「このイベント、何回目?」

「はじめてですけど」

女の人と話すのは3年ぶりです、、、

ブラは刃が爪のようについた武器を点検しはじめた。

「そっか、どこまで知ってるの?」

急に顔を上げて見つめられた。

「!?」

「噂を聞いて参加したんじゃないの?

 時給1500円、生き残りの特別報酬は300万円の頭割り」


このイベント。

単なるバイトじゃないかも知れないという予感はあった。

ネットの噂。


いろいろ聞こうと思ったのだが

このブラの落ち着きが自分の予想を肯定しているようで

何も聞く気になれなかった。

始まればわかる。


静まりかえった中にゴンドラが軋む音が

さっきミラーハウスで鳴っていた曲の弦楽器のようにも聞こえる。

ブラは双眼鏡を遊園地の入り口からドリームキャッスルまでを2、3度往復させた。


「じゃ、私は行く。

始まってから動いたんじゃやられちゃうから」

ブラはアンプルを取り出し、片手で先っぽを割り

イッキに飲み込んだ。

「このイベント、廚2力が試されるから、がんばって」

モンスターの着ぐるみを装着しゴンドラの扉を颯爽と開け

彼女は行ってしまった。

が、このゴンドラ、観覧車の頂上じゃなかった?




サイレンが響き渡る

ミラーハウスの鏡がビリビリと振動するくらいの大音量。

ずっとブラの顔と言葉を反芻していたオレは我に返った。

誰かが、雄叫びを上げた。呼応するように腕をあげ雄叫びを

上げていくモンスターたち。

あきらかについていけてないモンスターもいる。オレ含む。

そう、初めてじゃないヤツらがいる。


「生き残りの特別報酬は300万円の頭割り」

ブラの言葉がリフレインする。


ゾロゾロと動き出したオレたちは気づくと走り出していた。

「生き残り」

耳の後ろでボコボコと脈が速くなる音が聞こえる。

知らぬうちに叫んでいる自分の声も。



俺達は来園者を襲うような大げさな芝居で迎える。

ものすごい速さで走ってくるのがいる。

全身を白いタイツで胸に赤い日の丸、頭はちょんまげだ。

日ノ本マンだ。マーブルコミックで人気の日本キャラだ。

その後ろから、北欧バイキングのコスプレをした男が続く。

ヴァルハラ。格ゲーでおなじみのキャラ、こいつのコンボは

始まったら絶望的と言われるくらいで、一般ピーポーも

ネタとして使う。


ゆっくりと歩いてくる集団も目の端に写る。


あちこちで嬌声があがる。

悲鳴も聞こえてくる。

もうやられた観客もいるのだろう。



突然、攻撃を受けた。

日ノ本マンのコスプレ野郎だった。

日本刀を持っている。

尻尾のようなものを持って得意そうにブラブラまわしている。

オレの尻尾が斬られたのだ。


なんだか恥ずかしさを覚えて俺は逃げた。

逃げて走っている自分にみじめさを感じる。


アクアツアーまで走りも走った。

園内にあの戦争映画のテーマ曲が轟音で鳴っていることに気づく。

断続的な悲鳴も。


なにかが水面に浮いている。

見れば、モンスターが3匹、背を向けて浮いている。


噂は本当だったんだ。

人狩りイベント。


ギャー という声がして

目の前に水柱が立った。

海賊船の上からモンスターが落ちてきた。

首がない。


船べりに立ってふざけてよろめいている海賊のコスプレの男達

月の光を背にして表情は見えないが、笑っているのだろう。


殺される

生まれて初めて味わう感情だった。


逃げるためにふりむこうと思った瞬間

残った右足の甲に激痛が走った。

見ると矢が刺さっていた。

親指と人指し指の間に。


船から飛び降りた男がオレに狙いをつけるような構えをする。ボウガンだ。

痛みの勢いで足の矢を抜いて、逃げる。ただ逃げるのはなくジグザグに走って逃げる。


右のほうから叫びが聞こえてくる。

マラソンのトップグループのように一団でモンスター達が逃げてくる。

その群れに紛れ込んだ。

みんなどこか傷を負っている。

このままみんなと一緒に遊園地を脱出できるのではないか


しかし、その集団はジェットコースターに向かっていた。

なぜそこへ向かうのか、誰も考えていない。

パニック状態だった。

追い立てれているのか、先導されているのか、集団はジェットコースターのコースに

侵入した。

そしてハンター達が乗ったジェットコースターに全員ひき殺された。


オレはドリームキャッスルに向かった。

モンスターの死体が道に転がっている。


突如サイレンが鳴り、その余韻が消えぬ間に

あのスーツ男がしゃべりだした。

「モンスターの皆様、お疲れ様です。

 体調維持のために配布のアンプルの服用をお願いいたします

 繰り返しますー」



薄暗い城内に入って大広間を目指す。


そこでは一匹のモンスターをハンター達が取り囲んでいた。

ハンターは戦隊グループのコスプレをしていた

モンスターは手負いだったが、その動きで観覧車で出会ったブラだと

オレにはわかった。


赤いボディスーツの男が身をくねらせて言う

「今回のクスリの力はすげーなー、こんなに手ごわいモンスター連中は初めてだったぜ

 せっかくの女の子モンスターちゃんだから生身にしてから殺そうぜー」

正義感の強さからヒーローとして子供達に一番人気のリーダーの言葉とは思えない。

緑色の男がしぶしぶ杖のような剣でモンスターのスーツを切り刻むような

攻撃を与えていく。

しかしモンスターは反撃し、ぶれた緑男の剣檄が赤のリーダーに向かい

リーダーは無様に転倒した。

リーダーは起き上がりざま銃を取り出し、なんの振りもなく引き金を引いた。

モンスターの頭部が吹き飛んだ。

上半身の着ぐるみも吹き飛び、ブラをつけた半人半獣は石を模したFRPの床に倒れた。

「必殺爆神ガン」

決めポーズを取る戦隊。


オレはふるえる手でポケットをまさぐりアンプルを取り出し飲んだ。


なんだかわからない感情がわき上がってきた。

気がつくと涙が流れていて、

笑っているように口は開くが、泣いているような声が出ている。

獣が雄叫びを上げるとき、こんな感情なのか

喜びと不安が一気に押し寄せてきて、顔面と

のどと首の筋肉がとにかく、口を開こうとする。


感情はない、ただ目の前のこいつらを切り裂きたい


高く飛び上がる、

身体をひねると方向が変わる


指を最大限まで伸ばし、獲物に最大のエネルギーでぶつかるよう

大きな放物線を描き、ぶつかる瞬間爪を垂直に立てる

獲物がアゴがすっ飛んで、むき出しの舌と上あごから声にならない音がする。


それを再び空に飛び上がりながら見て、次の獲物に狙いをつける。

ヒザを折り曲げて獲物の頚椎を狙って落下する、コンクリートとヒザの間で

首の骨がブツギリになった感触を楽しむ


こんなにも獣のように暴れながら

学校の課外授業で野菜の収穫をしているときのことを思い出す。

好きな野菜をあっちこっち抜きまくった。あの心地よさは

多分生けるものを自由にする全能感だったのだ。

笑う?野菜を相手に全能感感じる俺を。


だっておまえら野菜じゃん

簡単に摘んじゃえるよ


自分のスピードで目がまわるが、それさえ攻撃力に加わる。


気づけば、周りは死体の山だった。


息を吸った。

ひんやりした中に血の匂いのする生暖かい湯気を吸う。



「ったく、だらしねーな」

暗闇に赤い光点。

匂いでタバコだと分かる。

ジッと音がして光点が密度を増す。

数秒後に白い煙。

「今回はなかなか楽しめそうだ」

影が動いているのかと思ったら黒ずくめのウェットスーツみたいなのを着た

ひょろ長い男だった。


その後ろにも同じ格好をした数人。

ヴォルフガング機工部隊

もともとは実在する言われる特殊部隊をモチーフにした

青春もののゲーム、カルト的な人気から深夜アニメ化された。



「これは訓練ではない

 実戦に限りなく近い、、、

 遊戯だ」


部隊長のキメセリフをひょろ長い男が言う。

オレもPCの前でつぶやくセリフ。




こいつらの強さは本物だった。

というか本物の軍隊で、これはこいつらの極秘裏の訓練なのではないか。


オレはワイアーガンで両腕をもがれた。

流れる血とともに薬物の力も失せ、身体が縮んだ。

もういつものオレだった。


夢から覚めて、朝とも夜ともわからないところから

現実を把握しなおすとき

猛烈な絶望感が襲ってくることがある。


あの感じ。


オレはなにも変わらぬニートだった。

こんな楽しい遊園地でも最後は負け、ひれ伏す。


こんな非現実な設定もオレは受け入れている。

こいつらは、なんかしらオレのようなヤツを集めて

狩りを楽しむ勝ち組の層なのだ。


ネットの噂では、こすりまくられたネタだ。

人間狩り

軍の人体実験

廃墟のモンスターの噂

ひきこもりの集団自殺



不治の廚2病のオレが望んでいたようなことが現実に存在した。

ただ、俺が夢想していた世界でも結局オレは負け犬だった。




その時、むずむずとした何かが動くのを感じた。

声のようなもの、言葉のようなもの

地面から、いや地面の奥の地中から、自分の体に響いてくる声だ

闘いたい、闘いたい、倒したい、倒したい



手も足も動かなかった

ひざまずいて睨んだ

いつか見た漫画のようにアニメのように

目から火を噴くかのうようなカメラ目線のイメージで

念じた

吹っ飛べ、吹っ飛べ、吹っ飛べ


「あ?なんて」

「こいつ、なんか言ってる」

ヴォルフガングの隊員達が集まってきた


吹っ飛べ、吹っ飛べ、吹っ飛べ


「ヒャハハハハー

 こいつなんか超能力出しそう」

「目がアブねー」

「でも今回のやつらは面白かったな

 闘い方がゲームキャラみたいでさ

 弱いけど?戦略性あるみたいな」

「そういうヤツらを釣ったからな。

 ゲームやアニメでのチートの力が現実に発揮されることを夢想してるヤツら」


「みてください

こいつなんてまだ廚2病全開ですよ

超能力でも発動しそうですよ


吹っ飛べー 

吹っ飛べー


「この薬はそんな効果あるんですか」

「いや一時的にリミッターを外した筋力を使えるようにするものらしいけど」


そうだ、リミッターだ

もうこいつらにリミットはいらないんだ

俺は本当にモンスターなんだ


吹っ飛べ!


しゅぷあぁ


炭酸のペットボトルを開けたような音がした。

俺の前にいる男の頭が吹き飛んだ


そうこなくちゃいけない

オレの隠された能力がついに目覚めたのだ!

オレはモンスターだ!

本当のモンスターはこうやって生まれるんだ!


ようやく俺は主人公になれた。

まずはこのエキストラどもを掃除しよう

長い夜は始まったばかりだ

















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ